第4話 読まれにくい三人称と読まれやすい三人称

 さてと、今回も🎩鮎咲亜沙の感想を読む所から始めましょうか。


……………………コピペ 🎩鮎咲亜沙様……………………


なんか昔の名作ベストセラーなんかを実際に自分で読んでみて、

「なんかつまんないわけじゃないけどワクワクも無かったな⋯⋯」

みたいな感想になるのって大抵『完全な三人称』なんですよね。


逆に世間的にはパッとしなくても自分には刺さる作品はたいてい『三人称一元』ですね。


そして熱狂的なファンの多い作品なのに私にとって良かったり受け付けなかったりする両極端になりやすいのが『一人称』です。



まあすべて私がそう思うだけですがw

そして例外も多いので参考程度ですけどね。

でもそうなりやすい作品傾向になるんじゃないかと私は思ってますね。


……………………コピペ終了……………………



 う~ん。完全な三人称って、かなり難しいのですよね。

 三人称一元だけど、距離感が遠いっていうのは多いですね。あと三人称多視点なのか。


 そこら辺り実験しながらかんがえていきましょうか。


 まずは例題から。一話目のプロポーズの話でやってみましょう。





A 初めの書き方(三人称一元)


 行き慣れないフレンチのお店でのデート。貧乏作家の渚は恋人の沙希にプロポーズをするために、着なれないスーツ姿でマナーを気にしながらスープを口にした。


 味なんて分からないくらい緊張している。


 そんな姿を彼女は心配そうに見ながら、会話もなく食事は進んで行った。


 デザートが運ばれると、彼女の目の前にケーキと紅茶、そして濃紺のベルベットが張られたリングボックスが置かれた。


 驚いた彼女は彼の顔を見つめた。


 渚は彼女の背後に立つ給仕たちに背中を押されるように「結婚してください、沙希」とプロポーズの言葉をかけた。



 かなり三人称に近いですが、これでも渚よりの三人称一元です。

 『行き慣れない』のは渚ですし、『味なんて分からない』のも渚。


 つまり、純粋な三人称ではなく、渚よりの三人称なのです。

 だから、「渚」、「彼」を「僕」に置き換えただけで、一人称にも変換できたのです。でも、WEB小説としては読まれにくい一人称になります


 では、WEBで読まれやすい、一人称をおさらいしましょう。




B 一人称


 普段こんな店使うこともないから、緊張してせっかくのデートで話しかけることもできない。


 きっとおいしいスープなんだろうけど、味も分からないほど緊張しながら食事をしている僕は、ラノベを一作書籍化して、これからもう一冊出版が決まっただけの新人作家。

 メインの仕事は工場勤務だから、スーツを着るのも久しぶりだ。だけど、二冊目の出版とコミカライズが決定し、これから小説家としての人生はきっと上手く行く。だから……。


 お店のサプライズコース。コース料理の最後にケーキと共に指輪を出してくれる。そこでプロポーズをするつもりだ。


 沙希の目の前に指輪が置かれる。驚いて僕を見た沙希に、勇気を出して僕は言った。




 僕は何も言えないほど感動している沙希を見て、この店にしてよかったと思った。




 このくらい感情に寄り添うのが、WEBで読まれやすい一人称ですね。

 では、この一人称をもとに、感情に寄り添った三人称一元に作り直してみましょう。



C 同じシーン 三人称一元


 渚は緊張していた。いつもは恋人の沙希とはファミレスでデートを終えるのだが、今日は大切な日。

 友人が調べてくれたおすすめのレストラン。人生で初めて予約してお店に入った。


 料理なんか分からないから、あらかじめコース料理を頼んでいた。


 着なれないスーツ。並べられたフォークとナイフはどちらから使うのが正解か思い出せないほど緊張している。


 声をかけられるけど、答える余裕もない。


 だけど、今日は失敗できない。


 渚は新人小説家だ。今度小説がコミカライズ化することが決定した。

