焰と黑ーAtonementー
雷火炎上
罪を憎んで人を憎まずをできる者はどれだけいるのか。
罪を背負って生を償いに費やせる者はどれだけいるのか。
その罪は誰のものか。
その罰は誰のためか。
咎を与える者は何を思う。
咎を受ける者は何を思う。
ーー
ゆらりとサンダーバードのスノウがふわふわと浮きながら少し前へと飛行し、だが半開きの目の表情に覇気はなく凛と構えるアヤセとの落差に相対するシリウスとガーゴイルのエイルは調子を崩されかけるも、闘志を保ちつつまずは分析にかかる。
(サンダーバードは風属性だが、雷を操る事から火の勢いを強くするような事はできず、自ら嵐を起こす力もない。だが、あの巨躯と様子では……油断ならないな)
高山地帯に住まうサンダーバードは自ら発電し、それを利用し生活している。言い換えればそれに依存し浮遊する事をする為に鳥として見た時に飛ぶのは上手くはない。
しかしその巨体は単純な力が強く、また眠そうにも見える様子は外敵が少ない事からの余裕や、秘めた力を蓄え切れてない事を示すものとシリウスは読む。
アヤセ自身の戦術は拘束スペルやツールによる支援を主とするものと聞いてるのもあり、スノウが力を蓄え切るまでの時間稼ぎをするというのは予想ができる。当然、そうした想定をしてくる事をアヤセも読んでいるのだろうが。
「そちらから動かないならば、ワタクシから参りましょう。スペル発動、フレアバインド!」
シリウスが動かない事でアヤセが動く。まず切られたのはフレアバインドのスペル、炎がエイルへ集まるように現れると一気にまとわりついて炎の縄となるも、それに動じずにエイルは白い石の体に力を入れて抜け出し引き千切ってみせる。
アヤセがその力に感心する間も与えずエイルが翼を広げて飛翔しながらスノウへと接近、ぬうっと長い首を持ち上げるスノウがしっかり捉えてるのを確認しながら急降下し攻めに行く。
拳を握り締め殴りかかるエイルに対しスノウは動かず、それが鈍重故のものでないと察しすかさずシリウスがカードを切る。
「スペル発動エアーブラインド」
スノウに対し向かい風になるように上昇気流の壁がエイルを止め、すぐに翼を広げ風をとらえてエイルはスノウから距離をとった。
本来は目隠しや簡易的な防壁を作り出すブラインドスペルだが、向かい風になるという点を利用した形である。
そのまま攻撃してはならないと危機察知したシリウスに対しお見事と一言アヤセが告げ、彼の前へ着地するエイルを捉えつつ白い身体の分析を述べた。
「白い聖石はエルフ族の秘術で造られるものと文献にありましたが、その身体を持つガーゴイルがいるとは……普通の拘束スペルでは普通のガーゴイル以上に効かないようですね」
「……察しの通り我が一族の聖なる石の身体をエイルは持つ。かつて人の世界に輸出されたものが加工され魔除けとされていた、らしい」
エルフの持つ技術の凄さはアヤセも文献や、ネビュラ・メサイアの事件で彼の資料から学んでいる。その技術と人の文化、偶発的なものとが重なり生まれたと言えるエイルは、極めて珍しいだけでなく手強い相手である。
無論同じような事をシリウスもスノウへと感じ、アヤセへ分析した事を述べて返す。
「常に帯電し防御結界のように纏っている。そしてそれは真の力を出す為の予備動作……といったところか、攻防共に優れたものだ」
「見た目に惑わされず切り返す洞察力に敬意を表します。ですがお察しのように、時間をかける程にスノウは力を発揮いたします……攻めるか諦めるか、どちらを選ぶにしてもワタクシは受け止める所存です」
爬虫類が体温を上げねば動きが鈍いように、スノウもまた電気を貯め込む事で動く。その間鈍重となるものの結界のように帯電し続ける事で防御と反撃を兼ね、それでいて貯める事もこなしている。
時間をかければそれだけスノウの覚醒は近づき、だからといって攻めをするにしてもアヤセの妨害をかいくぐった上で叩かねばならない。エイルの能力を見極められた点も踏まえシリウスは彼女が使ってくるであろうカードを想定し、カード入れに手をかけた。
(防御自体は厚みがなく突破さえできれば手傷を負わせるのは難しくはない。問題は危険を犯さねばならぬという事だが……)
まだ初戦である事を考えると手の内を晒す事やアセスの負傷による反射は避けたいが、スノウの能力により時間をかけられない。だからといって退く事も論外である、そんなシリウスの脳裏に浮かぶのは姪であり妹スバルの面影を持つエルクリッドの後ろ姿だ。
彼女ならば迷わず前へと進む、まだまだ戸惑い悩みながらも覚悟を決めて立ち向かい、そして
(そうだなスバル……伯父として、姪に模範を示さねばならない。そして彼女から学んだ事を行動とせねば、な!)
