第2話 まずは、自分の無力を認めることから

 この二週間のあいだ、俺たちはほとんど魔法に関わるものに触れていない。

 せいぜい、魔法使いたちが箒に乗って空を飛ぶ姿を眺めるくらい──それもごく稀にだ。


 妹もさすがに、この二週間の消耗にうんざりしているようだった。


「お腹すいたぁ、お兄ちゃん。」

 皋月はベッドに突っ伏して、見るからに力が抜けていた。


「もう少し待てよ。佐藤さんが、今日はついでに朝食を持ってきてくれるって言ってたろ。」


 昨晩、佐藤さんはわざわざ客室の電話を鳴らしてきた。


 ――ジリリリリ!


「はいっ──星野です!」

 皋月は素早く受話器を取る。


『佐藤だ。明日、お前たちに持っていくものがある。何か食べたいものはあるか?』


「あるある! 私はおでんがいい! お兄ちゃんは?」

「誰だ?」

「佐藤さん。朝ごはん買ってきてくれるんだって。」

「うーん……イギリスといえば、やっぱり本場のブレックファストだろ? ていうか、おでんってなんだよ、人を困らせるな。」

「それで決まり。」


 ガチャッ。電話はあっさり切られた。


 向こう側の佐藤さんがどんな顔をしていたのか、俺には想像もつかない。

 だが、どう考えても眉間に皺を寄せていただろうとしか思えなかった。


 現在に戻る。

 一番つらいその時、「ギィ」と音を立てて扉が開いた。


 ベッドに横たわる俺たちの視線の先、佐藤さんが左腕と腰に本を抱え、もう片方の手には袋を提げて入ってきた。


「朝食を持ってきた。」


 まさに救世主降臨。

 タイミングが完璧だ。俺たちはもう腹ペコで限界だったのだ。


「お兄様! お願いします、私に食べさせて!」

 皋月は残りわずかな気力を振り絞り、俺に甘えた声をかけてくる。


「はぁ──……」

 仕方なく、わがままな妹に応じるため、俺はしぶしぶベッドを降りた。


 数メートル先のテーブルまで歩き、朝食を手に取る。ついでに佐藤さんが一緒に置いた本の表紙に目をやった。


 タイトルは『魔法基礎理論』。大きさも厚みも、学校で配られる教材とほとんど変わらない。


「佐藤さん、これは?」

「今週から数日おきに授業をする。お前たちに魔法の内容を一歩先に理解させておくためだ。」


 佐藤さんは豪快にテレビ前の二人掛けソファへ腰を下ろした。


 ……うわ、これは詰め込み教育の匂いしかしない。


「どうして今になって始めるんですか?」

「……ちょっと面倒なことがあって、時間がかかった。」


 自分が持ってきた二冊の理論書を見やりながら、佐藤さんはこれまで以上に疲れきった顔を見せた。


 まさか、これらは佐藤さん自身が手配したのだろうか?


