第5話理由なんて、どうでもいい。書ければ、それで。
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カタカタカタッ、ターンッ!
小気味いいタイプ音の最後に、エンターキーを叩きつける。よし、一人目。まずは手始めに、自慢のワインセラーで熟成中の高級ワインを頭から浴びて、感電死。うん、なかなかの芸術点だ。
でも、一回殺しただけじゃ、わたしのこの三ヶ月分の鬱憤は晴れない。デリート、デリート。全部消して、もう一度だ。
次はどうしようか。あいつ、確か美食家気取りで、雑誌に偉そうなコラムを連載してたな。よし、決めた。世界一臭いと評判のシュールストレミングの缶詰を無理やり口に詰め込まれて、あまりの悪臭とガス圧に頭蓋が破裂して死ぬ、なんてのはどうだ。うん、実にフォトジェニック。
カタカタカタッ!
指が勝手に動く。脳が痺れる。楽しい。楽しすぎる。スランプでうんうん唸っていたのが馬鹿みたいだ。最高のエンターテインメントじゃないか。
「ふふっ……」
思わず笑い声が漏れる。
別に、一人の人間を殺すのは、一作品につき一回までなんてルール、どこにもない。章を変えれば、別人としてまた登場させられる。夢オチってことにすれば、何度だってリセットできる。なんなら、ループものの世界に閉じ込めて、毎日違う死に方を提供してやったっていい。
「同じやつ、何回殺したろか(笑)」
百回? 千回?
飽きるまで、殺し尽くしてやる。わたしの言葉で、わたしの物語の中で、永遠に。
あいつがわたしの才能を殺そうとしたみたいに、わたしはあいつの存在を、このテキストデータの中で何度でも抹殺してやる。
「これ、もしかして才能……?」
滞っていた筆が、誰かの死(という妄想)を燃料にして、こんなにも滑らかに動き出すなんて。皮肉なものだ。いや、これが真理なのかもしれない。創作っていうのは、元来、こういう呪いや祈りにも似た、おどろおどろしい感情から生まれるものなんじゃないか。
まあ、どうだっていいか。
理由なんて、どうでもいい。書ければ、それで。
面白ければ、それで。
**まあぇ(笑)**
わたしは新しいコーヒーを淹れると、再びキーボードに向き直った。
さあ、百通りの殺し方、次はどんなメニューにしてやろうか。今夜は、まだまだ長くなりそうだ。
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