プロローグ


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― スコール・キャットニップ視点 ―



俺の名前はスコール・キャットニップ。記憶喪失の転校生(表向き)。でも学園のみんなからはもっとわかりやすい肩書きで呼ばれている。


――女たらし。


いや、違う! 俺はただ健康な男子高校生として当然の興味を抱いているだけだ! 女の子が好きで、恋がしたくて、胸のふくらみや太ももに目が行くのは、地球でもこの世界でも普遍の真理じゃないか。


「ほら見ろよ、このページ……! 連邦じゃ発禁のやつをわざわざ輸入したんだぜ!」


隣の寮部屋で友人カイルが広げたのは、艶めかしいポーズを取るグラビア誌――いや、正確には“エルディア式戦術美術書”とかいう学術っぽい建前で流通してるエロ本だ。


「ふぉぉぉ……」

「……でけぇ」


ページを覗き込む俺と、もう一人の友人レオンハルト(※炎のバカ)も、思わず素直な感嘆の声を漏らす。


男三人、夜の寮部屋。机の上にエロ本。真剣なまなざし。

これぞ青春。戦術の研究にだって勝るとも劣らない立派な学びの時間だ。


「なぁ、スコール。お前、どんな女が好みなんだ?」


カイルがニヤニヤしながら聞いてくる。

俺は一瞬ためらってから、胸を張って答えた。


「――もちろん、学園一の才女で、星導貴族ヴァレンタイン家のご令嬢、アイリス・ヴァレンタイン様だ!」


二人が「また始まった」とでも言いたげに目を合わせる。


「おいおい……あの高嶺の花を狙うとか正気か?」

「アイリス様は連邦の至宝だぞ。未来予測の異能を持つ主席令嬢だ。男なんて相手にしてねぇよ」


「ふふふ……」俺はあえて薄ら笑いを浮かべる。

「君たちは知らんのだ。女というものは、予想外の一手に弱い生き物だということを」


「……何だその軍師みたいな口調は」

「エロ本読みながら戦略を語るな」


二人のツッコミを無視して、俺は拳を握りしめた。


そう、俺は決めている。

なんとしても、あの完璧超人ヒロイン――アイリスを攻略してやる!





そもそもだ。

この《アーク・アカデミア》に入学したときから、俺はずっとモヤモヤしていた。


記憶がない。自分が誰だったかも、どこから来たのかも、ぼんやりしている。

ただ、身体の奥に残る本能だけが「俺は人間じゃないかもしれない」と囁いてくる。


だが、そんな暗い正体探しに時間を割いている暇はない。

俺にはもっと大事な使命がある。


――女の子と青春ラブコメを満喫することだ!


そのために必要なのは何か?

努力でも友情でもない。


そう、戦略だ。



アイリス・ヴァレンタイン。

連邦最高の貴族令嬢であり、学園主席。

能力は「未来を読む」《星霊演算》。

学園男子全員の憧れにして、学園女子からも畏怖される存在。


普通に告白しても無理。

手紙を送っても無視される。

下手をすれば近衛兵に切り捨てられるだろう。


だが俺には一つの秘策がある。


それは――デート券をかけた異能バトル。


この学園では異能バトルが日常茶飯事だ。

訓練も、授業も、しょっちゅう決闘形式で行われる。

だったら俺が勝手にルールを付け足したっていいじゃないか。


「勝負に勝ったら、一日デートしてくれ!」


そう宣言すれば、俺の恋は立派に公式戦として成立するのだ!


もちろん、勝てる見込みは薄い。

彼女の未来予測は完璧だし、俺の《逆位相共鳴》はまだ制御もままならない。

だが、勝負は勝つためだけにあるわけじゃない。


「戦場において最も重要なのは布石と心理戦だ」


俺は寮の天井を見上げ、ひとりごちた。


未来予測? 上等だ。

だったらその予測を超える意外性をぶつければいい。

女心をかき乱し、彼女を戸惑わせる。

その隙に食い込むのが、俺の作戦――


名付けて《貴族令嬢デート作戦・第一号》。


「おいスコール、また変なこと考えてるだろ」

「バレた?」


カイルとレオンハルトの視線が刺さる。


「お前さぁ……学園の命運を背負うかもしれない強化兵特待生なんだぞ?」

「そうだ。なのにやってることが“デート大作戦”ってどういう了見だ」


「いやいやいや! むしろ逆だろ?」

俺は机をドンと叩き、真剣な顔で言い返す。


「恋を制する者は戦場をも制す! 女の子とデートできる奴こそ、本物の勝者だ!」


「「はぁ……」」


二人が同時にため息をつく。

だが構わない。俺は信じている。


この作戦は必ず成功する。

俺は必ずアイリスをデートに連れ出す。

そのためなら、学園の秩序だって掻き乱してみせる!



思春期男子の欲望と、軍師ばりの情熱。

その二つが俺の中で融合して生まれたのが――


「学園一の貴族令嬢攻略大作戦」 である。


目的はただ一つ。

――アイリス・ヴァレンタインとデートすること!


……だがこの決意が、やがて学園全体、いや連邦の命運すら巻き込む大事件に繋がることを、このときの俺はまだ知らなかった。

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