1日目 side:村上
夢を見た。
俺は高校生になったにも関わらず知らない校長に連れられ、身に覚えはないが見覚えのある中学校のテニスコート横の遊歩道を歩いていた。
校長との会話でなんとか中学校と言っていたので中学校なのだろう。
コートからは子供達の真剣そうに声を掛け合う音が響いてくる。
今は試合中らしくその熱気が感じられた。
そう考えているうちになぜか裏門を出た。
その支離滅裂さがいかにも夢らしい。
裏門を出てすぐ俺はある家の前で溝に引っかかり盛大に転んだ。
そのままその家の駐車場らしいコンクリートの地面を滑り、俺が顔を上げたのは深い茶色のドアの前だった。
俺が立とうとした時そのドアが開き始め、中から1人の女の子が出てきた。俺とおんなじか少し上くらいの子である。
俺は彼女を知っていた。そしておそらく彼女も同じように俺を知っていた。だが間違いなく俺らは現実では会ったことはなかった。
気づいた頃には校長たちはいなくなっており、俺は彼女と会話しながら何故かまた中学校へと戻っていた。
中学校の裏門に入ると彼女が前を歩き始めた。
そのまま着いて行き、階段を登る。
2階分ほど登ると廊下へと出て3年1組の、その隣の空き教室のような小教室へ入った。自分の用事がわからないまま、いや夢の中の自分はわかっていたのかもしれない。その教室へ入ると、10席ほど丁度職員室にあるような机がくっつけられて並べられておりその上に大量の紙が散乱している。彼女はそのダークブラウンの髪をたなびかせながらこちらを振り返ると俺の名前を呼んだ。
「今日はここまで、終わらせたいね!」
そういうと彼女は俺に数枚の書類を手渡したその書類には所々赤く丸く小さなシールが貼られていた。
俺はそれをいつものように受け取ると彼女と世間話をしながら終わらせていった。内容はしっかりとは覚えていないが。
夕日も沈みかけ書類の整理も終わると俺たちは変える準備を始めた。
すると急に今までシュミレーションゲームのようにいうことを聞かなかった体を動かせたので一枚そこにあった書類を手に取った。
準備を終え俺が扉に手をかけ、そこでなぜか一度止まり後ろへ振り返る。
すると彼女はおかしそうに俺に笑いかけ、それに俺も笑いかける。
そこで俺は目を覚ました。
「クソッ」
目に映るのはいつもの部屋の光景で、でもなぜか視界がぼやけている。目元を触ると涙が出ていた。
涙が出た理由は間違いなく彼女だがなぜ彼女なのかはわからない。だって夢の中では知っていても現実ではあった覚えのない人である。それから時間を確認した俺は階段を下るとリビングに出て家族と朝食をとり、リュックに課題を詰めて家を出た。
それから駅へ向かって歩くが彼女のことが頭から離れない。そのまま電車に乗り学校までの道を機械的に歩いていく。視界に映るのは間違いなくいつも通りの道なのに脳裏に映るのはこちらへ笑いかける彼女の笑顔だった。それは教室に入っても、授業が始まっても変わらなかった。
窓際の席なので左を向くと青い空と赤レンガの建物が見える。心地よい微風に吹かれながら俺はなぜ会ったこともない彼女のことを知っていたのか考える。
そこでふと思いついた。
なぜ朝見た夢をまだ俺は覚えていられるのだろうか。普段すぐに忘れるはずの夢をどうして覚え続けられているのだろうか。
思い出そうとすれば鮮明に浮かび出す。
彼女の家も、中学校の情景も、小教室の姿も、彼女の鮮やかなダークブラウンでボブの髪も少し寒いからと羽織っていたブレザーも、揺れるスカートも、彼女の笑顔も……あれ、彼女の笑顔?どうして?彼女の笑顔が思い出せない。彼女の……誰の?名前は?おかしい。知ってるはず、間違いなく知ってるはずの彼女の名前と顔だけがどうしても思い出せない。どうして、どうして、どう。いたっ!
「村上さん?よそ見せず授業に集中しなさい。」
「すみません。」
長いこと外を見て考えていたせいか、先生に持っていた教科書でこづかれたようだ。
一旦授業に集中するか…
放課後になり、俺は職員室で部室の鍵を受け取ると部室へと向かう。
刺さりにくい鍵をぐりぐりと回し、扉を開けると暗い小教室の電気をつける。
この部屋にはエアコンがないので寒いのを我慢して換気のために窓を開けた。
一気に風が吹き込み、とても寒い。
椅子に座り、しばらくの間スマホをいじる。
するとドアが開き、
「お疲れ様でーす。」
先輩の声がした。
その声にお疲れ様ですと返すとスマホの電源を落とした。
会話しながらトランプで遊んだりしていたせいか、その時は朝の夢が頭に来ることはなかった。
楽しい時間は一瞬で、気づくと下校時刻間際であった。部屋にいる人たちは急いで片付けると鍵を閉め、鍵を誰が返すかでジャンケンを始める。
「お疲れ様でした。」
最初に勝ち抜けた俺はそう会釈すると暗くなった廊下を進み始める。階段を下りしばらく進むとオレンジのライトで照らされたどこか幻想的な白い玄関口へ着く。
この光景に見舞うと、その神秘性からか朝の夢がフラッシュバックしてきた。
そうして朝の逆再生をするような帰り道をたどり、家に着くとベットに飛び込む。
そして上を向き、夢について考える。
どれくらいの時間が過ぎた頃だろうか、そうしているうちに俺の瞼は落ちていった。
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