朝の学校

 学校へ着いたら想定通り、まずは教室に向かった。昨日はあんなに暗かった階段が、今日はしっかり色付いている。


 階段を上り切ったら教室のドアに手を掛ける。

 開けたらまた千秋が居るのではないか、という期待を込めて扉を横にスライドさせる。しかし、もちろんの事、千秋の姿はない。そこは誰もいないただの教室。カーテンは開いていて、窓の鍵は閉まっている。


 千秋の机にある花瓶もそのまま。昨日の夜から何も変わっていなかった。


 昨夜は教室を開けっぱなしにした。そして今、教室の扉が開いたということは、先生方が、鍵が無くなったことに気が付いてないということだろう。

 しかし、万が一の可能性もあるので、職員室に向かった。昨夜と同じように職員室のドアを二回ノックして開ける。


「失礼します。二年六組、後藤陽介です。教室の鍵を取りに来ました」


 職員室の中に居た先生は三人。教頭先生と知らない先生が二人。


「はーい」

 教頭先生が答える。

 教頭先生の様子からして鍵が無くなったことには気が付いてないようだ。


 僕は何も知らないような雰囲気で鍵が掛かっているコルクボードと対面する。もちろん二年六組の所に鍵はかかっていない。しかし、僕はあたかも二年六組のフックから鍵を取るように手を動かし、空気をつかむ。


「失礼しました」


 職員室を後にすると僕は「ふう」と息を吐いた。

 教室にはまだ人がおらず、鍵を無くなったことに先生が気づいていない。

 想定では一番楽なはずだった。しかし、どっと汗をかいた。

 僕が教室に向けて廊下を歩いていると担任の先生と出会った。


「後藤、おはよう。今日はいつにも増して早いな」

「おはようございます、今日は少し用事があったので早く来ました」

「そうか、早起きはいいことだ。そういえば、いつも花瓶の水換えてくれてるだろう? ありがとな」


 僕は急に怖くなった。なぜ担任がそのことを知っているのか。昨日事もバレているかもしれない。僕は自分の弱いところを見られたような気がした。


「ええまあ、では失礼します」


 僕は誤魔化すようにその場を後にした。

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