強い意思がシリウスの瞳に宿り、察したアヤセもまたカード入れに手をかけ迎え撃つ姿勢を取る。刹那、床を砕いて飛び上がった木片をエイルが掴みスノウへと投げつけ、帯電層に阻まれ焼け焦げるのを確認するとエイルが両手を合わせてから前へと突き出し、掌から螺旋状の風を放つ。
「スペル発動エアーフォース」
「させません、スペル発動スペルガード」
エイルを強化するエアーフォースでシリウスは攻撃力を高め、アヤセはスペルを防ぎ切るスペルガードのカードを使い防御結界を展開する。
瞬間、アヤセはエイルが魔法を放ちながら低空飛行でスノウに接近しているのに気づき、スペルガードの結界の前にエイルが辿り着くと魔法を放つのをやめてそのままスペルガードの中へと侵入し、内側で再度手を突き出し風魔法を放つ。
(スペルガードの穴を突いて……! ですが、同じ属性であるのがウチにとっては不幸中の幸いです!)
スペルガードは魔法そのものや魔法由来のものを防ぎ切るが、物理的なものは透過してしまう。内側にさえ入れば効果の外という点をシリウスが突いた形だが、アヤセもすぐに切り返す。
「スペル発動、フォースミラー。貴方様の使用したエアーフォースの効果を、ワタクシも使わせていただきます」
黄色い光がスノウの全身を包み込み、帯電層が厚みを増してエイルの風魔法を押し返す。スペル効果をそのままアセスへ与えるフォースミラーの使用は同じ風属性を持ち、エアーフォースの適用を受けられるスノウにとっては文字通り追い風となり、音を立てる稲光が大きく強くなりスノウの覚醒を早め目を開かせた。
巨体を動かし大きく翼を広げたスノウがエイルへ蹴りを繰り出し、風魔法を押し退け身体を掴みそのまま握り潰しにかかる。と、エイルもまた足を掴み爪を立てながら螺旋状の風を放ち、刹那にシリウスがカードを切る。
「心身を燃やし生み出す炎は、生命の力を示す牙となり敵を討つ……! スペル発動、ブラッドフレアー……!」
エイルの身体がひび割れながら光を放ち、刹那に爆裂すると共に血のように赤い爆炎がスノウを包み込む。
アセスの生命を燃やしその身を犠牲として放つブラッドフレアーのスペルは、アヤセが使ったスペルガードの内側という事もあり効果が外に逃げず留まる形となりスノウを襲い、全身からシリウスが血を噴き出すと同時にアヤセもまた全身を焼かれ血を流し片膝をつく。
(風魔法を織り交ぜる事で火力をより高めるだけでなく、ウチのスペルガードを逆手に取るとは……スノウはまだ健在ですが、無理はさせられませんね)
スペルガードの結界が消え、爆炎の中よりぶわっと力強く羽ばたきスノウが姿を現しながら飛翔し、しかし全身を焼かれ重傷を負った為に帯電できずそのまま着地する。
だがすぐにアヤセはスノウをカードへと戻してカード入れにしまうと、シリウスもまたカードへ戻り手元に帰ってきたエイルをしまい呼吸を調えた。
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