 そして待望の二冊目の発行も決まった。


 今日はそのお祝いのデートの日。そして……。


 デザートと共に、ギャルソンが彼女の前にジュエリーボックスをさりげなく置いた。


 沙希は驚いたように目を見開いた。


「結婚してください、沙希」


 渚のテーブルのまわりには、レストランのスタッフが集まり、拍手の瞬間を待ち構えていた。





 即興で書いたけど、こんな感じでしょうか。

 だいぶ心情に寄り添った三人称になったかと思います。




 同じ三人称一元でも、カメラの距離感や動き方、カット割りで見えるものや心情の動きが全く違うものになります。

 解像度が上がる、というやつですね。


 Aは割と淡々と書いていますが、Cになると、カメラが自由に動き回っているのが分かるでしょうか。


 これを沙希さん側に寄り添った三人称一元にしてみましょうか。



D 沙希の一人称と三人称一元(一人称は前回のコピペ)


〈一人称〉


 付き合ってみて、私はがっかりしていた。大好きな作品を書いていた渚。そう、私は彼の作品のファンだった。


 付き合えた当初は嬉しかった。ただ……。思っていたような人ではなかった。


 服装のセンスはないし、お金もない。それはまあ仕方ないんだけれど、どうしても感覚が合わなかった。


 贅沢なデートでなくてもいいんだけど、心が通わない会話はつらい。


 いまさら、スーツを着てレストランでデート? もう無理。今日できちんとお別れしよう。


 ほら、慣れないことしているからマナー気になって会話もできないじゃない

 べつにいつもみたいにファミレスで良かったのよ。無理しちゃって。格好悪い。


 そう思っていたら、目の前に開かれたリングケースが置かれた。

 なにこれ? ウエイターがにこやかに渚を見ている


 訳が分からない。何を考えているの? 私は彼の顔を見た。


「結婚してください、沙希」


 無理無理無理無理! ほら、こういうことするところが嫌なの!



〈三人称〉


 沙希の恋人、渚が小説家として二冊目の本を出すことが決まった。

 お祝いのデートに誘われた沙希だが、もう愛情はすっかり冷めきっていた。


 渚は普段は工場勤務。だからフレンチのコース料理なんて食べなれていない。


 ――――無理しなくてもいいのに。カトラリーの順番も分からないんでしょ。


 心の中でため息を吐きながら、渚より先にナイフとフォークを手にする。

 安心した様子で遅れてナイフを手にする渚を見て、(お祝いに水を差すけど、今日別れを切り出そう)と決心を固めた。


 ――――もうすぐ食事が終わる。その時に。


 給仕がデザートを置く。これでさいごか、と思った瞬間、目の前にリングをいれた箱が置かれた。


「結婚してください、沙希」


 あまりのことに、沙希は心の中で悲鳴を上げた。





 まあ、こんな感じになるのでしょうか。

 三人称、内面書かないって決まりがあるらしいのですが、いつまでも囚われてはいけません。


――――(ダッシュ)や括弧(  )をつかって、心の声を入れるのはWEB小説の三人称一元ではよくやること。



 つまりね、WEB小説で読まれる三人称って、三人称一元なら何でもいいわけじゃなくて、どれだけ心情に寄り添った三人称一元が書けるかって言うことだと思うのよ。独善だけど。


 一人称でも、寄り添っていない三人称の文章をそのまま使って「彼」を「僕」に、「彼女」を「私」に変えるだけじゃだめ。寄り添わない一人称じゃなく、カメラを動かし、内面に寄り添った一人称じゃなきゃ読まれないと思うのです。


 ポイントは『感情や心情を見せる』


 一人称でも三人称でも、それが読んでもらえる条件になるんではないでしょうか。


 まあ、今日はこんな所でいいでしょうか。


 それにしても、書き方一つで同じシーンでもこれだけ変わるとは・・・

 人称の選択、恐ろしいです。


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