第22話 車内にて

「映画の声、違う無かったか?」

そんな叔父の一声で、この話は始まった。

「はい、大体十年前ぐらいかな? 丁度声優が一斉交代したんですよ、ドレェもん」

すかさず白銀さんが答える。

「絵もなんかこう、テカっとしとるっちゅうか、あんま、見慣れへんさかい、変な感じやったわ」

まぁ、叔父はあんまアニメとか見なさそうだしな。何なら、昭和のヒーローものが彼のイメージするアニメなのかもしれない。

「話も、なんかよう分からんかったわ。タイムパラドックス? 人工知能? みたいなんがこうバーっと耳に入ってくるもんやから、ホンマ混乱したわ」

「まぁ、今回は少し複雑でしたからね。それで、霊斗はどう思った?」

突然、俺に話が振られる。

この流れ、いずれこの質問が飛んでくるとは予想していたので、即答した。

「意外に面白かったです。テーマもしっかりしていて、まぁ、批評とかはしたこと無いんで深いことは言えないですが、とにかく面白かったです。正直、子供向けだからと舐めていました」

「でしょ!?」

急に白銀さんがこちらに振り向き、目を輝かせてこちらに視線を向けてきた。

そこからはもう怒涛だ。よっぽど好きなのか、マシンガンの様に言葉が射出され、俺を圧倒する。遂には、好きなみらい道具議論まで始まった。


俺はそれを脳内に記憶しつつ、彼女の目を見つめていた。その目が語りかけてくるのだ。杏はドレェもんが好きだ、私が上手くトークを回すから、それに合わせて自然に杏と会話をしろ、と。

「えっとね、あたしはこうふくトランプが欲しい。夢を叶えてくれて、そしたら一枚ずつトランプが消えちゃって、最後にジョーカーしかなくなっちゃったら不幸がおとずれるの。でもあたしかんがえたんだ。そもそもジョーカーを消してってお願いしたら、大丈夫なんじゃないかって」

……そんな道具があるなんて初耳だ。てか、何だその道具、その願いってのに制限が無ければ本当に何でもありじゃ無いか。

──それ使えば、今回の映画開始30分ぐらいで終わった気がするのだが……

俺は首をブンブンと振る。

あくまでもフィクション、そこんところは考えないようにしよう。

て、違う違う。ここで俺が何か答えなきゃいけないんだ。何と聞けば良い?

そんな都合良く行くか? 未来道具って大体それに見合うデメリットがあるし……

駄目だ駄目だ。否定しちゃいけない。まずは肯定から入らなければ。

「へ〜、良いな、それ。杏は、それが手に入ったらどんな夢を叶えたい?」

すると、杏は良くぞ聞いてくれましたと言わんばかりにこちらを向き、笑った。

俺はほくそ笑む。

「あたしはね、持ってたら、まずはお菓子をいっぱい食べたい! それとね、ドレェもんにも会いたいな。あとね、あとね、お母さん……に、会いたい?」

その時、突如として杏が首を傾げたまま、俺から目線を逸らした。いや、性格には、俺では無く、その先にある何か、虚空を見つめていた。

俺は異常を察して杏の肩を掴み、顔を近づけた。

「おい杏? 大丈夫か?」

それしか言えなかった。それしか言えない自分が悔しかった。

だから、その肩をより強く掴んだ。

「杏、返事をしてくれ!」

気がつけば腕には相当の力が入り、冷や汗が俺の額に滲んでいた。

「離して」

突然、視界外から腕が伸びてきた。それは俺の腕を軽く触れ、俺は咄嗟に手を杏から離してしまう。

俺はその腕の主である、白銀さんを見る。

白銀さんは、そんな俺を一瞬キッと睨み、杏に言葉をかけていた。

助手席からは当然手は届かないが、それでも懸命に声を掛け続ける。それに、叔父の声も交じっていた。両者、相当焦っている様だった。


俺は、分からなかった。何故杏の姿の見える俺は何もできず、むしろ白銀さんに全て押し付けているのだろうと。

だけど、介入する気にはなれなかった。その声は、俺の何倍も優しかったから。

俺はただ、呆然とその光景を見ることしかできなかった。


◆◆◆あ◆◆◆◆と◆◆◆◆が◆◆◆◆き◆◆◆


※彼らが見た映画は、某22世紀から来た猫型ロボットのSFアニメでは無く、あくまでもドレェもんです。この世界では、十年前にドレェもんの声優陣が一斉交代したことになっています。そこのところはご了承下さい。


それと、もしかしたら直近の杏の喋り方を見て、違和感を覚えている方がいるかもしれません。

はい、少し、喋り方を幼くしてみました。ちょっと初期の彼女の喋り方に違和感があったので。

少し前が大体小四ぐらいをイメージしたのに対し、今回は大体幼稚園年長〜一年生辺りをイメージしました。

これは、プロットが不完全で杏のキャラクターが固まりきっていなかったが故のミスです。申し訳ございません。


この様に、補足をしておきたい時には、今回の様に後書きを残してみます。まぁ、近況ノートでも良いんですけどね。


是非、今後もこの作品をよろしくお願いします。なにか作中で不明瞭な点やミスがあった場合には、コメントをして頂けると幸いです。

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