第2話不良令息愚連隊のリーダー

 そんな奴は一般の生徒はもちろん、他校の極悪不良愚連隊からも恐れられていて、もし奴がキレてその修羅の顔を見たが最後、五体満足で生き延びれた者はいないとされている。


 そして、この国の王侯貴族達からも恐れられていて、奴にビビッて全く手出しができない現状だ。

 歩くだけで国が動かざるを得ない存在キョウタロウ。奴一匹を潰せないこの国の未来は暗いだろう。


 奴は愚連隊仲間と一緒な時は帝王のような振る舞いを見せるが、基本的には誰ともつるまず、いつも一人でいる。 

 だが闇討ちにあっても一度たりとも負けなしだ。


 どんなに多勢で奴に挑んでも、キョウタロウは全てを鬼神の如く地に伏せてしまう。この国最強の騎士団長相手でも手も足も出ないらしい。そんな馬鹿な話があるか。


 強すぎる。そして凶悪。

 あんな奴がこの世に存在する事がこの乙女げぇむにとっての不運だ。乙女げぇむに出てくるきゃらくたぁって顔じゃないし、世界観をぶち壊しもいい所だ。むしろ某世紀末の漫画や某格闘漫画の登場人物にしか思えん。

 


 そんな奴と関わったきっかけは、弁当を食べに中庭の扉を開けようとした時だった。扉の向こうから何やら修羅場の声が聞こえてくる。


「わたくしの事好きだって言ったじゃないですか!あれは嘘だったんですの!?」


 どこぞの令嬢の必死な声が聞こえてきた。


「貴様が好き好きアピールがしつこいから合わせたに決まっているだろう。俺はキャピキャピした貴様なんぞ好きではない。その気になられても困る」

「ひどい……っ!わたくし……本気だったのに」


 扉の隙間からこっそり覗くと、花畑のど真ん中で令嬢が顔を覆い隠していた。その隣にはキョウタロウ。

 令嬢はともかく奴に花畑は不釣り合いなコントラストで目が痛い。


 あの令嬢はこの学校のミスコンとやらで優勝した隣のクラスの才色兼備だ。

 頭もよく、運動神経もよく、器量もよくて、可愛らしい。男女問わず高嶺の花的存在で、学園の女神ともよばれている。


「貴様が勝手に本気になっただけだろ。本気にされたオレが逆に迷惑している。体だけで満足だって言っていたくせにあれは嘘か」


 そんな女神を見下ろすキョウタロウは面倒くさそうだった。


「だって……本気で好きになっちゃって止まらないんですの、ぐすぐす」

「女はすぐに泣くから面倒だ。泣いてどうにでもなると思ったか。そもそも貴様のような愛だの恋だの夢見るスイーツ女が心底嫌いでな、勘弁してくれ。その甲高く泣くキンキン声も耳障りだ」


 ………。


 それ、泣いている彼女に対してあんまりな言い方ではないか。

 せっかく好きになってくれた相手に対しての言葉ではなく、ものすごく失礼であり、最低極まりないぞ。

 というか、わしだってあのミスコン女神様に憧れていた一人だった。性格もよくてお上品で、わしが当時好きだった昭和の大女優に似ていて、憧れの御姉様と呼びたかったのに!


 キョウタロウめ。憧れの御姉様を泣かせるなんてわしが許さんぞ!!

 わしは気が付いたら扉を蹴りあけていた。


「おいこの野郎!!」


 キョウタロウにどすどすと大股で近づき、わしは怒り任せに思いっきりこやつの頬を殴りつけた。

 ばきっという鈍い音が響き渡る。

 茫然として倒れるキョウタロウと学園の女神。

 わしキッとキョウタロウを睨みつける。こいつは女の敵だ。


 そんなキョウタロウは見る見るうちに状況を理解し、冷静さを取り戻した頃にはわしを目で殺せるほどの視線で睨みつけてきた。


「テメエェ……何、しやがる……っ!!」


 奴の背後からは怒りMAXなオーラが溢れ出ている気がするが、今のわしには何も見えていない。悪魔だろうがなんだろうが問答無用だった。


「何しやがるも何もてめえの胸に聞いてみやがれ!!この女泣かせ野郎!!男尊女卑!恥を知りやがれっ!!」

「アア!?意味がわからねぇよボケがっ!!なんで見ず知らずのテメエにブン殴られて暴言吐かれなきゃならねーんだよ!っつーか通りすがりのハゲ頭女のてめえには関係ねぇ事だろうがクソが!!」

「関係あるもクソもねぇよアホンダラァ!!好きになってくれた女性に対して失礼なフり方だと思わねぇのか!!てめえはそれでいいかもしれねぇが女はめちゃくちゃ傷つくんだぞ!一生フラれた傷残るかもしれねぇんだぞ!それがわからねぇてめえなんか立派なモンぶら下げてるだけの下衆野郎だ!!タマァ斬られて切腹しろい!!」


 バキッ。


 もう一度キョウタロウの頬をぶん殴っていた。無様に仰向けに倒れるこの馬鹿者。

 打ち所が悪かったのか、奴は動かない。案外あっさり気絶したようだ。


 そう言えばわしは生前少し空手をかじっていた。正拳突きが得意でパンチ力は結構ある方なんだ。

 うむ、我ながら転生しても拳の威力は衰えてないようで喜ばしい事だ。


「女泣かせなてめえはそこで反省するがいい!そして帰って母ちゃんのミルクでも飲んでいるといい!」


 捨て台詞のように吐き、わしは何事もなかったかのように踵を返した。

 わしの頭の中には、奴が大悪魔だとかいう項目が頭からすっぽり消えてなくなっていたのである。


 言っておくが、わしは一度キレると周りが見えなくなってしまう性格で、相手が誰だろうと見境なくなる。それが極悪不良令息相手に対しても。


 その後、冷静に考えてなんて事をしてしまったんだという後悔を胸に、わしは華々しく散る覚悟を抱くのであった。



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