告白代行

糸毛糸

告白代行

「渚さん、付き合ってください」

 桜の花びらが落ちるのを横目に凛とした顔立ちの青年は対象に告白する。


「えっと...」

「1年生の時からずっと好きでした。もう先輩は卒業してしまうかも知れないけど、それでも気持ちを伝えたかったんです」

 青年は声が少し上擦りながら伝える。

 

「とりあえず、ありがとう…でも誰?」

 女性は突然のことに戸惑いを隠せない。さっき、受け取ったばかりの卒業証書の筒を握りしめる。


「私、神崎さんから依頼を受けまして、告白代行をやっております。三木です」

 僕は胸ポケットから名刺を差し出す。

「は、はぁ…神崎くんに言っといて」

「はい」

「私は君が直接来たら、付き合ってあげるって」

 そう言う彼女の頬は赤くなっていた。

「承知しました」


 僕はその場でクライアントにメールをする。

 その後のことは知らないし、僕が知るところでは無い。


 僕も普段は普通の高校生をやっている。なんでこんなアルバイトをやっているかと言われたら、お金以外の理由はない。


 大体、月に1人依頼人が来る。僕が現役高校生ということもあり、同い年の恋愛盛んな人たちから依頼をコンスタントに受けられるのだ。

 

 逆に言うと、それ以外の日々は普通の男子高校生なのだ。

 

 授業中の僕はいつも彼女の方に目が引き寄せられてしまう。

 有村さんは今日も綺麗だ。一つ一つの動作が舞のように、思わず見惚れてしまう。僕の世界は彼女によって鮮やかに彩られている。

「三木くん」

「あ、有村さん、どうかした?」

「ちょっと2人で話せる?」

 そう言って廊下に出る。僕は何か分からない《それ》に一抹の期待を持つ。


「わざわざ、人がいないところに来てどうしたの?」

「実は頼みたいことがあって…」

「頼み?」

「告白代行頼みたいんだけど…」

 その言葉が放たれたと同時に僕の胸に鋭い針が刺さったかのような痛みが走った。間接的に僕にはチャンスが無いということを告げられたからだ。

「いいよ」

「本当に?ありがとう」

「相手は誰?」

 僕は動揺を隠すように冷静に間髪入れず業務質問をする。

「今日の放課後の屋上にその人を呼ぶから、その人にお願い。セリフとかは任せる」

 そう言って、有村さんはすぐに教室へ戻る。

 

 好きな人の好きな人になんで告白しないといけないんだろうか。

 いや、せめて僕が有村さんの恋路を実現させないと一生引きずりそうだ。

 

 僕は言われた通りに屋上に行き、来る人物を待つ。

 あれ?有村さんの代行を男の僕に頼んで良いのかな?

 ふと疑問が浮かんだ直後に屋上の扉が開いた。


「え?」

「急に呼んでどうしたの?《三木くん》」

「…有村さん」

 その時、僕は全てを理解した。

「有村さん」

「はい」


「ずっと好きでした」

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告白代行 糸毛糸 @atena214

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