第23話 幼馴染の凋落
「藻火飛鳥は貴方の友人として記録されています。2984年でも何度か斗真様の発言にて記録しています」
2984年の会話に登場するくらいに
何せ物心着いた頃から付き合いだからな。中学卒業まではフツーに友達として遊んでたし。
「……高校に上がってからは疎遠になったけどな」
「何故ですか?」
「アイツ、テニス部なんだよ。しかも
クソ強かった筈だ、と思わず呟き直した。俺の知っている飛鳥はテニス一筋で、冒険なんかにうつつを抜かすような奴じゃなかった筈だ。
だがここは並行世界だ。クラスメイトが皆魔術師になったように、飛鳥もテニス少女から冒険少女になったのかもしれない。あの飛鳥は俺の知る飛鳥とは違うという事だろう。
……そうだ。高校をサボって冒険をするような奴じゃ、断じて無かった筈だ。
そもそも、冒険者界隈でも動画配信界隈でもトップをひた走る『剛志』と一緒に冒険しているとはどういう理屈だろうか。
「『剛志』が使用しているドローンにアクセス完了。現在『Cランクだろうと深層に潜れる説』というタイトルの動画配信をしているようです」
「……あのパーティーの中でCランクってのは」
「はい。藻火飛鳥とその友人で『剛志の会』プラチナランク会員の鈴木紀奈です」
物凄い可愛らしい雰囲気の少女が
一方の飛鳥はオーソドックスな武器と防具を身に着けている。飾り気がないのは並行世界でも変わらないらしい。
「しかし深層ってAランク推奨だろ? Cランクって死ぬんじゃ……」
「肯定。生命のリスクは無視できません。しかも藻火飛鳥が冒険者登録をしたのは15日前の事です」
「……それヤバくね?」
俺もこの世界に来てまだ日は浅いが、何が非常識かは分かってきたつもりだ。
魔術や体術にはレベルってものがある。だがゲームやWeb小説と違って15日潜っただけで100レベルも上がるような都合のいい方法は無い。あの才能の塊である鳥荷先輩でさえ中学時代に1年頑張ってCランクからBランクに上がったくらいだ。それくらいに冒険者の成長速度は遅い。
なのにたった15日で深層に挑戦するなんてどうかしてる。
「脅威を認識」
ニアがアラートを告げる。脅威と呼ばれたのは人間大の白蝙蝠――ブラッドバットだ。やつの吸血をまともに受ければ即失血死だ。
しかしブラッドバットが現れたのは剛志の前だ。流石にSランク冒険者の剛志は狼狽せず、後ろの飛鳥に目配せして何か話している。
距離の壁など大したことない。こちらはニアがこっそり配信ドローンにアクセスしているお陰で剛志の発言どころか、配信画面やコメントの数々まで量子送信されてくるのだから。
『では飛鳥さん。Cランクの君が、Aランクでも手こずるであろうブラッドバットを倒すところをお披露目してください!』
〔いやいやいやいや、事故るぞ〕
〔ブラッドバットはマズい〕
〔飛鳥ちゃん無理すんな!〕
〔紀奈も参加させろよ〕
……コメントの読み込みは途中でやめた。何故か『救世主』と煽ってきたレジスタンスの事を思い出したからだ。安全圏から声を出す彼らと重ねた、なんていうのは流石にセンチだろうか。
飛鳥が物怖じせず、ロングソードを片手に前に出る。
〈Type Gun〉
羽ばたいたブラッドバットが飛鳥へ迫ると、思わずスクエアプリンタを誤作動させてしまった。けれども無意識に出してしまったビームウェポンが火を噴くことは無かった。
『検知……できたぞ』
彼女の脳髄から魔力が火花を散らせたと思うと、一瞬の隙をついてブラッドバットの背後に回った。そのまま弱点である羽の付け根を切裂き、地面にのたうち回った巨大蝙蝠へロングソードを何度も振り下ろし、ついに倒した。
〔うおおおおおお!〕
〔マジかよ、Cランクで倒すかよ〕
〔疑ってごめんなさい〕
Cランクの大金星。配信画面に動揺のコメントが溢れたので、コメントの読み込みを再びオフにする。
『見てください! 検知魔術を駆使してブラッドバットを倒しました! Cランクだから雑魚!? そんな事は無いんですよ。ちゃんと工夫すれば深層の魔物だろうとCランクでも倒せるんですよ。Aランクも、Sランクも直ぐになれるんですよ。誰もが鳥荷汀衣や私、剛志のようなSランクになれるんですよ! 才能や遺伝で潜れる階層が運命づけられた時代なんてもう終わりです!』
〔うおおおおおお!〕
〔ほんと
〔家柄で自動的にAランクに成れた奴もいるってよ〕
〔マジかよ
若年層を中心に人気があり、『旧態依然の遺物たる
そんな彼の背中を見て、
『皆さん、実はですね……この飛鳥さん。先日、高校を退学させられているんです。
『剛志さん! それ以上は言わないでくれ! 私の問題だ!』
「えっ……」
量子送信された映像情報と、遠くで剛志の暴露を止めんとする飛鳥を何度も認識しながら、俺は呟く。
的里高校――俺達の高校を、飛鳥が退学になった?
