第14話 瞬殺の不死者さん、瞠目する
遅くなりました。
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——死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい……ッッ!!
俺は厨二病感満載の決めポーズを維持したまま、胸中で羞恥に暴れまくる。
つーかなんで誰も反応しないの!? 少しは反応してよ! 馬鹿なヤツって笑ってよ! ノーリアクションが一番恥ずかしいんだよ!!
なんて叫ぶミニミニハイモンドが頭を抱えて身体をくねらせながら横転しているという、大変気持ち悪くてカオスな光景が繰り広げられる胸中を他所に。
「「「「「「…………」」」」」」
眼前に集まった貴族たちは、俺の憐れで無様な姿を嘲笑するどころか、誰も彼もが一様にサァァァと顔を青ざめさせていた。
圧倒的気まずさと緊張感を孕んだ沈黙が玉座の間を支配する。
誰も声を上げようとしない。俺は羞恥や赤恥から、貴族は恐怖と不安からだんまりを決め込んでいた。
つまり、この沈黙を破ることが出来るのは——オルカスただ一人であった。
全員の視線が俺から俺の斜め後ろにいるオルカスに向かう。
それだけで少し恥ずかしさは減ったものの、思い出せば俺の内の俺が大騒ぎしかねない。というか現在進行系で大騒ぎしてる。
早く帰りたい、という思いが俺の思考の大半を占領していたその時だった。
「——ははっ、はははははははっ!」
沈黙をぶち壊すようにオルカスが笑い声を上げる。
俺も貴族たちに釣られるようにポーズを止めて目を向ければ……顔に手をやり、天を仰ぐようにして大爆笑しているオルカスの姿。
……いや、幾らなんでも笑い過ぎじゃないですかね? まぁ俺が百悪いから何も言わないけど。
なんならオルカスだけでも笑ってくれたことに安堵すらしていると。
「くくっ……はぁー、笑わせてもらった。そなたらも心配せずともよい、余はこの程度で怒ったりはしない。寧ろ彼のことは気に入っている」
オルカスが目尻の涙を拭きながら俺の肩に手を置く。
一見すればそれだけの行為。——が、オルカスが気安く触れたことと『気に入っている』という言葉により、別の意味を持つようになる。
——余計な気を持つな、と。
それを証明するかのように、少なくない数の貴族が驚愕に目を見開いていた。
おおよそ俺が呼ばれる前に、今回招集がなされた理由とクライフィーバー家の騒動について話をしたのだろう。
そしてその功績者として紹介されると同時にヘルパスに合図を送り、ヘルパスから合図を貰った俺が入ってきた……というあらすじだったと思われる。知らんけど。
ただ自分で言うのもなんだが、俺は長年王族ですら手が出せなかったクライフィーバーを追い詰めた人材だ。
どの貴族だって欲しいに決まっている。敵に回したくない、というのもありそうだが。
なんてオルカスの思惑を推し量ろうとする俺だったが。
「——話を戻す」
オルカスの発した、重く威圧するような言葉が思考を強制的に中断させられる。
見れば、先程までの笑みは消えて厳格な面持ちを浮かべていた。
そんな彼の様子に貴族たちは驚き、慄いているが……。
——ら、ラッキー!!
俺は内心歓喜に打ち震えていた。
よし、よし……っ! なんか知らんけどありがとう陛下! 俺の醜態を有耶無耶にしてくれて! 流石陛下……さすへいだよ!
キラキラとオルカスに尊敬の視線を向ける俺を他所に、俺の隣で貴族たちに視線をすべらせていたオルカスが、まるで追い詰めるように言葉を続けた。
「彼のお陰で、大罪人たるガリバードを始めとしたクライフィーバー家の悪事は暴かれた。——だが、それで終わりではない。病魔は他へ転移、拡大し、依然として我が国を蝕んでいる……余はそれが許せない」
だが、と言葉を区切り——俺を見た。いやなんで?