「お兄様……お久しぶり……」

 その時、ベッドの上で怠惰な雰囲気を漂わせていた妹が、ソファの後ろからひょっこり現れた。

 彼女はゾンビの真似をしながら、両手で俺の肩を力いっぱい掴む。


「うわっ! 本当におてん買ってきたんだ!」

 皋月はそのままソファを飛び越え、さっきのだるそうな姿はどこへやら。


「早く食べなさい、授業を始めるから。」


 俺と妹は円卓の前にあぐらをかいて座った。

 今の彼女は授業中のように真剣で、新しい趣味に入ったばかりのオタクそのものだ。


「まず、魔法、魔術、魔力――これらの言葉をどれくらい理解している?」

 佐藤さんはソファに腰を下ろし、足を組んでややリラックスした姿勢で問いかける。


「うーん……広い概念から狭い概念への関係、って感じですかね?」

「そうそう、魔法は魔術や魔力の総称――ということ?」


 まず俺が意見を述べ、続いて妹も自分の考えを加える。

 向かいに座る佐藤さんは、それを聞いて思案するように軽く頷いた。


「なんというか……さすが普通の家の子供たちだな。理解は近いが完全ではない。では、僕の説明を聞きなさい。」

「よろしくお願いします。」

「魔法とは、比較的シンプルで直接的に魔力を現実に干渉させる方法を指す。例えば一から二、三、四……と百まで直接加える、といった具合だ。

 一方、魔術とは、公式を組み合わせて組み立てるもので、梯形の公式を使って前者の結果を求める、そんなイメージだ。」

「……なるほど、わかった気がする!」

「では続けよう――魔力とは、一般人やまだ覚醒していない魔法使いには観測できないものだ――」


 次は固有名詞の解説だ。

 俺と皋月は熱心にノートを取る。俺と比べると、妹の方がもっと集中している。

 時折、質問も飛び出す。さすが才能ある妹だ。


 しかし、俺は半分聞きながら眠気に負けてしまった。


「ねえ、先生」

「助教だ」

「では、眠くならない魔術はありますか?」

「書けるものは全部ある」


 夢うつつの中、俺は会話をぼんやり聞く。すると、太ももに妹の尻からの強烈な一撃が加わった。

 彼女はいきなり俺の上に座り、肩を揺さぶり始める。


 佐藤はため息をつき、「兄妹仲良しだな」という目で俺たちを見ながら、どこから取り出したのか分からないコーラを一気に飲み干す。


 しばしの戯れの後、再び授業モードに戻る。


「魔力保持者は六歳から十五歳の間に覚醒する」


 佐藤は説明を続ける。

 すると妹の目がぱっと輝き、両手で机の上の水のコップに向かって暴走し始める。


「なにしてるの……?」

「水O式をやってみる」

「そうやって覚醒するわけじゃない……」


 佐藤の容赦ないツッコミが飛ぶ。


「残念だが、あなたたちは自主覚醒できないタイプだ」

「どういう意味?」

「あなたたちの生家は平凡な家庭だろう?魔法使いの脳構造は普通の人間と少し違う。大脳は魔力を探知・感知し、小脳は接続、脳幹は魔力の生成を担当する。

『自主覚醒できない』という部分も難しくはない。あなたたちの祖先も魔法使いだったかもしれないが、長年魔法界と離れていたため、能力は世代ごとに急速に退化したのだ」


 重要な内容が山のように押し寄せる。

 俺は聞いた内容を手で書き写すので精一杯で、理解する暇もない。


 よく考えると……この一節って、要するに俺たちの脳みそが駄目ってことじゃね……?


 夕方までに、やっと今日の授業内容を消化し終えた。


「もし後で分からないことがあれば、夜に職員棟に来なさい。三階にいるから」


 俺たちは玄関先で佐藤を見送る。

 佐藤が去った後、妹がまとめた資料と俺のノートを照らし合わせ、新しい内容を書き加えた。


 魔法使いの階級は八種類あり、低い順に鉄鹿アイアン・ディア銅鷹ブロンズ・イーグル銀狼シルバー・ウルフ金虎ゴールド・タイガー、白金の獅子プラチナ・ライオン石英九頭蛇クォーツ・ヒュドラ魔龍デモン・ドラゴン古龍エンシェント・ドラゴンとなる。魔術のランク付けにも使用される。

