第4話

 魔族少女たちがマイの家に来てから1週間ほどたった。魔界に戻る用事があるとき以外はみんなマイに会いに来る。家事や畑仕事などを手伝ってくれるので助かっている。タイミングが合えば一緒に食事も取るようになった。


 正直、楽しい。騒がしい時もあるが、ひとりで暮らしていた時よりも賑やかで寂しくない。唯一の問題は誰と契約するかで揉めることだ。

 レリィは隙があればマイを誘惑するし、それをピンカが邪魔したり、便乗して抱きついてきたり、からかったりする。その様子にトライが「マイが困っているからやめろ」と怒鳴り、フラァが何かをボソリと呟く。お決まりの流れだ。


 誰と契約するか・・・。最初こそ魔族と契約なんかするものかと思っていたが、彼女たちと関わるうちに、魔族と言っても悪い魔族ではないということが分かってきた。きっと契約しても、マイの生活は尊重してくれるだろうし、嫌なことを無理強いされるようなことはないと思うわれる。マイが魔力を持っていても使い道がないのは事実だし、今では彼女たちに役立てて欲しい気持ちがある。その相手が誰かを十分に考えて決める事がマイがすべきことである。



「ふたりはどうして魔力が欲しいんですか?」


 今、家にいるのはピンカとフラァとマイだ。ふたりは今日は仕事が休みらしい。畑仕事を手伝ってもらった後、一緒に午後のティータイムを楽しんでいる。


「私はね~、すっごい強い魔力で、嫌いな奴らを一掃して私つええええできたら楽しいだろうな~って思ったからだよ!」


 ニコニコと可愛い顔でピンカが答えた。


「えっそんな理由で!?」


「ダメ?」


「そんな浅い動機で契約はできません」


「じゃ、もっと深い理由考えるね~」


「いや、理由って考えて作るものじゃないですよ・・・」


 もっとちゃんとした理由が来ると心構えしていたから拍子抜けしてしまった。まぁピンカらしいといえばらしいのかもしれない。

 フラァの方はどうだろうとフラァの方を見る。フラァは下を向いて言いにくそうな顔をしている。


「ごめんなさい、言えないなら無理に言わなくていいですよ」


「わ・・・私は・・・」


 フラァは絞り出すように声を発した。


「私・・・凄く・・・弱い・・・魔界で、迷惑かけてる・・・」


「フラァちゃんは人間と魔族のハーフだから魔界で肩身が狭いんだよね~」


 知らなかった。人間と魔族のハーフ。魔界の事はよく知らないが、フラァの様子から察するに良い扱いはされていないのだろう。

 いつも自信なさげなフラァに納得がいった。差別され、傷つけられてきたのだ。


「でも・・・ピンカやレリィやトライが、守ってくれるから・・・・大丈夫。・・・強い魔力を手に入れて・・・みんなに心配かけないように・・・したい」


 可憐な顔に薄っすら赤みが差して、目は潤んでいる。


(か、可愛い・・・!! それになんて健気なの!!)


 あまりの可愛さと健気さに雷に打たれたような衝撃が走った。神様がいるのなら何故フラァにではなく私に強い魔力なんて授けたのだ。神様というのは不公平で残酷だ。


「あれあれ〜?マイちゃん、フラァちゃんにメロメロな感じ〜?フラァちゃんと契約しちゃう〜?」


「うっ・・・それは・・・」


 紅茶を一口飲んで、可愛さで混乱した頭を落ち着ける。例えばフラァと契約してフラァが強い魔力を得たとしてどうなるだろう。魔界で嫌な思いをすることはなくなるだろうか?

 たぶんフラァになにか酷いことをしようとする輩はいなくなるだろう。でも、心は?フラァの傷ついた心は癒されるだろうか。


 心についた傷は簡単には癒えるものではない―――。


(私がするべきことはきっと契約することじゃない気がする。

 私にできることはなんだろう・・・。)


 いっぱい優しく接すること。いっぱい楽しませること。たくさんおしゃべりして、たくさん笑って過ごすこと。


 マイはフラァの手を取り両手で握った。


「ごめんなさい。契約はできません。

 でもフラァさんが良ければ、一緒に暮らしませんか?魔界になんか戻らないで、これからずっと私といてください。

 ・・・って、あれ?もしかして私めちゃくちゃ厚かましいこと言ってる?」


 フラァの目から涙が零れた。

 しまった!泣かせてしまった!?流石に相手の迷惑とか考えずに出過ぎた真似をしすぎてしまったか!?


「あっ・・・、違くて、涙がでたのは、マイの気持ちが嬉しくて・・・で・・・ずっと一緒に暮らせたらきっと・・・素敵・・・」


 よかった。傷つけてしまったわけではなかった。


「え〜!なら私も一緒に暮らしたい〜!」


 ピンカがふたりだけずるい〜!という感じで足をバタつかせる。


「う~ん、でもそれだとレリィちゃんとトライちゃんが可哀想だからな~

 そうだ〜!みんなでマイちゃん家に暮らそう~!」


「え?」


「だめ~?」


「別に私はいいですけど、勝手に決めていいんですか?」


 そんな簡単に決められることなのか。ピンカが勝手に言ってるだけなのでなんともいえない。

 すると、ピンカが普段見せない真面目な表情でマイを見た。


「ぶっちゃけるとね、みんな魔界に嫌気がさしてると思うの。力の強さだの階級だの血統だのくだらない。だから、すっごい魔力を手に入れて魔界をぶっ壊してやろうと思ってたの、私。」


 ピンカはしゃべり方も普段と違ってまるで別人のようだった。でも間違いなくピンカだ。きっとこれも本当のピンカなのだろう。


「魔王様だって、刺し違えてでもぶっ殺す・・・。そう思ってた。


 でもや~めた~!」


 一瞬の恐ろしく冷たい声はすぐにいつも通りの可愛いしゃべり方に戻った。


「マイちゃんとみんなで人間界で暮らすほうが楽しそう~!」


 ピンカは仲間のために魔力を得ようとしてたのか・・・。


「みんな、仲がいいんですね。」


「ん~?マイちゃんもだよ~」


「え?」


「マイちゃんも、もう私たちの一員で~す」


 初めて会った日は、「殺す」なんて物騒に脅されてたのに。たった1週間程度で随分と格が上がったものだ。


「それはね~、マイちゃんの人柄のおかげだよ~」


 ピンカはマイの心を見透かしたように言う。フラァを見ると、フラァも「うん」と頷く。


「レリィちゃんとトライちゃんが帰ってきたらみんなで、会議をしよ~!」


 ピンカは元気に手を突き上げる。


「議題はズバリ〜、”契約は中止!人間界で暮らそう会議”」


 契約は中止・・・。


 え?誰とも契約しなくていいってこと?!


 確かに人間界で暮らすならもうマイの魔力は必要ないのだ。1週間ずっと考えていた契約問題が急に解決してしまい気持ちのやり場に困ってしまう。


 魔力や契約うんぬんがなくてもマイと魔族少女たちとの関係は変わらずにいられるだろうか・・・?


 一抹の不安を抱えつつ、会議の時を待つのだった―――。


つづく。

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