第3話# **番組台本案(続き)**


感動的なパートから一転、山本あづささんの死の背景に潜む問題点に切り込んでいく、告発的な展開作成します。番組のトーンをガラリと変え、サスペンスと緊張感を高める演出を意識しました。


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### **番組台本案(続き)**


**【スタジオシーン】**


**ロケーション:** 番組スタジオ

**登場人物:**

* メインキャスター

* 鈴木先生(医療ジャーナリスト・評論家)


(鈴木先生が、あづささんのプロ意識の高さについて解説し終えた後。スタジオには、若き看護師の死を悼む、静かで重い空気が流れている。)


**キャスター:** 「これほどの強い意志と覚悟を持って看護の道に進んだ山本あづささん。しかし、なぜ彼女は、24歳という若さで命を絶たなければならなかったのか…。」


(キャスター、表情を引き締める)


**キャスター:** 「私たちは、彼女の死の背景を取材する中で、ある『歪み』とも言える事実に辿り着きました。担当の壬生ディレクターの報告です。ご覧ください。」


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**<VTR START>**


**(BGM:静かだが、不穏な予感をさせるアンビエントな音楽に切り替わる)**


**映像:**

夜の病院の外観。いくつか明かりのついた病棟の窓。救急車のサイレンが遠くに聞こえる。


**壬生(D)ナレーション:**

「山本あづささんの、早すぎる死。その背景に何があったのか。私たちは、彼女の同僚や関係者への取材を重ねた。すると、誰もが口を揃える、ある『異常』な実態が浮かび上がってきた。」


**映像:**

取材メモを走り書きする手元。ボカシのかかった同僚(声は加工)へのインタビュー映像がインサートされる。

**(同僚の声)**「あの子だけじゃなかったです。あの病院は、みんなギリギリでした。でも、あづさちゃんは特に…断れない性格だったから…」


**映像:**

壬生ディレクターが、ある資料の束をデスクに広げる。それは、あづささんの遺品の中から見つかった、手帳や給与明細、そして数ヶ月分の勤務シフト表。


**壬生(D):** (手元の資料を一枚一枚、指でなぞりながら)

「これは、あづささんが亡くなる直前数ヶ月間の勤務状況が記されたシフト表です。」


(カメラが、シフト表にズームアップしていく。びっしりと書き込まれた文字。「日勤」「夜勤」「準夜」などの文字が並ぶ。)


**壬生(D)ナレーション:**

「一見、他の看護師と変わらないように見えるシフト。しかし、その中には、私たちの常識を覆すような勤務実態が隠されていた。」


(壬生ディレクター、ペンでシフト表のある一点を指し示す。カメラがそこに寄る。)


**壬生(D):** 「ご覧ください。」


**(SE:心臓の鼓動のような、低い効果音)**


**壬生(D):** (スタジオの鈴木先生に語りかけるように)

「…鈴木先生、これは…?」


**画面に、シフト表の該当箇所がCGで分かりやすく表示される。**


* **月曜日【日勤】** 8:30 - 17:15

* **火曜日【夜勤】** 16:30 -

* **水曜日【夜勤明け】** - 9:15

* **水曜日【日勤】** 13:00 - 17:15 ← **ここに赤いマーカーが引かれる**


**壬生(D)ナレーション(強い口調で):**

「日勤から、夜勤明け、そして、また日勤へ。

…なんですか、この勤務状況は。」


(壬生ディレクターの厳しい表情で、VTRが終わる。)


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**<VTR END>**


**【スタジオへ転換】**


**キャスター:** (息を呑み、硬い表情で)

「…信じられないような勤務シフトです。スタジオのモニターにも、もう一度、あづささんの勤務状況を映し出しています。」


(スタジオの大型モニターに、先ほどのシフト表のCGが大きく映し出される。鈴木先生は、モニターを睨みつけるように見ており、その表情は険しい。)


**キャスター:** 「鈴木先生。…これは、医療現場では起こりうることなのでしょうか。」


**鈴木先生:** (ゆっくりと、怒りを抑えるように口を開く)

「……ありえません。断言します。これは『勤務』ではありません。『拷問』です。」


**キャスター:** 「拷問…。」


**鈴木先生:** 「見てください。火曜の夕方から働き始め、翌朝9時過ぎまで夜通し勤務する。これが『夜勤明け』です。この時点で、心身ともに疲労はピークに達している。労働基準法では、次の勤務まで最低でも8時間から11時間の間隔を空ける『勤務間インターバル』が推奨されています。しかし、このシフトではどうですか?家に帰って、数時間も経たないうちに、また病院に戻らなければならない。」


(鈴木先生、モニターを指差す)


**鈴木先生:** 「このような状態で、正常な判断ができると思いますか?患者に寄り添う心のケアを目指した彼女が、心も体も擦り切れていくのは当然です。これは、個人の頑張りでどうにかなる問題ではない。明らかに、病院側の安全配慮義務違反、マネジメントの崩壊です。そして何より恐ろしいのは、疲弊した看護師がたった一つ判断を誤れば、それが直接、患者の命に関わるということです。これは、山本あづささん一人の問題ではない。日本の医療全体が抱える、極めて深刻な病巣です。」


(鈴木先生の言葉に、スタジオ全体が静まり返る。キャスターは唇を噛み締め、次の言葉を探している。)


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