 佐藤は金虎ゴールド・タイガーだ。

 そして俺たちのように魔法使い図鑑に登録されるだけでも、最低ランクは鉄鹿アイアン・ディアを持つ。


 次に重要なのは、魔法使いの才能を持つ者が十五歳まで覚醒しなかった場合、「非常態アノマリー魔法使い」と分類されることだ。

 これは「通常の時間帯に覚醒できない」ことと、「協会が定めた六種類の通常魔力,金、木、水、火、土、虛,元素に属さない力を持つ」ことを意味する。

 この二つの条件はほぼセットであり、前者が起きれば必然的に後者も発生する。


 最後に「非常態アノマリー元素」について。

 これはどんな形でも現れうる雑多な状況で、しかも高リスクを伴う可能性がある。例えば「能力使用で自身の体温が低下する」といった極端な副作用などだ。


 俺は後半の内容を全部線で囲った。

 間違いなければ、これが俺たちの歩む道になるだろう。


 数日後、【魔法理論】の読解で詰まった俺は、佐藤の指示通り職員棟へ向かった。

 もちろん妹も一緒だ。


「そんなに楽に読めてたんじゃないの?なんで来たの?」

「だって、お兄ちゃんが夜道で怖くてお漏らしするんじゃないかって心配だから──」

「お化け屋敷じゃないんだから」


 この魔法の世界では、実際にそういうことが起きる可能性もあるらしい。

 ただし、恐怖ゲームが苦手なのは俺じゃなくて妹の方だ。


 夜の魔法学園は、明かりが消えても幽暗になどならない。

 むしろ煌めく星空が俺たちの夜道を照らしてくれる。


 職員棟への道すがら、俺たちは首を上げ、静かで輝く夜空を眺める。

 三階、ここが佐藤のフロアだ。

 場所を教えてくれなかったため、ほとんどの部屋を開けて確認する羽目になった。


 最後に入ったことのない扉の前で、ようやくここが佐藤のオフィスだろうと判断する。


「運が悪いな、ガチャで天井た気分だ」

「そうだね……」


 そう言いながら扉を開ける。

 ガラス窓の前に置かれた机の周りには、皋月の胸の高さまで積まれた本の山。

 扉正面には二つのソファ、間に古めかしい木のテーブル。


 その一席に、見覚えのある顔がいた。

 ただし、佐藤の向かいにはもう一人、女性が座っている。


 好奇心から観察する。

 水色の長髪はソファに届きそうで、瞳は鮮やかな緑色。横顔は遠目でも若く、美しい。俺たちと同い年くらいだろうか。

 いや、佐藤の例を考えると、見た目で判断してはいけないな。


「すみません、他に人がいるようなので、先に失礼します」

「ええ」


 彼女は立ち上がり、俺たちの方に歩み寄り、微笑みを浮かべて挨拶する。

 その淡い香りと笑顔に、正直少しドキッとした。

 あまりに反則すぎる。


「お──兄貴、心臓ドキドキしてる?」

「な、なに……?」

「おほ──愚かな兄上、顔赤くなってるじゃん」

「本当か!?すごく赤いの?」

「兄ちゃん、春を探しに行くつもり?」

「お前こそ答えろよ」


 隣からカップと皿が軽く触れ合う音がする。

 俺と妹は音の方を見る。

 佐藤はお茶を運び、足を組んで俺たちを見ている。まるで漫才を見ているかのようだ。


 どうやら深夜まで働いたらしく、眉間に皺が寄り、いつもより険しい目つきだ。

「大丈夫、気にしないでくれ」

「「すみません、お邪魔しました」」


 --


「ありがとうございます。勉強になりました」

「どうして急にそんなに丁寧なんだ?」


 俺は佐藤に本の内容を教わり、一通り説明が終わったところで質問を終えた。


 その横で授業を聞いていた皋月は、この隙を狙い、長らく胸に秘めていた疑問を口にした。


「ねぇ、あの女の子、誰?」

「吹雪梓だ。名門の次女だ」

「名門?お金持ちなの?」

「うん、それに魔法師の家系の令嬢。ただしあなたたちと同じく、自力で覚醒できない魔法使いだ」


 つまり、非常態アノマリー魔法使い……!


