積み重ねを読む
シリウスとアヤセの初戦は痛み分けで終わり、そこからすぐに二人は傷や痛みなど気にする事なく沈着冷静に次のアセスの選定を始めていた。
が、シリウスはブラッドフレアーの反射が大きくよろめき、ひとまずヒーリングのカードを発動し傷を癒やしながら思考を進める。
(ブラッドフレアーで倒し切れなかったのは誤算だった、流石は十二星召のアセスと言うべきか。ならば次は……)
アセスを犠牲にするという特性上、ブラッドフレアーは魔法としてかなりの威力を持つ。詠唱札解術を用いたなら尚更であり、威力の逃げ場のない状態ならさらに破壊力は増す。
それをスノウは耐え切りブレイク状態とまで行かず、アヤセに反射を与え退かせはしたが魔力の消耗の差は大きかった。
かたやアヤセもヒーリングでまずは回復をするシリウスを見つめながら眼鏡の位置を直し、心へ話しかけてくるペリのホワイトと対話する。
(アヤセ、次はあたくしが出ても?)
(いえ、あなたを出しても相討ちに持ち込まれるでしょう。あの方とウチの戦い方はよく似ている……となれば、本来は致しませんが強気に攻めて行くほうが堅実です)
(ふぅん……でも似てるならば、読まれてるってことでしょう? いいのかしら?)
構いません、とホワイトに返しながら笑みを浮かべたアヤセがカードを引き抜き魔力を込める。シリウスもまた同じように回復を終えてカードを引き抜き、互いに相手を捉え無言で称賛するように小さく頷きアセスを呼び出す。
「神の眷属たる獣、威風堂々たる姿示し浄化の力を示せ……! いでよ精霊獣バロン!」
「融ける真白は燃え尽きず、炎は翼を得て可憐に舞い踊る……守護の翼を開け、
白い煙を噴出するカードより雄々しく宝飾類がつく長い毛と口に収まらぬ牙を持つ精霊獣バロンが姿を見せると、真白の身体を燃やしながら飛翔し羽ばたく
双方共に最も実力のあるアセス同士、それが示すのはこの戦いをもって勝負を決めに行くという判断だ。
(白蝋のフェニックス……初めて見る上に真化している、か。不死性に対し消耗させれば勝機は見えるが……)
フェニックスの中でも白い身体、蝋に似た身体を持つ種類は極めて少なく情報もない。だがフェニックスであるが故にその特性は似ているとシリウスは見極め、その能力を使う為にはリスナーであるアヤセが消耗するというのも見抜く。
同時にそれを考慮して戦術を展開するというのも予測がつき、かたやアヤセも精霊獣バロンの雄々しくその名に恥じぬ出で立ちと力強さを感じ、立ち回りを構築する。
(部屋で見ていた限りは強靭な身体と肺活量を武器とするようですが、その他の情報は得られてはいない。ウチが把握してない何かがあるならば、まずはそれを見極めていく必要がありますね)
シリウスが手の内を晒すのを避ける戦いぶりを見せていたのは承知の事実、神獣の欠片とも言われる精霊獣が並の力や常識で測れないというのにも意識を集中しカードを選び抜く。
刹那に双方のアセスが動き、バロンは床を砕いて一気に飛びかかりアリスは避けるように上方へ飛んで燃える蝋を降らし反撃へ。すぐにバロンがさっと素早く避けると壁の方へと駆け、三角跳びの要領でアリスと同じ高さまで辿り着くと大きく息を吸って空気の塊を吐きつける。
吐きつけられた空気の球がアリスに直撃し突き抜け、その体に綺麗な丸い傷を作り出すもすぐに蝋が集まって傷が塞がってしまう。
フェニックスが持つ強靭な生命力と回復能力、その二つがある以上はアリスを撃破するのは不可能である。ただしアセスである以上は回復能力を使う度にリスナーが消耗し、やがて魔力が尽きるという弱点でもある。
だがそれはバロンとて同じこと。傷を塞いだアリスが着地する前の無防備なバロンへ迫り、力強く羽撃き身体から剥がれるように飛び散る燃える白蝋が降り注ぐと、身体に身に着けている宝飾類が輝き琥珀色の膜を作り出してそれを防ぐ。
(防御能力は互角、か。消耗戦に持ち込むか、それとも……)
不死身の身体と強固な結界展開能力、支援なしでも守りが硬い者同士ならばその能力行使に対しリスナー自身の魔力がもつかどうかとなる。
だがそれはリスナーの介入でいくらでも変わるのもまた事実、早期からカードを使っていくか、消耗戦をし魔力が尽きる間際の刹那に勝負をかけるか。最初の攻防から二人のリスナーが電光石火の如く思考を巡らせ出した答えは、奇しくも同じであった。
「スペル発動ビーストハート、待つよりは動いた方がいいな……!」
「スペル発動バードハート、積極的に挑む方が有利ですね……!」
双方共に強化スペルを発動し、その力を受けたアセス達も攻めへ転じる。バロンが爪で引き裂き、喉元を食い千切ろうとアリスは瞬時に再生し、攻撃の都度バロンの身体は燃えて白蝋が固まるが宝飾を輝かせてそれを弾き飛ばし動きを取り戻す。
普通に戦えばキリがないのは明白、故にアヤセとシリウスの支援合戦が始まる。
「ツール使用、レージングの縄!」
「スペル発動ツールガード」
「スペル発動ガードブレイク」
「ツール使用、空蝉の鎧」
アヤセが使用するレージングの縄がバロンへ絡みつくのをシリウスがスペルで守ろうとするが、それをさらにアヤセが無効化すると即座に空蝉の鎧を使いバロンに透明な鎧が装着される。
レージングの縄が絡みつくと同時にアリスが口から白い炎を放射し浴びせかけるも、脱皮するようにするりとバロンが鎧から抜け出てレージングの縄から脱し身代わりとし躱す。
だが二人のリスナーは動じる事はなく、ここまでは読み通りとさらなるカードを切った。
「我手招くは天地の狭間、その身印刻まれ己が力のみで進む試練を与えん……! スペル発動、肢能の刻印!」
高等術の一つ詠唱札解術で二人がほぼ同時に口にし、力強く発動するのは全く同じカードであった。双方のアセスの額に切り傷のような刻印が現れ、それを見てから二人のリスナーは相手と顔を合わせフッと笑う。
「カードの使用限度枚数を狙って肢能の刻印を使う……考える事が同じですね」
「特殊な能力を持つアセスを相手とするならそれを封じる術が必要となる、真化したアセス相手なら尚の事……もっとも、ここまで手の内が同じだと判断に迷うが、な」
確かに、とアヤセが返しながら眼鏡を光らせ位置を直す。狙いは同じ、戦い方も似ている、発動したスペルが同じで同時となれば認めざるを得ない。
肢能の刻印は純粋な力と速さ、防御力といった身体能力以外を抑制する刻印を刻み込み、再生能力や魔法等を封じ込めてしまう。カードに戻してしまえば消えてしまうものの、詠唱札解術によりエスケープ以外の方法で戻せなくする効果を発揮する。
リスナーが同時に行使できるカードが五枚という点を考えれば、確実に切り返されない瞬間に狙いのカードを使うのは定石。そして同じ狙いをした事でそこから先は予測不能の即興戦術、臨機応変に対応していかねばならないと。
静かに双方のアセスが相手に向かっていき交差と共に顔を切ってリスナーにも頬の傷として反射される。まだ見えぬ戦いの終わりへ、退くことなくリスナー達は向かっていく。
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