異世界ダンジョン開発記――結局転生先でも連日バグ修正に追われるのは変わらないようで
紅鮭太郎
第1話ㅤ自発的デスマーチの代償
「――まさか死んでまでバグ修正に追われることになるとは思わなかったな……」
異世界で紆余曲折を経てダンジョン開発者となった俺は、今日も挑戦者の攻略の様子をツマミにしながらダンジョン開発並びにバグ潰しを続けている。
ㅤそしてたった今、深刻なバグと直面し頭を抱えていたところだ。
「あの……バグって何ですか?」
ㅤバグの発生を実際に目の当たりにした銀髪の女剣士が問う。
「そうか知らないよな。簡単に言えば開発者にとって予想外の事象だ。実際は決められた命令に従っているだけだが……」
「なるほど……?」
ㅤ如何せん俺には戦闘センスが無いため、戦闘を行ってデバッグするという行為そのものが不向きだというのもある。それでも致命的な部分は予知して潰した。現に動いている。
ㅤなのにまさかあんな事態を引き起こすなんて――
……さて、話は俺がこの世界に来る少し前、そしてこうなる直前まで遡る。
◇
数々のフィギュアとアクリルキーホルダー。
壁いっぱいに貼られた推しキャラクターのポスター。
積み上がるゲーム雑誌、机に散らばる空きボトル。
――そして、モニターにかじりついてコードと格闘する男が一人。
俺の名前は造寺 明司(つくでら めいじ)。小規模チームのゲーム開発者だ。
売り上げは細々、でも手応えはある。……まだ飯は食えないけど。贅沢さえしなければ前職の蓄えを切り崩して生活ができる。
当然、身体は過労と栄養不足により限界を迎えていた。
「……はぁーっ!?ㅤバカゴミカス死ねやボケ! 誰だこの脳死コード書いたやつ!? 動けば正義? 動いてねぇんだよバグってんだよ! ……で、作者は……造寺 明司……? はい俺です! 死ね!!」
こんな調子で奇声と罵声をあげながら、開発終盤、担当箇所のコードにブチ切れて修正を繰り返す日々。
ㅤ他の開発メンバーも軒並みこんな感じだ。
気が付けば、まともに食事も睡眠もしないまま二週間が過ぎていた。
「こいつ(=俺)が死ねば世界は救われる! ゲームは大ヒット! アニメ化! 俺達は超大金持ち! 時代が来る!」
意味不明なことを叫びながらも、手は正確に動く。
あと少しでバグは直る。張り詰めた糸が切れるのも、その瞬間だった。
視界がぼやけ、指先が動かない。
そのまま顔面からキーボードに倒れ込み――
画面には意味を成さない文字が延々と打ち込まれ続ける。
造寺 明司、享年26歳。
死因:過労死。
職業:実質無職。
「……バグ、直んなかったなぁ」
そう呟いた気がした瞬間、俺の人生はゲームオーバーを迎えた。
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