「やった!これで兄貴、スタートラインで勝ったんじゃない?」

 皋月の笑みは不気味な弧を描く。

 こういう悪い笑いが出た時は、大抵俺をからかおうとしている。


「まさか、俺を売ろうっていうんじゃないだろうな?」

「ふん、ふん、ふん──やっと来たわ、ずっと待ってたのよ、うぅ──」


 妹の発病を阻止するため、先手を打って彼女の口を塞ぐ。

 皋月を冷静に戻す一番の方法は、勝手な妄想劇を途中で断つことだ。そうすれば自然と元に戻る。


 俺たちのふざけっぷりを見て、佐藤はソファから立ち上がり、自分の机へ戻る。


「もう帰った方がいい。後で忙しくなるから」

「「あ、はい」」


 職員棟で長居した後でも、星空は変わらず幽かに輝き、学園の灯りはほとんど消えていた。

 俺たちは星の光に導かれながら、宿舎へと歩いていく。


 青い髪、碧い瞳、企業家族の次女、まだ覚醒していない魔法使い。

 知らず知らず、俺は彼女の情報を頭に刻み込んでいた。忘れないといいが。


 そのとき、ふと皋月が、俺たちが初めて佐藤に出会ったときに口走った冗談を思い出す。


「ねぇ、バカ」

「なに?アホ」


 こういうくだらない瞬間に容赦なく喋るのが、俺たち兄妹の特徴だ。


「前に適当に作った話、続きってあるの?」

「兄貴がそんなもの聞きたいなんて、ちょっと見直したわ」

「……早く言えよ。そう言うってことは、まだ続きあるんだろ?」

「残念、ない」

「う──」

「ふふふ」


 妹は突然、軽く体で俺にぶつかってくる。


「兄ちゃん、チャンスがあれば行動しなよ。自分のことは考えすぎず、私は自分でちゃんとやれるから」


 俺の気持ちを察したのか、皋月はいつもと違い、今回は俺を慰めてくれる。


「でも、結局行動できないだろ。だってお前、クズだから」


 俺は間違った、やはり妹は妹だった……。

 少し不快になり、彼女の頭に手刀を一発……


「痛い!力入れて殴った!」


 翌日--


 午前十一時、ドアが開き、見慣れた小柄な影が入ってきた。

「遅くなった」


 彼は自称「時空の弾」で飛ばされたらしいので、身長にはあまり気を配らなかった。

 もちろん、あまり意識しすぎるのも怖い。


 今日の佐藤は、耳に絡まるイヤホンの線のようにしかめた眉に加え、深いクマまで浮かんでいた。


「あ、…おはようございます」

「うん」


 普段より圧迫感がひどい。

 昨日の夜の問題で遅くまで忙しかったのだろう。

 もちろん,俺は余計なことを言える状況ではなかった。


 皋月も気付いていたのだろう、俺が横目でチラリと彼女を見て、視線で合図を送る。

 すると彼女は、いたずらっぽい目で「どうした?怖いの?」と返す。

 そして両腕を胸に抱き、左右に揺らしながら「怖いなら抱っこしてあげるよ」とでも言いたげな仕草。


 だが、そのあからさまなポーズはすぐに佐藤の目に留まった。


「何か用?」

「兄貴、今日は佐藤先生怖いって」

「おい!」


 …確信犯だ、絶対に故意だ。


「昨夜、少し時間を使って物を探していただけだ」


 そう言うと、佐藤は手に持っていた小さな布袋をテーブルに放り投げた。

 袋が跳ねて着地するたび、中から「サラサラ」と砂の音が聞こえる。


 俺たちは佐藤と同時に着席する。彼は俺たちの正面に座った。


「咳、昨日言った通り、魔力を体感させるつもりだ。ただ、まだ覚醒していないので、少し小さなズルをする」

「「ズル?」」


 質問すると、佐藤は袋を開ける。

 手を中に入れ、軽くもみながら、袋に入っていた細かい砂を俺たちの頭上に撒いた。


 なんだか、妙な感覚。

 まるで何かの通り道が開かれたかのように、微かな力が頭頂から足先まで流れ、足先から逆流して頭に戻る。


「す、すごい…!何これ?」

 俺は突然の変化に驚き、妹は笑顔が止まらない。


 これが自分…?

