悪役志望は主人公に転生しました ※ただし悪役に転生したと勘違いしているものとする
カラスバ
第1話
悪役が好きだ。
……勿論これは創作の話であり、悪役という存在はいろいろな意味で許されない存在である事は勿論俺も理解している。
ここで言うところの『悪役』というのは最初に言った通り『創作』上の存在だ。
現実で『悪役』……犯罪行為とまでいかないとしても他人に対して悪い事をするのは文字通りの意味で『悪い』事である。
じゃあ、創作上の『悪役』とはなんぞやというと、俺はこれを『主人公の引き立て役』だと思っている。
つまりやられ役だったり、あるいは物語を動かすためのキーマン。
勿論その過程で悪事を働くかもしれないが、それはすべて物語を動かし主人公を成長させるためには必要な事だ。
そういう意味ではライバルキャラもそれに含まれるかもしれないが、ライバルキャラと言うのは第二の主人公的な立ち位置でもあるため、だから『悪役』はそんな彼らとかかわりを持ち成長させられるという一粒で二度おいしい的なところもあるかもしれない。
なんにしても『悪役』。
その存在の事を俺は好きだったが、何度も言うが現実で『悪役』をする事は出来ない。
現実は現実であり、物語と言うのは存在しない。
もしかしたら上位生命体的な存在がいて人間の生きるさまを物語として観察しているかもしれないけれども、俺はそこまで人間から離れた発想は出来なかった。
そして、現実の世界に『悪役』は必要とされない……と思う。
だから俺は『悪役』に憧れてはいるものの、現実でそれになろうとは一度としてしてこなかったのだ。
「で」
俺は、目の前にいる……ていうかなんか空中で浮遊している、いかにも偉そうな女性に目を向けた。
偉そう。
具体的に言うと、安直だが神話に出てくる人が来ていそうな服装で翼が生えてて、こう、なんていうか神聖的である。
「貴方は、えっと、誰ですか?」
「神よ」
彼女は名乗った。
「女神よ」
もっと他に言う事があるだろと思ったが、とはいえ彼女の事を何より表している自己紹介とも思ったので特に突っ込む事はしなかった。
「それで、えっと。女神さまが一体俺に何の用で?」
「貴方、これから異世界に転生してもらうわ」
わお、単刀直入。
「え、転生? 俺って死んだんですか?」
「がっつり死んだわね。死んだ理由に関しては――ああ、死んだときの事を思い出してしまうかもしれないから、今は話さないであげるわ」
「なる、ほど……」
どうやらよっぽどひどい死に方をしたらしい、俺は。
多分苦痛を伴うタイプの奴なのだろう、だとしたら思い出さない方が良いかもしれない。
彼女の善意を素直に受け取る事にしよう。
……それにしても、そうか。
異世界転生か。
それを素直に嬉しいと思うかどうか、第二の人生を送れるのだからそれはきっと良い事なんだろうけど、しかし異世界と言うのにはそこまで嬉しいとは思わない。
ていうか何なら治安とかの事を考えるとやっぱり現代に転生した方がなー、魔法とかあったとしてもなー。
「貴方はとある物語の悪役に転生してもらうわ」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
マジで!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「早く転生させてください、何をすればいいですか?」
「は、話が早くて助かるわ……」
若干ドン引かれているような気がしたが、気にならない。
なんてことだ、世界は俺に悪役をしろと言っているようだ。
まさに合法、合法悪役だ。
合法悪役、なんて素晴らしい言葉なのだろう。
「じゃあ、早速転生させるわね」
「はい!」
俺がそう答えると、女神様の方から神々しい光が放たれ始め、そして俺の意識はふっと途切れた。
◆
そして、女神は「ふっ」と笑った。
素の美貌でもギリギリ隠しきれないほどの邪悪な笑みだった。
「まあ、悪役じゃなくてその世界の主人公なんですけどね……悪役だと勘違いした主人公である貴方が、その世界に混沌をもたらす事を、祈っていますよ?」
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