第2話ㅤ銀の剣姫パーティの実力

「腕が立つ剣士が一人。他三人はそれほどでもないか」


 幻影魔法の応用で作り出したモニターに映る冒険者パーティを眺めながら、俺――アレス・ラビリアこと造寺 明司は、独り言を零した。

 ダンジョン開発もとい挑戦者の観察と虚しい独り実況。これが今の俺の日課だ。


「おっと銀髪剣士が前に出たぁ! その速さ、まさに銀の閃光ッ! 剣士だけに!」


 ――解説…俺、実況…俺。観客…ゼロ。

 けどこれが意外と楽しい。


ㅤやっぱちょっと虚しい。


 俺は前世、日本でゲーム開発に命を削った人間だった。

 過労死からの転生からの異世界。ありがちな流れ……だが、どういうことか目立った特典もチートも無い。

 転生先は一般的な家庭。

ㅤ問題は剣の才能は全く無く、魔力も平均以下という点だ。


 ただ一つ、俺には特技があった。

ㅤ……魔法を発動する為使用される魔術式の構造を深く理解できる。恐らく前世の職業柄といっても実質無職だが。ずっとしていたことの仕組みに似通ったところが魔術式にはあるのだろう。


ㅤ――それでも魔力がなければ意味が無いのだが。

 俺はこの構造理解力を活かすべく、魔力が少ないものでも魔術式を組み込めば発動できるようになる錬金術由来の技術的、魔力コアなる技術的に目を向け、果てしない試行錯誤の末に今こうしてダンジョンそのものを創れるようになった。


ㅤ元は微風を起こしたり、水を少し出す程度のことしか出来ないのだが、それは組み込む魔術式に無駄が多いことが原因。

ㅤそこを徹底的に切り詰めた訳だ。


 モニターでは、今銀の剣姫……今勝手に名付けたが、彼女がアンデットを次々と切り伏せていく。

 美しい剣筋だ……と思うと同時にアンデットの動きが妙にカクカクしてることに気付く。開発している時は気にならなかったが……。

ㅤ召喚の魔術式の最適化をし過ぎて召喚物にまで影響が出るようになってしまったか?ㅤ節約癖が祟ってアンデットに送り込む魔力量を動作可能な程度にまでケチったのが問題か?

ㅤともあれ修正リストに追加だな。これはこれで味のある動きだが。個人的に気持ち悪いので直す他ない。


「いやぁー素晴らしい剣筋! 果たしてこの銀の剣姫パーティはダンジョンを踏破できるのでしょうか!? 解説のアルスさん、どう思います?」


「そうですねぇ……彼女の実力は間違いなく一級品。問題は他のメンバーですかね。もう一人の剣士に重装備のタンク。後方支援の聖職者がいるようですが対して役に立てていない様子。動き的にも実戦経験が少ない駆け出しなのかは分かりませんが」


ㅤ裏声が管理室に響く。

ㅤもちろん、一人二役。解説1も解説2も全部俺。


「既存の冒険者パーティに強豪冒険者の銀の剣姫が指導の為にアサインされたパターン……でしょうか?」


「可能性は充分にあると考えられます。第一このダンジョンはギルドが4人以上Aランクパーティでの挑戦を前提として適正難易度を決定していますからね」


ㅤだとしたら銀の剣姫はパーティに馴染めて無さすぎて完全に浮いてる上に特に指導らしい指導も無い。

ㅤ戦闘が終わったら振り返りもせず先陣を切るなど、輪を乱す問題行動が目立つ。

ㅤ無愛想でかつ戦闘以外に興味は無い。見て覚えろタイプなのかもしれない。上司にいて欲しくないタイプだ。


ㅤ……昔の自分を思い出すな。

ㅤ開発業務は何かと他者とのコミュニケーション能力を求められる。そのせいで無茶苦茶苦労した。


「銀の剣姫パーティ、早くも険悪な雰囲気ですね」


 ……ふと我に返る。

 管理室にいるのは俺一人。

 どれだけ実況しても、この声は誰にも届かない。


「……寂しいなぁ」


ㅤ孤独を強く感じた。きっと、銀の剣姫も同じように孤独を感じているに違いない。

 だからか、冒険者がダンジョンを攻略していく姿を見るのが、今世の俺にとって大きな生きがいだ。

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