第33話 作戦会議
「では、よろしいですね?」
テレビを消したために、後方の金属音や水音奏でる皿洗いのみが、このリビングに鳴り響いていた。そんな中、俺は真剣な眼差しで、テーブル越しに位置する面々を流し見る。
窓側が俺一人に対し、廊下へ続く扉側には右から、女、白銀さんだ。叔父は現在皿洗いをしていて、杏は寝かしている。
女から、そしてこの一件で、少し記憶がしっかりしてきた杏にも、天海家に聞いてみた。
そしてやはり、その実態はかなり悲惨だそうだ。
離婚後、悟は荒れ始め、子供には不干渉。
それを見越して妹夫婦は三人を引き取る。
その後は、杏が悟の不干渉を寂しがり、夫婦を避ける様に。それで、杏と女は孤立する。
次第に女はグレていき、保護者に反抗。それを示す様に女は学校で次々と男を食い荒らし、股が緩いという噂を立てられ、経験人数はこの年で既にヤバいことに。
うん、俺には全く、これっぽっちも理解できない世界だ。中学生で初体験って、それは例え世界が受け入れようとも、俺には受け入れることができない。
駄目だろ、普通に考えて。
んで、そんな態度を取った女と、悟との仲は更に険悪となる。一度、悟が激昂して女を殴り、その後に一度ぶっ倒れたことがあるらしい。
過酷な家庭環境だ。女を擁護するのは気に入らないからやめておき、今は杏について。この年齢で親元から離れ、さぞ不安だっただろう。しかも、良く天海夫婦と女は怒鳴り合いになっていたらしいからな。
改めて、俺たちは彼女に対して、何もやれていないことに気がついた。
そしてきっと、杏の未練はこれだ。
誰一人として通じ合えなかった天海家、その修復。女と触れて少し落ち着いたが、杏はその前まで、天海家へと帰りたがっていた。記憶が少し戻ってきたからこそ生じる孤独感。早く、俺たちがなんとかしてやらないといけない。
そのためには何が必要か。答えは、悟の妄想状態を振り払うこと。医療知識なんか無いし、もしかしたらそれは悪手なのかもしれない。でも、それが最優先だと考えた。
実の娘に不当な暴力を振るった時点で、俺の中で奴は、女や親父と同種、つまりは許すことのできない存在である。でも、杏はその悟との和解を求めている。女も、元からそんな風では無かったと話した。
なら、まだ希望はある。
「まず、確認をしよう。
私たちがやるべきことは主に二つある。
一、悟さんの妄想を解くこと
二、杏ちゃんの存在を認めさせること
これで良いかな?」
「はい、それで間違いありません。一に関しては、俺の方で色々とやっていくつもりですが、問題は二です。霊なんて誰が信じるかっていう話ですし、そもそもとして、俺たちは再び部外者への情報漏洩をしてしまうことになる。簡単には踏み出せません」
「そうだね、私みたいな特殊なケースで無ければ難しいだろうし……」
一瞬、女の眉が下がった気がした。俺はそれを見逃さず、女を一睨みする。
「つまりは、人間と霊を繋ぐ何かがあれば良いってことだろ? なら簡単だ。霊つっても、物体に干渉することはできる」
「そうだな。しかし、じゃあ適当に物体を浮かせて、それを見せつけるか? それで、簡単に信じるとは思えんがな。だって、それを見てしまうってことは、杏がこの世にいないってことの証明になるだろ?」
「うん、確かにね。正攻法ではあるけど、もっとこう、何か確実な物が欲しいって感じかな」
「確実な物、ねぇ」
その時、女が口角を上げた。
「一つ、あるぞ」
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補足
悟の妹、天海夫妻は対話の末、姓を天海にしました。
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