一ノ巻 その五 ―忍びと黄騎士、交わす言葉―

 紫絃しづるはマフラーを少しつまみ上げ、口元を隠しながら騎士ルトーへ問いかけた。


「騎士殿の所属と目的、そして倒れていた経緯を、可能な範囲でお聞かせ願う」


 ルトーは頷く。


「私はシルヴァン王国魂機兵アニマ・ソキウス騎士団、第二番隊隊長を拝命しているルトー=ド=シャルトルーズイエロー。ここへは隕石の調査で赴いた。爆発に巻き込まれ、精神力欠如マインドブレイクしたようだ」


(やっぱり、この人がルトーさんなんだ。爆発の原因も知りたいな)


「回答、痛み入る。爆発の詳細を伺っても良いか」


 紫絃は頭を下げつつ、再度問いかける。


「答える前に、一つ確認させてもらえないだろうか」


 ルトーが問い返してくる。紫絃は静かに頷いた。


「感謝いたす。私のほかに三人、騎士を見かけておられないか」


「ご安心を。女性騎士二名と男性騎士一名を保護している。あなたと同様、精神力欠如で治療中だ」


(部下の心配を真っ先にするのか、良い上司だなぁ。ボクも見習わないと)


「かたじけない……それでは、爆発の経緯を」


 ルトーは静かに語り始めた。


「隕石の調査に来た我々は、天蜴人リザーディアンと思われる巨人と遭遇した。対話を試みたが返答はなく、攻撃を仕掛けてきたため、やむなく魂機兵アニマで迎撃。撃破に成功した。念のため首を切り落としたのだが、その直後、死体が爆発した。死をきっかけに爆発する仕掛けだったと思われる」


「辺りを捜索したが、装備の類は見つからなかった。機密保持、あるいは特攻兵器といったところか……」


 しばし沈黙が流れる。紫絃が口を開いた。


「子細を語っていただいたにも関わらず、我々の正体を明かせぬこと、申し訳なく思う。ただ、目的はあなた方と同じ。人類の仇敵をこのまま放置するわけにはいかぬ。我々はあなた方の治療が済み次第、もう一つの隕石に向かうつもりだ。恐らく、そちらにも天蜴人がいるだろう。聞いてばかりで恐縮だが、奴らの武装について教えていただけるだろうか」


「助けていただいた身だ。気にしないでいただきたい」


(やっぱり良い人だ♪)


 ルトーは、天蜴人の鎧兜の異常な硬さ、光る剣の威力、光線を放つ銃について語った。


「魔法なのか、機械技術なのか、はたまた未知の力なのか……少なくとも三百年前の大戦時に、これほどの武力を有していたという記録はない」


「この三百年の間に、奴らも進化しているということか……」


人類こちらも色々研鑽を積んでるけど、あれだけのことを一人でやれるのは、そういないもんなぁ)


 紫絃が天に昇った光の束を思い出していると、の三から治療完了の報告が入った。


「三名の治療が終わったとのこと。我々は目的地に向かう。あなた方はどうなさる」


「魂機兵を動かせそうにない。足手まといになるだろう。我らは引き返す。そこには第三番隊が向かっている。目的は同じだ。協力してもらえると助かる」


 ルトーの言葉に、紫絃は頷いた。


「それでは失礼する。気を付けて帰っ――ゴホン、無事の帰還を祈る」


「そちらも、武運を」


 紫絃とルトーは別れの挨拶を交わし、忍びたちはその場を離れる。


 紫絃は部隊の最後方で振り返り、ルトーたちに向かってブンブンと手を振った。


(気を付けて帰ってねー)


 騎士ルトーは少し驚きつつも、片手を上げてその仕草に応えた。


 ―――――――


 忍びたちが森の奥へ消えていくのを見届け、ルトーはぽつりとつぶやく。


「あれが我々王国の秘密部隊か……幼く見えるが、しっかりしている」


 シルヴァン王国には、上層部のごく一部にしか知られていない暗部組織が存在すると聞いたことがあった。


 今回の件をきっかけに、また彼らと相まみえることもあるだろう。


 自分の息子ほどの子が戦わねばならぬ現実に心を痛めつつも、迫り来るであろう大戦の気配を感じ取るルトーであった。

 

 ――その小さな背中を、もう一度見たいと思いながら。

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