 自分がこんな強大な力を持てるとは思わなかった。手でリンゴを潰せるくらいの感覚すらある。


「過信するな。使い方を知らないお前には、今の段階では牛一頭倒すこともできない」


 突然水を差した…でも、将来は牛すら軽く倒せるという意味だろう。


 その時、空中に漂う薄い霧に手を伸ばしてみるが、触れることはできない。

 感じられるのは皆無。これが散らばる魔力というものか。


 好奇心に従い、漂う魔力の源を辿ると、なんと皋月から出ていることが分かった。


「ど、どうした?顔に何かついてる?」

「これはあなたのオーラだ。無意識に体から放出された魔力だ」


 佐藤が説明する。


「なぜ出るのか?恐らく、数日前の刺激で脳が休息中に突然魔力を分泌し始めた。ただし、誘導が足りないだけ。悪くないスタートだ。体はすでに魔力の調整に適応している」


「本当!?私って天才…?」

「かもしれない。何かの事情で覚醒が遅れただけかもしれない」


 皋月は興奮している。魔法世界への大きな一歩だ。だが、俺は素直に喜べない。

 同じスタートラインに立っていると思ったのに。


「だが、あなたたちは血縁の兄妹。魔法の才能に大差はない。唯月は出発点で負けているが、必ずしも皋月に負けるとは限らない。あとは努力次第だ」


 俺の気持ちを慮ったのか、佐藤はそう言った。

 少なくとも、心の中のもどかしさは少し薄れた。


「差を努力で埋められるなら、頑張ります」


 積極的な返答だが、言葉に反して本心ではない。

 口からは前向きさが出ても、心の奥では、俺たちの間にある溝を改めて感じていた。


 小さい頃、俺の目に映る星野皋月は、いつも不思議な力を持っていた。

 軽々とクラス中、いや、学校中の視線を自分に集め、誰もが自然と彼女の周りに集まる。

 彼女の外向きの姿は常に完璧で、勉強はトップクラス、運動神経も大多数の女子より優れていた。


 家族は俺に妹と肩を並べることを望んだ。だが、俺は決して及ばず、運動能力という、せめてもの利点すら彼女とほとんど変わらなかった。


 両親の期待という重圧の下、小学五年生の俺は家を飛び出し、皋月と特別仲の良かった叔父の家に住むことになった。

 だが、中学に進学する年、叔父は忽然と姿を消した。


 現実を突きつけられた俺は、中学三年生で学校の成績を必死に上げ、最終的に中の上に留まっただけだ。

 すべて自分の力で歩いてきた。

 皋月は依然としてトップクラス。


 完璧な妹を前にして、俺は常に自分の非力さを思い知らされる。

 俺たちの間は、決して徐々に離れていったのではなく、すべての繋がりを断ち切っていたのだ。


 ――「兄ちゃん!」


 中学二年生の修学旅行で、俺たちは再会した。

 ちなみに、俺たちは中学も同じ学校だ。


 人影のない自販機前、皋月は俺に一切の気取りを見せず、自然に背後から抱きついてきた。

 三年ぶりに会う血の繋がった存在に、この反応は自然だ。おかしいのは俺の方だった。


「……」


 当時の俺は、何も返さなかった。

 一瞥さえする気もなく、抵抗も反応もせず、ただ空気のように扱い、彼女が離れるのを待った。

 その時の俺は、すでに彼女を親として見ておらず、両親すらそうだった。

「ひとりぼっち」の身分を自分に課していた――今思えば恥ずかしい話だ。


 静寂は長く続き、皋月が再び口を開くまで。


「ごめん」


 彼女は泣きそうな声で、震える手で俺の手を抱きしめた。

 何も悪くないのに、俺に謝る。


「私のせいで兄貴が息苦しくなって、家を飛び出させちゃったんだ」


 皋月は顔を俺の背中に埋め、手の力をさらに強くした。

 心は死んだと思ったが、やはり動揺する。


 ――違う……俺は……


 揺れる心で、無意識に腹の前で組んでいる彼女の手の甲に触れた。

 小さな手は冷たく、温めるために包み込む。

 皋月は昔からずっと俺にくっついてきて、幼い頃の俺も応えたものだ。

 だが、重圧の下、俺は彼女の完璧さばかりに目を奪われ、最も愛おしい、ありのままの一面を忘れていた。


「俺もごめん──うぅっ!」


 回想に浸っていると、頭上に冷たい衝撃が――

 皋月だ、昨晩の手刀を返してきたのだ。


「兄貴、やっと戻ってきたね。どうだった?」

「今、ちょうど盛り上がってる──え、どうして分かるんだ?」

「だって賢いんだもん!」


 妹は得意げに言った。


 その後、心のわだかまりは少しずつ消え、俺たちは再び歩み寄り、以前よりも……親密な関係を取り戻した。


 ある日、彼女はどこからか叔父の家の鍵を取り出し、朝の熟睡中の俺に突然襲いかかってきた――

 それはまた別の話だ。


 魔力の砂を洗い落とした後も、体内の魔力の流れは残り、俺はそれを記録した。

 これが、毎日の成長の足跡となる。


 その後数日間、俺たちは学院生活に備えてひたすら補習を行った。

 魔法生物、魔力操作、魔法史――あらゆる基礎知識を少しずつ補っていった。


 指導してくれる佐藤は、ここ数日、毎朝の時間帯に来て、昼になるとさっさと去っていった。

 どうやら他の生徒の指導もあるらしい。

 彼の授業スタイルは、実践できるものは実践させ、口頭で説明するべきことは口頭で伝えるというもの。

 さらに、彼が持ってくる資料はとても分かりやすく、まるで普通の助教とは思えないほど、手厚い指導だった。


 ある日、彼は去り際に突然告げた。


「唯月、今晩、僕のオフィスに来い。」


 そして、振り返ることなく去っていった。


 俺は何をしたというのか?

 それとも、何か特別な理由があるのか?

 あらゆる可能性が頭の中を駆け巡り、脳はフル回転。


 約束の時間が来た。

 まだ明かりは煌々と灯り、各オフィスには教師たちが作業中だ。


「……ええと」


 俺は緊張を隠すため、咳払いでごまかしつつ、扉をノックした。


「トントン!」


 短く二度――しかし、中からの反応はない。


 聞こえなかったのか? 再度ノックする。


「トントン!」


 やはり、何も返事はない。

 いないのか……と、仕方なく待つことにした。


 約30分ほど、廊下の椅子でぼんやりしていると、水色の髪をした少女がこちらに歩いてくるのが見えた。

 そう、数日前に見かけた、あの貴族の少女だ。


 直に近づいてくる彼女を目にし、胸がまたドキドキした。

 距離が近づくほど、緊張も増していく。


 彼女がオフィス前に来て、俺を見つけると口を開いた。


「こんばんは、あなたも佐藤助教に呼ばれたのですか?」

「……はい、こんばんは。」

「一緒に入りますか?」

「さっきノックしたんですけど、佐藤助教はいないのようでした。」

「ふふ、彼はいないではないわ。たぶん仕事に集中しているだけ。こうして直接入れば大丈夫よ。」


 彼女は扉を開け、俺は後に続いた。

 案の定、佐藤はキーボードを叩くことに集中し、横に置かれた教科書は机の高さと同じくらい積まれていた。


「来たか」


 彼は淡々と返すだけ。


「これからは直接入ればいいのよ。ノックしてもあまり反応しないから、佐藤助教はちょっと変な人なの」


 少女は首をかしげて笑ったが、先ほどの経験から、俺は返す勇気が出なかった。


「座ってください」


 彼女はソファに腰掛け、バッグを横に置く。

 俺も同じように対面のソファに座った。


「自己紹介します。私は吹雪梓ふぶき あずさ。来学期、『非常態科』の学生として魔法研究協会の学院に加わります。よろしくお願いします」

「俺は……星野唯月です。えっと……」


 ちょっと待て、俺、自分の学科って何だっけ?