◆◇
「斗真様。ハッキングにより剛志の配信を停止しなくて良かったのですか」
「……悪い。もう少し判断材料が欲しい。様子を見させてくれ」
たとえアンダーソンとして偽っていても、俺達の姿が剛志の動画配信に映る事は極力避けたい。だからこそハッキングしてショートさせ、動画配信を停止させる事こそが最適解なのは考えなくても分かる。
しかしそうしなかった。飛鳥の身に何があったのか、それを知らずして配信を停止したら取り返しのつかない事になると思ったからだ。
「分かりました。剛志達に見つからぬルートは予測済みです」
「準備がいいな、相棒」
互いにヘルメットの中、マタの肉体をしたニアが頷く。
「私は貴方の補佐をする完璧な人工知能ですので。貴方が感情に引き込まれ、判断を誤る事も予測済みです」
「世話かけるな」
「いいえ。貴方は、私と違って人間なのですから」
「俺とニアに何の違いがあるってんだ」
ニアの肩を叩きながら、彼女が用意したルートに沿って深層を進む。確かに剛志達の探索領域からはどんどん離れていく。これなら多少ビームをぶっ放しても気付かれないだろう。
しかし量子通信は地下だろうと良好だ。配信内容の受信に過不足は無い。
『飛鳥さんは謙遜しすぎなんだ。声をもっと上げていいんだよ。この件にあの五十嵐家が関わっている事も分かっている』
『だとしても、やってしまったのは私だ。私はテニスを汚した。責めを負うべきも、私だ……』
〈飛鳥、めっちゃいい子〉
〈そう言えって高校に脅しかけられてるんだろ〉
〈権力者はそうやって言論統制をする〉
五十嵐? 飛鳥の退学にアイツが関わってたのか?
そういえば鳥荷先輩から聞いたな。五十嵐お気に入りのテニス部女子がいて、その子がテニス大会で優勝するために魔術で細工をしたって話。
まさか、お気に入りのテニス部女子って飛鳥のこと!?
「脅威を認識! 斗真様、早急に回避を!」
「えっ」
漆黒の魔法陣が俺の足元を囲んで、ニアとの境界線となっていた。出ようにも見えない力に阻まれてしまう。
目前の空中にはローブを羽織った金色の骸骨が浮かび上がっていた。気持ち悪っ。ホラーは苦手なんだが。
「エラー。現在あなたは呪術を受けてます」
「呪術!?」
この黒い魔法陣の事か!?
「で、あの死神みたいな魔物は?」
「リッチです。レアモンスターに分類されます」
レアモンスター。深層以降でごく稀に出現する、魔物達の頂点。Sランクでさえも返り討ちにあった例が多数存在する程に強力な魔物だ。
出会った事自体不運と思うしかない。レアモンスターの事を歴戦の冒険者もそう評していた程だ。
……そんなレアモンスターって事はだよ? って事は。
〈Type Gun〉
「って事は稼げるじゃねえか!」
出会った事自体、幸運としか思えねえ!
「検索完了。あの金の髑髏を換金すれば100万円になります」
「家賃払えるどころか回らない寿司いけるじゃねえか! ダンジョン探索、完!」
リッチが消滅したので呪術の魔法陣も消えた。
あとは数十メートル先に転がった『金の髑髏』を拾うだけだ。
『こっちからレアモンスターの気配がした。それに人間……? が二人反応している』
『本当か!? この辺のレアモンスターってリッチだよな。Sランクが複数人、確実に必要なレベルだぞ!?』
『私の検知魔術が間違っているのかもしれないが……確認した方がいい』
量子送信された飛鳥たちの位置が、なんかこっちに近づいて来てる……。
「……あれ?」
このままだと金の髑髏を拾うのと同時くらいに、剛志や飛鳥と出くわすんだが。
やばい。幼馴染の検知魔術とやらを舐めてた。
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