1-8話 記憶と現実の狭間で:家族の影と職員のまなざし
母はベッドから半分落ちたまま眠っており、叔父は寝起きのままぼんやりしていた。
(姥捨て山の職員たちは呆れているだろうな……)とグレッグは思ったが、彼らの表情は意外にも穏やかで、拍子抜けした。
看護師がグレッグの“逃避”を知っていたのは、彼自身が誰かに伝えなければ抱えきれなかったからだった。
両親が通っていた診療所にも、手紙を送っていた。
こんな親たちに育てられたという事実に、絶望とも怒りともつかない感情が湧いていた。
幼い頃から暗い部屋で過ごし、友達付き合いを禁じられていたグレッグは、誰に相談すればいいのかも分からず、診療所の先生に手紙を書いた。
親に風説を流布され、理解者を得られなかったグレッグは、自分に不利な誤情報が広まることを何よりも恐れていた。
ようやく久しぶりにスラム街の自宅で眠ることができた。
何か特別な感慨があるかと思ったが、特に何もなかった。
疲れが出て翌朝は起きるのが大変だったが、通院を終えた後、「一刻も早く実家に行かなくては」と思うとじっとしていられず、診療所が開くかなり前に家を出て、寒空の下で診察開始を待った。
実家へ向かう乗り合い馬車では席が空かず、ずっと立ちっぱなしだった。
翌日、再び母の姥捨て山の職員が訪れた。
今回は事前に約束があり、午後の訪問だったため、叔父もきちんと身支度を整えていた。
一方、母は「利用料が高額だから、そういう関係者が来るのは嫌だ」と言って部屋に籠ってしまった。
しかし、担当者によれば、母が主張する額の十分の一が実際の利用料であり、月額と一回の利用料を勘違いしているのではないかとのことだった。
グレッグには、母が都合よく嘘をついていることが分かっていた。
職員は言った。
「これからも母が恣意的に振る舞うことがあると思いますが、何事も悪気はないですよ」
そして続けた。
「認知症なので仕方ないですよ」
その言葉に、特別な教育を受けた人の考え方の深さを感じた。
こうした経験が、後にグレッグの仕事へとつながっていくことになる。
「来週には再び職員を入れて、姥捨て山で独り暮らしができるか様子を見ます。それまでにお二人とも帰ってください」
職員が帰るや否や、叔父は晩酌を始めた。
帰る日の調整をしようとすると、叔父は「何で帰らなきゃいけないの?」と言い出した。
つい十分前の話なのに、何を聞いていたのか――グレッグは、叔父も母と同様に記憶が不安定になってきているように感じた。
その日は母の通院日で、グレッグが同行して出かけようとした時、叔父が「酒を買ってこい」と言った。
その後、母はまた三時間かけて楽しそうに買い物をした。
何もせず、ただ母を見守るだけのグレッグは、「この時間に仕事をしていたら、いったいどれだけの報酬がもらえるのだろう」と考えていた。
つづく
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