 非常態アノマリー魔法使いではあるが、非常態科に所属しているとは限らない。

 まるで、経済学者が心理学科に所属しているようなものだ。


「俺って何科だったっけ?」

「あなたも非常態科よ。言ったことなかった?」

「いや、聞いたのは非常態魔法使いってことだけで……」


 佐藤はその場で手を止め、何か思い出したかのように黙り込む。

 しばらくして、またキーボードを叩き始めた。


「じゃあ、君も非常態科か。これから同級生として互いに助け合おう」

「あ、はい……」


 吹雪は、俺が返事をするのを待っているようにも見える。

 それとも、新しい話題を振ったほうがいいのか?


 魔法師って、何の話をするんだろう……うーん……


「前に会ったことがあるよね?夜、佐藤助教のところに来たとき」

「——あ!そうかも!ごめん、顔を覚えてなかったけど、また会えて縁を感じるわ」

「……うん」


 ……やっちまった。句点で終わった。

 緊張で心臓が飛び出しそうだ。

 自分を掴んで、殴りたいくらいだ。


「じゃあ、なんで魔法使いになろうと思ったの?」


 まるで神様がもう一度チャンスをくれたかのように、吹雪がボールを投げてくれる。

 でも、この手のありふれた質問は簡単に答えられるが、返し方によって印象は大きく変わる。

 人の返答から、その人の内面や素養が垣間見える――少なくとも大半の場合は……俺の経験上だが。


「ごめん、答えにくいよね……」


 少女が急に謝った。


「大丈夫、大丈夫!ちょっと考えさせてもらうだけだから」


 ……まずは、作った第一印象を崩さないことを目標にしよう。


「俺は……『人生をひっくり返すため』だ」

「わぁ——すごい!」


 吹雪の瞳がキラキラと輝く。


「君は?」

「特に何かじゃなくて、家族も魔法使いだから、自然と自分も魔法使いになりたいってだけ」

「そうなんだ」


 ……あっという間に、また気まずい空気になった。

 どうやら魔法よりも、会話の方を学ぶ必要がありそうだ。


「——じゃあ、交流も済んだようだし、本題に入ろうか」


 仕事を終えた佐藤がこちらに歩いてくる。

 そのとき、彼は最外層のコートを脱ぎ、白いワイシャツが現れる。

 そして、彼のトレードマークの青いマフラーは相変わらず首に巻かれていた。


「このままだと、唯月は開学前に同期の進度に追いつけないかもしれない」

「え、私!?」


 自分でもそう思っていたが、指摘されるとやはり少し驚く。

 やっぱり、俺の才能は相当に低いのか……


「君は駄目じゃない。ただ、時間をかけて磨く必要があるだけだ」


 佐藤はまるで俺の考えを見透かしたかのように返す。

 その言葉に心を打たれ、彼の瞳を見つめる。

 瞳の中に映る景色は、まるで夕焼けのように美しかった——


 次の瞬間、気が遠くなるような恍惚の中で、サイドのソファが後ろに引かれる。

 対面に座る吹雪は、何かを察したかのように立ち上がり、俺だけが尻もちをついてしまった。


「梓」

「はい」

「オーラを展開しろ」


 少女は二言もなく、自身の内に秘めた魔力を解放する。

 冷風がこの空間を駆け抜け、思わず身震いしてしまう。

 彼女の気場は皋月とは異なり、魔力の収束・発散が一定のリズムで制御されている。

 風の流れも、偶然の産物ではなく、明確に意図されたものだった。


 床の冷たさで立ち上がると、大面積に触れる冷風で思わずくしゃみが出る。


「は——はくしょん!!なんで急にこんなに寒いの!?」

「これは梓の『非常態アノマリー属性』だ。能力は氷、使用量に応じて体温が下がる副作用を伴う。非常態の教材としては最もクラシックな例だ」


 佐藤の説明が終わると、吹雪はゆっくりとオーラを収束させた。


「次はあなたの番だ」

「え、俺?でも、できませんよ?」

「分かってる。だから今日来たんだ——あなたを手助けするためにね。知ってるかい?魔力は、使用者本人の感情によって増減するんだ」

「うんうん」

「唯月、最近授業の時、あまりやる気出してないだろ?」

「……確かに少し。でも、まさかオーラが出せないのは、俺のやる気が足りないからだって言うんじゃ……」

「いや、そういう意味じゃない。ちょっと確認しただけだ——ともかく、今日は君の気場を引き出すのが目標だ。もしできれば、能力まで覚醒すればなお良し」

「オーラ……そんなに重要なんですか?しかも、いきなりこんなに飛ばして。皋月の場合はどうするんですか?」

「はあ——」

「……ふふっ」


 俺の質問を聞いて、佐藤は長いため息をつき、吹雪は思わず笑みをこぼす。

 こんな質問、そんなにバカだと思われたのか……


「もちろん重要だ。オーラを制御できれば魔力の流れが速くなる。流れが速ければ、詠唱を一部省略することも可能だ。皋月、あなたの妹だろ?あの天才なら、すぐ覚えるだろうけどね」


