第6話 出動!急げ!フラレンジャー!!
変身したままスーパーへ買い出しに行き、その勢いで深夜帯まで飲み明かした。
意気投合し、酔いも手伝ってすっかり気分も良くなった二人。
そんなバカげた夜が、奇跡のように楽しかった。
「なあ兄貴!俺達マジ無敵じゃね?笑」
「おぅ!無敵無敵!!マジやべぇって!笑」
酒とノリで、2人のテンションは既に天井知らず。
「なんかさ、今なら変身解除してもいけるっしょ!」
「今の俺達にゃ怖いもん無ぇわ!!ガハハッ!!」
勢いまかせで変身を解除することを決意。
「よし!せーのッッ!!」
…そして、案の定押し寄せる失恋の苦しみ。
「ぐっ…。」
2人して、床に崩れ落ちた。
「あ、兄貴…やっぱ辛いよ…。」
「くれちゃん、おめぇもかよ…。ははっ、この年になって俺も、ガチ恋しちまったってか…。」
「俺さ、本気で好きだったんだよな。だからこそ、本気でぶつかったんだ。できる限りのことを本気でやったんだよ。」
「わかるぜ、相棒。生半可な気持ちで告っちゃいねぇ。おめぇさんは男らしい。」
「兄貴…。兄貴も本気で好きじゃん。俺にもわかるよ…。」
「はっ…言ってくれるじゃねぇか。…グスッ。いかん、感情が抑えきれねぇや。」
「兄貴ぃ…!!」
ーーその夜は、泣きの宅飲みとなった。
紅「…朝か。」
紅はいつもの朝を迎える。
日の出するかしないかくらいの時間帯。かすかに空が白む。
仕事に向かうため、簡単な身支度を済ませる。
ふと昨日のことが脳裏をよぎり、叶須家を見上げ、想いを馳せる。
(ああ、かわいいけど苦しい…未恋さんを見たいけど、見たくない)
(いや、悪の力で惑わされてただけだし…、ワンチャンあんじゃね?)
なんとも未練がましい思考に、自分でも笑ってしまう。
一方その頃ーー。
黒貞は朝から愛車・松風に跨がり、街を駆け抜けていた。
筋肉ダルマが自転車で配達する姿は、かなり異様である。
一見いつも通りを装ってはいるが、その胸には強烈な失恋の痛み。
そのせいで、時折ペダルを踏み込む力が尋常でなく強まり、後輪が空転する。
軋む音が、どこか泣き声のように響いた。
いつもの街、いつもの風景。
昨日の出来事が、まるで夢だったかの様に。
当たり前の日常が過ぎてゆく。
ーー某所
「ウェーイ、穂別仁王との連絡が途絶えました。現在、先遣隊を派遣中です。」
「……他の者の動向も、しっかり見ておけ。何が起きているのか、迅速に掌握せよ。」
「はっ。」
「まさか…な。」
ーー某大学にて
「みれん!昨日大丈夫だった!?」
「うん、大丈夫!ただ、あまり覚えてなくて…。」
「えっ、それホント大丈夫なの?変なことされてない?」
「それはない!…と思う。あんまし覚えてないから…、あ!でも無事だったって自信はあるよ!?」
「どっから来るのよ、その自信。」
「てへへ。」
「もう、心配したんだよ!みれんはちょっと抜けてるとこあるからさっ!」
「ごめんって〜」
「最近おかしいことばっかでしょ?サークルもだし、なにより…」
「さっちゃんのこと…だよね」
岡 紗礼子(おか されこ)
通称、さっちゃん。
同期で同じサークル。
いつも3人で笑い合い、カラオケが好きでよく行っていた。旅行も行っており、楽しい思い出も多い。
サークルでも共に汗を流した仲だ。
しかし、最近の彼女は、どこか変だった。
「授業終わったら、すぐどっかいっちゃうしさ。」
「バイトとかでもなさそうだよね…。」
「今年の新歓コンパからサークルの雰囲気おかしくない?それくらいん時っしょ、さっちゃんの様子が変わったのって」
「植井(うえい)くんが仕切ってから、なんか変わったよね…」
「あたしあの人ホントきらい!お酒を無理矢理飲まそうとするしさ!裏で何やってんのかわかんないし!!いいウワサ聞かないよ!」
「昔はそうじゃなかったんだけどね…。」
「植井って、みれんと高校一緒なんだっけ?」
「そう、普通に明るい感じで、ちょっとお調子者みたいなところはあったんだけどね笑」
「そんな植井と、二人でゴハン行くって言い出したもんだから…!」
ガールズトークが盛り上がる一方。
ーーだが、その裏で。
『戦士達よ、出陣の時が来た。』
「…!!!」
