第2話 解決方法は一つ



俺がアイリス嬢とデートしたい――いや、絶対にデートすると決めたのには、ちゃんとした“ワケ”がある。


ただの女好きが、なんとなく高嶺の花を狙ってるとか思われたら困る。

俺はな、ちゃんと理由があってこの学園一の貴族令嬢を狙ってるんだ。


……まあ、理由というかなんというか。



そもそもこのアーク・アカデミア、連邦最高の兵士養成都市のはずだろ?

未来のエリート戦士が集まる場所だろ?


……なのに周りを見てみろ。


「昨日、カノジョと夜通しでデートしてさぁ」

「童貞卒業したわ、へっへっへ」

「お前ら兵士だろ!? 国家の盾だろ!? なんでそんな腑抜けた恋バナしてんだよ!」


真面目に訓練してる俺がバカみたいじゃないか。

こっちは毎朝ランニングして、基礎体術を磨いて、寝る前にマナ制御のイメトレまでやってるんだぞ?

なのに寮の連中は恋だの色恋だのに夢中で、挙句には「教官と関係持ってる奴がいる」とかいうドス黒い噂まで流れてる。


兵士の風上にも置けねぇ!


俺はそんなことに巻き込まれるつもりは毛頭ない。

兵士たるもの、真面目に訓練に励み、ゆくゆくはこの国を代表するエンハンサーとして出世する――そう固く決意していた。


……あの日までは。



そう、俺は見てしまったのだ。


神の悪戯か、風の導きか。

あるいはただの偶然か。


授業終わりの廊下。

アイリス嬢が階段を上がる、その瞬間――


「……黒、だと……!?」


しかもただの黒じゃない。

黒い紐パ◯ティー。


思わず時間が止まった。

いや、俺の脳内だけの話じゃない。本当に世界のすべての音が消えたように思えた。

マナの流れも止まったかのような、あの神秘的な瞬間――


あれは美しい光景だった。

これが青春の1ページか? いや違う、これはもはや神の御業だ。


貴族令嬢アイリス・ヴァレンタイン。

気品と威厳を纏う完璧超人のヒロイン。

そんな彼女が――まさかの黒紐。


俺の頭は真っピンクになった。

それ以来、授業中も訓練中も、気づけばあの光景がフラッシュバックしてくる。


「くそっ……このままじゃ任務に集中できねぇ!」


この邪念を取り払う方法は一つしかない。


そう、彼女に告白することだ。


ただし正面から告白しても玉砕するだけ。

だからこそ俺は作戦を立てた。


――デート券をかけた決闘。


アーク・アカデミアは異能バトルが日常茶飯事だ。

ルールの範囲内で勝利条件を設定することは可能。

だったら勝負に勝って「一日デート」を約束させればいい!


それは至極真っ当な理由に基づく作戦。

なにせ俺は国家の特待生、“特別な兵士”だ。

ならば相手が学園一の令嬢であろうと関係ない。


全ては攻略対象。


そして無事決闘に勝利した暁には――


「アイリス嬢! 俺と一緒にカフェでパフェ食べてくれ!」


……という、涙が出るほど健全で、真剣で、下心まみれのお願いをするつもりだ。





「……ふふふ、いよいよだな」


寮のベッドに寝転びながら、俺は拳を握りしめた。

頭の中でシミュレーションを繰り返す。


彼女の未来予測能力をどう突破するか。

俺の逆位相共鳴でどう食らいつくか。

そして最後は――堂々と口説き落とす。


俺の青春は、明日から始まる。

全てはあの黒い紐パ◯ティーから始まった、偉大なる戦いだ。

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