第6話 裁判所は敵か味方か?
父親の一周忌を前に、遺産分割調停を行う予定の甲裁判所を訪問することにした。
ネットで調べると、遺産分割調停の申し込みは、『相手方』の住所地を管轄する裁判所になっているらしい。
兄弟全員の都合を考えると、この裁判所が一番適していると判断される。
甲裁判所までの距離を考えると、
A男宅から~約1時間
B男宅から~約30分
C男宅から~約20分
D男宅から~約3時間
である。
D男宅を管轄する裁判所だとそD男以外がプラス3時間分遠くなる。
A男宅を管轄する裁判所だとD男が更に遠くなるしB男もC男も遠くなる。
そうなると、甲裁判所一択だろう。
そういう理由で決めた甲裁判所の玄関に入り、掲示物を確認するも遺産分割調停専用窓口などの表示はない。
こういう公共の施設では、玄関先に主要な案内があり、初訪問の施設だからと言って、そのまま適当に導線に乗って、辿り着いた受付に行くと
「受付はあちらですよ! きちんと看板見てから入ってきてください!」
と怒られることがままある。
専用窓口がないことを十分確認して、甲裁判所の受付に立つ。
緊張しながら職員に用件を伝えると、申込用紙を記載させられた。
住所、氏名、年齢、簡単な用件について鉛筆で記載すると、玄関の長椅子で待っていてくれと言われる。
受付を出て、長椅子で待っていると、若くて茶髪でチャラ系の男性職員が声を掛けてきた。
この職員をチャチャさんと呼ぶことにする。
チャチャさんに案内され、談話室的な小部屋に入る。
そこで遺産相続調停に必要な提出書類一式と説明書を渡されると、具体的な内容について聴取される。
被相続人(亡くなった父親)、その配偶者(父親の
相続人の名前(私たち兄弟姉妹、苗字は聞かれない)、生年月日、居住地。
それらを基に、提出書類の説明書に沿って型通りの説明を受ける。
・ 申立書(必要書類)の提出先は、申立者以外の相続人の居住地を管轄する裁判所ですよ
・ 必要書類はコレコレですよ
・ 収入印紙1200円分ですよ
間違っても県証紙ではありませんよ
・ 非開示希望ができますよ
(非開示希望ですか? いいえと答える)
・ 遺産目録及び資料を提出してください
などなど、ただ説明書を読んでいるような感じの説明だった。
一旦説明が終わったので、疑問点を尋ねる。
『相続関係図』に、既に亡くなっている母親を記載するのか?
母親は生きていないのだから記載する必要はないと思うのだが。
それとも離婚していなくなった訳じゃないから、きちんと書いていた方が疑問を持たずに済むのか?
チャチャさんは途端に口が重くなった。
「書いても書かなくてもいいが……、一応名前を書いて死亡と書くように……かな」
とのこと。
そして一番確認しなければならない件について尋ねることとした。
遺産総額とは生前贈与を含むのか?
生前贈与分はどう記載するのか?
それとも記載せずに調停時に口頭で伝えるのか?
生前贈与は調停ではどういう扱いになるのか?
そもそも調停では何を聞かれるのか?
(この時点では、私は記載書類を全部読んでいないので特別受益欄があることに気が付いていなかった)
途端にチャチャさんは質問されるのが嫌いオーラを出し始めた。
席を立ちそうな気配を醸し出している。
何かきっかけがあれば、すぐに席を立つつもりなのが見て取れた。
席を立たれる前に尋ねるしかない。
返事はないが、質問を打ち切られる前に疑問点を速攻で尋ねることにした。
生前贈与された者がいる場合、その贈与された財産を遺産目録に記載するのか?
と質問したところ、
「要りません」(即答)
とのこと。
そこでさらに疑問が生じる。
生前贈与分は遺産分割の対象になるのではないのか?
なるよね?
本当に書かなくていいのかな?
書かないなら、どういうところで生前贈与されて、遺産の一部を貰っていることを証明すればいいのだろうか?
「生前贈与って、遺産分割の対象になりますよね。本当に書かなくても良いんですか?」
と質問する。
再度、必要ないとの回答。
本当かな?
なんかチャチャさんは胡散臭い感じがする。
なぜ書かなくていいのだろうか?
どこで生前贈与分をいつこの調停に載せるのだろうか?
疑問が沸き上がる。
喰いついて更に同じような質問をすると、
「書きたければ勝手に書けばいい!」(投げやり)
とのこと。
えっ?
まあ、そういうものなのか。
必要ないんだな
それでも、その言い方はないよな
と思ったところで質問タイム終了とのこと。
時間切れだそうだ。
質問時間は元々なかったとチャチャさんに言われた。
そこを答えてくれたチャチャさんには感謝しなければならないのだろう。
それでも疑問点を尋ねるのは普通だと思うのだが、裁判所の流儀が分からない。
これが裁判所のローカルルールなのだろうか。
正直、分かりやすい説明じゃなかったけど、書類を作っていれば更に聞きたいことが出てくるだろうから、その時に合わせて聞けばいいや、と思った。
その時なら質問を断られることもないだろう。
その日の相談は終了した。
※ 平日1日目
※ 費用0円
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