第3話 勝利報酬はデート券



さて、まずは説明しよう!


アーク・アカデミアでは、学生同士の異能バトルが正式に制度化されている。

理由は単純。

――実戦訓練の一環として必要だから。


学園の規模は国家レベル。ここで育つ学生は将来、連邦軍や議会直属の特殊機関に配属される。そのため座学や演習だけでは足りない。常に“生の勝負”を経験させることこそが、最大の教育方針なのだ。



◇ バトルの流れ


1. 挑戦申請

学生は学園管理システム《イデア・ターミナル》に、対戦相手・条件・勝利報酬を登録する。


2. 相手の承認

相手が承諾すれば即時成立。拒否することも可能だが、逃げ続ければ「臆病者」として評判を落とす。


3. 審査委員の承認

教官または監督官が「勝利条件が正当か」を審査。あまりに不合理(例:敗者に死を強要など)であれば却下される。


4. 決闘場の割り当て

学園各所に点在する決闘アリーナにて実施。観戦も可能で、人気の高い対戦は都市全域に中継される。


5. 勝敗の確定

相手を無力化するか、降参を宣言させる。致死攻撃は禁止だが、強化兵同士のぶつかり合いは常に危険を孕んでいる。



要するに、異能バトルは「遊び」じゃなく、正真正銘の教育カリキュラムというわけだ。


俺は構内を歩きながら、辺りを見渡した。


中央広場は今日も賑わっている。

大理石の噴水を囲むようにベンチが並び、学生たちは談笑しながら昼食を取っていた。

上空には浮遊式の訓練ドローンが巡回し、時折マナ光線を散布して環境を調整する。


東側には巨大な訓練塔 《エリュシオン・スパイア》。

中には模擬戦場や異能測定器が詰まっていて、俺たち新兵候補はほぼ毎日ここに通っている。


西側は研究棟 《イデア・ラボ》。

白衣の研究員と学生が忙しなく行き交い、マナの光がガラス越しに漏れている。


そして北には――決闘アリーナ。

広大なドーム型施設。外壁には過去の名勝負がホログラムで映し出され、通りすがりの学生たちが立ち止まって見入っている。


俺はその光景を眺めながら、胸の奥がじんじんと熱くなるのを感じた。

次にあそこに立つのは、俺だ。



「ええかスコール、アイリス様に挑戦するんなら条件設定が肝心や」


昨晩のラウンジ。セリナはノートを叩きながら真剣な顔をしていた。


「条件?」

「そうや。勝利報酬は“デート券”。これはセーフ。けど、負けた時の代償も提示せなあかん」

「……代償?」

「一方的な見返りやと審査委員に却下される。せやからアンタは“もし負けたら、一週間アイリス様の従者として雑用をこなす”って宣言しぃ」


「なるほど……負けた時もアイリスにメリットがあるように見せるわけか!」

「そういうこっちゃ。交渉は対等に見せかけんと成立せんのや」


その時のセリナの八重歯が光って、俺は思わず心臓を撃ち抜かれた。

だがこれは断じて浮気じゃない。あくまで本命はアイリス嬢。セリナは軍師。軍師だから心臓が跳ねただけだ。……多分。


俺は胸ポケットから学生証を取り出し、《イデア・ターミナル》にかざした。

青白い光が走り、俺の視界にホログラムの申請画面が展開される。


「挑戦者:スコール・キャットニップ」

「被挑戦者:アイリス・ヴァレンタイン」

「勝利報酬:一日デート」

「敗北代償:一週間の従者業務」


送信――。


「……ふぅ」


心臓が跳ねる。

だが、もう引き返せない。


俺は決めたのだ。

青春のすべてを賭けて、あの麗しき貴族令嬢を攻略すると!

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