産夢の声が、紅と黒貞の脳裏に響き渡る。
紅はロードワーク中。
黒貞は配達中のことだった。
『微弱ではあったが、不穏な気配を感じていた…。だが、数が集まればーーそれは暴力となる。』
「戦いか!兄貴は!?」
『既に向かっている。現地で合流されたい。』
ー一方黒貞は、急ぎ配達を終わらせた。
「ちくしょう、数が集まるってことは、それなりに頭数がおるってこっちゃな!厄介だなぁ。」
黒貞は道中、集合住宅のゴミステーションを漁る。
「包丁でも落ちてねぇかな……。」
見つかったのは、髭剃りや折れたカッターの刃くらいだった。
「うーん、時間もねぇし…これで乗り切るしかねぇか。」
黒貞は、廃棄された靴下と電池に手を伸ばした。
ーー町外れの廃倉庫。
変身した2人が同着した。
紅は拳を握りしめ、黒貞は電池入り靴下を握りしめていた。
表のシャッターは固く閉ざされており、どうにも入れそうになかった。
裏側に非常口があったことから、外に置いてあったガムテープと新聞をガラス面に張り付け、静かにガラスを破壊、内鍵をあけ侵入した。
…なぜそんな侵入方法を心得ているんだ。
倉庫内は荒れており、隙間風が冷たく、鉄さ錆と埃の匂いが濃く漂う。
中では、ウェーイが束ねていた連中ーー有象無象の戦闘員どもが蠢いていた。
生ぬるい空気とともに、獣臭と安酒のすえた匂いが2人にかかった。
同時に目に飛び込んできた光景は、照明、カメラ、ベッド等の機材が設置された、まるでAVの撮影現場のような異様な空間。
バスタオル、飲み物、ベッドの横にティッシュ、ローション…。
既に集団でのまぐわいが始まっていたが…そこに有るべき大切なものが、無い。
奴らからぶら下がっている男の象徴には、せめてもの「ヘルメット」が施されておらず、そのまま特攻していた様だ。
そこに倫理なんてものはない。
全員、視点が定まらず、目は虚ろで、理性の光はとっくになくなっているのか、正気ではない様子だ。
唾液と汗が混じり、床を濡らす。
女性は力無く横たわっているが、髪を乱暴に掴まれる等、弄ばれ、周りの男が獣の様に動いている。
その姿は、フラレンジャー2人をブチギレさせるのに十分な要因となった。
ーー無性に腹が立つ。胸糞が悪い。
2人は息を呑み、拳を固く握る。
胸の奥に、静かで熱い炎が燃え上がった。
「そこまでだッッ!!!」
作戦を企てるつもりだったが、我慢ならず飛び出した。
短いセリフ。だが、確実に空気が震えた。
「おう、盛り上がってんじゃねぇかクソ野郎共。」
黒貞の声は低い唸り。怒りと殺意が混ざり、空気が圧し潰される重みを帯びる。
「!?おいあんたら、なんーー」
フラレンジャー達に近づいた二人のうち1人が、紅に肩を触れた瞬間。
「バキィッッ!!」と強烈なフックによって顔が変形し、壁にせんべいの様に張り付いた。
その様子を見ていたもう一人は、黒貞が腕を振るのが見えるも束の間。
「ドゴォォッ!!」と真正面から飛び込む電池入り靴下が頭蓋を粉砕し、床に叩きつけられた。
「残り、概ね15。」
「おう。」
全裸の戦闘員たちは、瞬く間に戦闘服姿となり、甲高い雄叫びとともに2人に襲いかかった。
フラレンジャー達は、真っ向勝負と言わんばかりに、肩を並べて真正面から突っ込む。
ーー火蓋が切られた。
奴らにはウェーイや仁王の様な特殊な能力は無いが、その挙動は人のものではなかった。
高い跳躍、機敏すぎる機動力、そして…頭を潰されてなお、身体を蠢かせる生命力。
紅は突っ込んできた戦闘員を、流れるような動きで迎え撃つ。
踏み込み、ストレート一閃。
衝撃で戦闘員が浮き、紅の連撃が閃光の様に走る。
フック、アッパー、ストレート。連続で穿つ拳は、こめかみ、顎、みぞおちを正確に打ち抜き、戦闘員は何も出来ずふっ飛ばされ、床に転がる。
次々と戦闘員は襲いかかり、紅に掴もうとするも、ダッキングとバックステップにより無効化。
紅の動きに、一切の淀みがない。
紅の左拳が顎を跳ね上げ、「ガンッ!」と音が鳴り、戦闘員の身体が持ち上がる。そこへ渾身の右ストレートが心臓を貫き、身体ごと壁へ叩きつける。
紅は息を切らさず、次の敵に向き直った。
動きが一切止まらない。
