第2話
さてどうするか。
とりあえず差し迫った欲求は満足できた。
しかし此処に留まっていれば再び飢える事は目に見えている。
出てきた部屋を覗いてみた。
棺おけのようなカプセルが一つ置いてあるだけのその部屋には、もはや何の用もない。
では、右にいくか、左に行くか。
両方の進路には、特に違いは見当たらない。
どちらも、先の方がゆるいカーブになっていて同じような距離までしか見渡せなかった。
無機質な景観にも変わりはない。
彼は部屋に向かって右側に進路を決めた。
特に理由はなかった。
あえて言えば、そちらが風上に思えたからだ。
ゆるく曲がるカーブを歩いていく。
床は衝撃吸収剤でできているらしく、足音もしなかった。
灰色の床とクリーム色の壁がずっと続いている。
時折その壁に扉が現れるが、開く気配はなかった。
どのくらい歩いただろうか、注意深くゆっくり来たからそれほど距離は歩いていない。
また、同じようなドアが左側の壁に現れた。
しかし今度はこれまでとは違っていた。
彼がその前に立つと、ドアが音もなく開いたのだ。
中を覗き込むと、円形の部屋はかなり広かった。
二十人くらいの男女がダンスを踊れるくらいの広さはある。
彼が部屋に足を踏み入れると、中の照明が一段明るくなった。
彼の後ろでドアが閉まる。
部屋に閉じ込められたようだ。
とっさに振り向いてドアを叩くが、びくともしない。
再び部屋を観察する彼の目がいやなものを見つけた。
壁の一部が開いて、中から黒い物体がせり出してきたのだ。
それは黒い金属でできた人間だった。
ロボットと言う言葉が頭に浮かんできた。
軽い電子音を響かせながらロボットが彼の方に向かってくる。
右手に持った棍棒を振り上げるそのロボットは、彼に対して好意を持っているとはとても思えなかった。
とっさに避ける彼の体のそばを、いやな風きり音を残して棍棒は過ぎ去った。
ロボットの横から後ろに回りこむ。
振り向くロボットの胸を蹴った。
ロボットは、よろめいたが再び棍棒を振り上げる。
襲われる理由がわからなかったが、自分を守るためには手段は選べない。
彼は腰に下げていた唯一の武器であるナイフを抜き取った。
しかし金属のロボットにはナイフは通用しそうにない。
ずっしり重そうな棍棒をロボットは振り回してくる。
後ずさっていたら、背中に冷たい壁の感触がした。
ロボットが両手に棍棒を持ち、大きく振りかぶった。
恐怖が大きくのしかかってくる。
もうだめだ。目を閉じようとした彼の視界に赤や黄色の色彩が映った。
大きく振りかぶったロボットの首に隙間が見えたのだ。
そこを走るコードの色だった。
彼はロボットに抱きつくように踏み込んだ。
彼の背中が密着しいていた壁に棍棒が当たり重々しい音を立てた。
彼のナイフがロボットの首筋を横に切り裂いた。
バチッと音がして、火花が散る。
尻もちをついた彼が、ゆっくり目を開くと、がっつりと壁に棍棒を打ちつけたまま、ロボットは彼の頭上で動きを止めていた。
大きくため息をつく。
いったい自分のこの境遇はなんなのだろう。
しかし考えはすぐに停滞してしまう。
考えを進めるためのデータを、彼はまだ何も持っていないのだった。
半分予想していたことだったが、戦いが済んだら扉が開いた。
しかし、入ってきた扉とは別の扉だった。
ということは、この部屋に入らなければ行けなかった場所への扉が開いたと言うことだ。
戦いをしていなければ、そして勝たなければ、その扉は開かなかったはずなのだ。
そのことから何が考えられるだろう。
一つだけ小さなデータが得られた。
それを頭の中で吟味しながら、彼はその部屋を出た。
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