 解説しながら、佐藤は倒れた書類の山からノートを取り出し、オフィスの椅子に腰を下ろす。


「さて、あなたは梓の指示に従って動きながら、僕の質問にも答えてほしい」

「はい、分かりました」


 吹雪は俺の隣に立ち、全身をくまなく観察する。


「すみません、手を貸してもらえますか?」

「はい」


 右手を差し出すと、彼女はその細く柔らかい手でしっかりと握る。

 触れた瞬間、冷気が直に伝わってきた。

 指先の氷のような温度、わずかに硬直した動き。

 体温が奪われる——これが「非常態属性」の副作用。

 俺は、まだ知って間もない少女のこの異常さに驚きを隠せない——

 どうしてこんなにも冷たくなれるんだ?


 吹雪は両手で俺の手のひらを広げ、まるで手相を見るかのように真剣に見つめる。

 俺はただ立ち尽くし、彼女と触れ合えるこの時間を享受していた。

 私心からか、それともこの少女が長く生きられないかもしれないと思ったからか——

 いずれにせよ、今の俺は、確かに心から嬉しかった。


「最初の質問だ。ほんの少しでもいい、授業中に何か不満はあるか?」


 アンケート調査でもしてるのか……

「ありません。佐藤さんの授業内容はとても詳しいと思います」

「ありきたりで建前だけの答えはいらない。本音を聞かせてくれ。もちろん、僕に対してでなくてもいい。授業を一緒に受けている相手に対する気持ちでも構わない」


 授業を一緒に受けている相手……

 それは、皋月のことに違いない。


 でも、皋月に対して俺は本当に何か不満があるのだろうか——


「失礼します」


 その時、梓が突然俺の袖をまくり上げ、手がどんどん上に触れてくる。

 あ、あまりに冷たい! 思わず考えていたことを忘れそうになった。


「でも、俺……まあ、もしかしたら少しだけ……でも、実際には大丈夫かも」

「言ってみろ」


 ……


「俺は、皋月の才能が羨ましい」

「……」


 佐藤は何も言わず、手元のペンを動かし始めた。

 きっと、俺の答えを書き留めているのだろう。


「小さい頃からずっと、彼女の背中を見て育った。意図的ではないのは分かっている。でも、気にしないなんて無理だ。同じ学年で、俺の方が十か月も年上の兄なのに、どうしても比較されてしまう」


「第二の質問だ。だからって、彼女を憎むことはあるか?」

「以前はあった。でも、以前ちょっと色々あって……もう少しは吹っ切れた——痛っ!」

「ああ!ごめん!」


 いつの間にか、梓が俺の肩に手を置いていた。

 さっきの痛みは、彼女がツボを押そうとしていたせいだったらしい。


「床に座って。こうすればもっとリラックスさせやすい」

「わ、分かった」

「——でも、見たところそうは見えないな?」


 突然、佐藤が口を挟む。


「うん、魔法を学び始めたあの日、昔のことを思い出してしまった」


 木目の床を見つめる。

 俺はもう諦めたと思っていたけれど、実際は違った。

 ただ、手を抜き始めただけだったのだ。

 多分これが、皋月と並ぶことも、ましてや彼女の前に立つこともできない理由――

 俺は、自分が負けたことを認めてしまったのだ。


「頑張れ」

「え?」


 耳元で柔らかい声が響いた。振り返ると、彼女はただ微笑むだけだった。


 頑張れ。


 たった二文字。

 でも、これを俺に言ってくれた人は数えるほどしかいない。

 少女の身体はまだ冷たいのに、その言葉は、胸に温かく響いた。


「大体分かった」


 佐藤がノートを閉じる。


「お前はほとんど、皋月に勝てるという自信を持っていない;表面は寛大そうに見えて、実際にはお前が思うほど包容力はない;強くもない、というか、触れただけで砕けそう――」


 その言葉は事実だ。

 だからこそ、口に出た一つ一つの言葉が、深く、心に突き刺さる。


「でも——今、僕たちがいる」


 佐藤は立ち上がった。椅子を押しのけ、その小さな体をまっすぐに伸ばす。

 彼は俺を見下ろす。その視線は、あの日、初めて出会った時と同じだ。


「僕たちはお前が現実を受け入れる手助けができる;俺たちはお前がこれまでの百倍努力できるよう導ける;僕たちはお前を何十倍も成長させられる;たとえお前が弱くても、努力を惜しまない限り、僕たちは絶対に見放さない——だから、星野唯月、お前は努力するか?」