「余には、神が遣わした本当の使者——ハイモンドが付いている。先程も告げたが、この者は全てを知っている……そうだろう?」
そう問い掛けてくるオルカスは、顔こそ真剣そのものではあったが……目はこれでもかと笑っていた。憎たらしい限りだ。
「……ああ、そうだ。俺は全てを知っている」
大嘘である。
俺は当然のことながら、流石のガチ勢たちも名前すら出ないモブ以下の貴族たちの情報を知るはずもない。
ただオルカスの目が『話を合わせろ』と言っているので、仕方なく合わせているだけである。
「もしも俺の神より与えられし全知の力を信じられない者がいるならば……今この場で暴いてやってもいい」
俺はカラコンの入ってない方の目を隠すように手を当て、ニィィィと大胆不敵に口角を上げた。死にたい。
だが、先程とは違って貴族たちの間に緊張が走る。
恐らくだが、俺の不遜な態度を許しているオルカスを見て『あ、コイツマジで全知の力持ってるから陛下に許されてんだ』とでも思ったのだろう。
ただの厨二病にビビっている彼らの姿は、非常に滑稽である。(クズ)
「はっはっはっ、その必要はない。そなたの力は余やエルフィリス、ヘルパスも知る所だ。その力のお陰で——」
小さく息を吸い込んだオルカスは宣言した。
「——今日この場で病魔を駆逐することが出来るのだからな」
瞬間——まるで昨日の俺の時のように騎士が雪崩込んでくる。
といっても、昨日のようにガチガチの装備に身を包んでいるわけではなく、それどころか《身体強化》はもちろん剣も帯刀したままで抜いてすらいなかった。
……じゃあ俺ってどんだけ警戒されてたんだよ。あの転生者は何してんだよ。
次々と捕らえられる貴族の様子を眺めながら、本当に大変なことをしでかしてくれた顔も名も知らない転生者に文句をぶつけるのだった。
「——はははははっ、ははははははっ! まさか神の力を使った代償にあんな面白い言動をしないといけなかったとは……ぶふっ、ははははははっ!」
「ちょっと笑いすぎですよ陛下!! こっちは死ぬほど恥ずかしかったんですからね!?」
既に十分以上大爆笑するオルカスに、俺は顔を真っ赤にしながら噛み付く。
今俺達がいるのはクラリスが待っていた一室。
玉座の間にてガリバードと繋がっていた貴族たちをつつがなく捕まえられたことで、オルカスやヘルパスと共に戻ってきたというわけだ。
因みに俺の厨二病は神の力を使った代償といって誤魔化しておいた。そのせいで今後も度々厨二病を演じなくてはいけなくなったが。
「はぁー、ごめんごめん。あの時は笑えなかったし、あまりに面白かったからついね」
嘘つけ、めちゃくちゃ玉座の間でも笑ってただろアンタ。
なんて白けた目をオルカスに向けていると、クイクイと服が引っ張られる。
何事かと思って横を見れば……心配そうな顔をしたクラリスだった。
「……モンド君、身体に危険はないの?」
「ああ、既に終わっているしな」
「そうなんだ……良かったぁ……」
まるで自分のことのように安堵し、顔を綻ばせるクラリス。可愛い。
彼女の優しさをオルカスに1ミリでも分けてやって欲しい。……いや、陛下には1ミリじゃ無理か。
「……それで、どうして俺たちはここに残されているんです?」
くだらない思考を他所に、俺は本題を口にした。
そう、貴族の捕縛が終わって俺たちが帰ろうとした時、陛下に『話がある』と言われて引き止められたのだ。
しかし良い加減限界である。
正直言って、今すぐにでも帰りたい。
だって黒歴史の宝庫みたいなこの王城にいる時点で恥ずかしくなってくるんだもん。
王座の間での愚行を思い出して再び頬を赤くする俺に、ヘルパスと顔を見合わせたオルカスが困ったように頬をかいた。
「……実はね、少し君に相談があってね」
「相談、ですか?」
はて、相談とはなんだろうか? 俺に出来ることは少ないと思うんだけど……。
俺は心当たりがないため首を傾げる。
そんな俺に、何故か申し訳なさそうな表情を浮かべたオルカスが言った。
「——エルフィリスが君と模擬戦をしたいといって聞かないんだ」
全スレ民集合!!
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