それはボクシングの連続打ではなくーー殺意を宿した武術だった。
一方の黒貞は、真正面から突進してくる三人を迎え撃つ。
腕を交差し、体当たりで受け止めーー
「ドゴォンッ!!」
衝撃音とともに、三人まとめて中に舞った。
黒貞の怪力が炸裂し、敵を弾き飛ばす様は重機そのもの。
「おうらぁッ!」
雄叫びと共に、電池入り靴下を振り回す。
風圧で埃が舞い、近づいた戦闘員がまとめて薙ぎ払われた。
頭が砕け、顎が千切れ、赤黒い液体が飛び散る。
黒貞の目は光を帯び、鬼神そのものだった。
倒れた敵を足で踏み潰し、喉元を容赦なく叩き割る。
骨が軋み、肉が潰れる鈍音。倉庫の中は、地獄のような光景へ変わった。
たまらず黒貞と距離を置く戦闘員。
その隙を見逃さず、素早く懐に入る紅。
顔面にめがけて放たれるパンチは、効率良く戦闘員をなぎ倒してゆく。
フラレンジャー2人の動きは、決して連携が取れた動きとは言えないが、戦闘員を一人、また一人と確実に倒していく。
紅に比べ、動きが遅い黒貞は、やがて物量に押され囲まれた。
背後からの羽交い締め、腕を押さえる敵、正面からナイフが迫る。
黒貞は息を吐いた。
「なめんなよ。」
右手にしがみつく戦闘員の首を掴み、「ミシミシミシ……バキッ!!」
握力で頸部を握り潰した。
左足を軸足に右足を前に蹴り上げ、その右足を振り子の様に後ろへ回し、前に体重を預け――
「ドゴォォンッッッ!!」
地面を叩き割るような衝撃音。
プロレス時代の得意技、大外刈のプロレスバージョンであるS・T・K(スペーストルネードクロサダ)が炸裂。
巻き込まれた敵の頭が潰れ、鮮血が放射状に散る。蜘蛛の巣状にひび割れた地面が、破壊力を物語っている。
プロレス時代の怪力が、今、怪物として蘇る。
「…派手にいくね。」
「そらぁ、魅せる為の技だったからな。」
一方、紅も好戦していたが、物量に押され間合いを取れずにいた。
紅は胴体を抱きつかれ、クリンチ状態のためパンチが打てない。
しかし、冷静に深い呼吸を一つ行うと、ボクシングとは打って変わって、随分と腰を落とし込んだ構えとなった。
そして、右腕を後ろに引き、一気に戦闘員のこめかみに一閃、肘打ちを入れる。
戦闘員の腕が緩んだことから、間髪入れず喉に追撃の刺突。ギチリと喉元が潰れる鈍い音が響いた。
追い打ちをかける様に右膝蹴り、その足を大きく後ろに下げ、更に低姿勢になるやいなや、左手で頚椎に渾身の鉄槌(拳を握り込んだチョップ)を打ち込む。
おおよそ素人の動きではない。
その華麗な連続技に、黒貞も感心する。
「くれちゃん。おめぇさん…やってんな?」
「ははっ…。ばれちゃった?」
「空手か?それも半端じゃねぇ。明らかに熟練してやがんぜ。」
「まぁ……人生、色々あるからね。」
「その話、あとで聞かせろや。」
「終わってから、ね…!!」
二人が背を合わせる。
紅の動きは鋭く、黒貞の動きは重い。
速と剛が交錯するたびに、敵が一人、また一人と吹き飛ぶ。
戦闘員たちは立ち向かう間もなく倒れていく。
拳の風圧だけで頬が裂け、蹴りの余波で鉄骨が軋む。
紅の動きは舞うように軽やかで、黒貞の一撃は地面を震わせる。
戦闘員は次々と駆逐され、もはや戦場ではなく……処刑場だった。
ーーやがて、全てが静まり返る。
戦闘員は一人残らず沈黙した。
紅と黒貞は、先程まで戦闘員共に弄ばれていたであろう、ベッドで横たわる女性に近づいた。
虚ろな瞳。焦点の合わない視線。
かすかに息づく彼女ではあるが、紅達を認識しているのか不明だった。
「産夢!この人を正気に戻す方法はないか!?」
『すまない…私には、その術が無いのだ。』
「どうすりゃいい…。」
「…とりあえずよぉ、身体が心配だ。病院連れて行こうぜ。」
その言葉に、紅は静かに頷いた。
酷い有様だが、2人にはどうしようもなかった。
戦闘による熱気と、痛々しい静寂が、廃倉庫を包みこんだ。
次回予告!
戦闘員に弄ばれた被害者はなんと!意外にも未恋の友人、岡紗礼子!いやぁ、予想外すぎてビックリッッ!!
更に登場人物が増える予感!どうなるフラレンジャー!!
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