「……します」

「星野唯月、お前は妹よりも努力するつもりか?!」

「多い、絶対に多い!絶対に彼女には負けない!」

「星野唯月、お前は星野皋月を超えたいのか——強き魔法使いになりたいのか?!」

「はい……はいっ——!!!」


 その瞬間、涙が溢れた。

 俺は泣き、歯を食いしばり、膝をつき、地面を力強く叩く――

 生まれてから今までの全ての不満を、全てを吐き出すように。


 俺は叫ぶ、感情を解き放つ。

 力が全身を駆け巡り、こんなにも心が爽快になったことは、かつてなかった。


「夜にそんな大声出しても平気なのか?」

「……多分、大丈夫だろう」


 数分後、ようやく俺は落ち着きを取り戻した。

 オフィスは元の姿に戻され、俺はソファに腰掛け、吹雪も自分の任務を終えたようだった。


「で、俺はこれからどうすればいいんだ?」

「どうすればって?」

 佐藤は淡々と返す。

「今日、オーラを……出さなきゃいけなかったんじゃ……?」

「……魔法に対して、もう少し敏感になれないか?」

「敏感に、って……?」

「自分のやったことを見てみろ」


 その言葉でようやく気づいた。

 俺の体の周りには、もう金色の気流が包み込んでいた。

 ……俺、どうやってやったんだ?


「言っただろう、魔力は感情に応じて揺れ動くんだ——以前のお前は不安や陰鬱、そういう落ち込んだ感情が脳内の魔力出力に影響していた。特に、魔法使いになったばかりの奴ならなおさらだ」

「……なるほど。皋月があんなにすぐ成長できる理由も、少し理解できた気がする」

「ふぅ——属性のことは明日考えよう」


 佐藤はため息をつき、机に足を投げ出す。


「唯月、今日から毎晩この時間に吹雪と一緒にオフィスに来い;梓は、彼と一緒に戻れ」

「でも、皋月に知らせるべきじゃ……?勝手に練習してることになるし……」

「それは僕が考えるべき課題じゃない——さ、行け。忙しいんだ」

「はい……」


 こうして俺と吹雪は教師棟を後にした。

 石畳の小道を歩く。吹雪は静かで、オフィスに入ったときのように話題を探す様子はなかった。目は半分閉じ、疲れているように見える。


 時折、俺は彼女の顔を見てしまう。

 肌は白く、翠緑の瞳は水色の髪に映え、その髪は触れたくなるほど滑らかそうだ。

 しかし表情は無く、夜の冷たい空気と相まって、まるで彼女に触れるだけで凍らされそうな感覚になる。

 ……さっき微笑んでいた彼女と、同じ人間なのか?


 気づくと分かれ道に差し掛かっていた。


「私はこっちに行く」

「え?寮には帰らないの?」

「帰らない。外に借りた部屋に住んでる」


 ……やっぱり貧乏は想像力を奪う。


「そうだ、連絡先を交換する?」


 少女が口を開き、俺は頷く。

 これも、ひとつの成功した交流経験だ。


 宿舎の部屋に戻ると、門限ギリギリで、受付嬢に小言を言われた。

 ……しかしその服装は大胆すぎる……メイド服。


「ただいま——」


 扉を開けると、灯りは消えていた。

 妹の姿を探すと、皋月は机にうつ伏せで熟睡中。講義資料にちょっとだけ涎を垂らしそうだった。


「負けないからな」


 荷物を片付け、今日の疲れを洗い流そうとする——その前に。


「……軽っ、寝るならベッドで寝ろよ」


 妹を抱き上げ、布団を整えると、反応した皋月はすぐに寝返りを打ち、ついでに布団

 を蹴飛ばす。

 ……やれやれ、手のかかる妹だ。


「おやすみ」


 翌日。


「唯月、今日からこの表に従って動け」


 佐藤はノートの一枚を破り、俺に差し出した。

 これは彼が俺専用に作った「訓練メニュー」らしい。


 伏せ腕立て100回、腹筋100回、スクワット100回、5キロランニング——そしてパンチ200回!?

 さらに瞑想10分、吹雪との打ち合い1分(×5回)まである。


「ちょ、待って!これ、魔法と関係ないじゃん!」

「お前は一般の魔法使いとは違う。今すぐ同じ土俵で戦えるわけないだろ?」


 ……なんだ、この騙された気分は。


「それとも、できないのか?」

「……舐めんなよ!」


 心の中で拳を握る。


「よし、以前よりやる気が出たな。では、今日から始めろ。頑張れ」


 くっ……完全に策にはまった!

 しかし、言い出した以上、後には引けない。


「なら,これからもよろしくお願いします——」

「……お願いします」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る