第11話 悪徳ギルマス、使いの者を論破する

 フィールがギルドに加わって2週間ほど経った頃。


 俺とエミディアはギルドマスター室である者・・・と対峙していた。


「今……なんとおっしゃいました?」


 俺の隣に座っていたエミディアが不快感を露わにする。応接ソファの向かいに座る貴族風の男は、やれやれと肩をすくめた。


「ですから、ギルド管理官ラルトス様に謝礼金を納めなさいと言っているのです。先月からのルミナージュギルドの利益向上はひとえにラルトス様がクエスト依頼を優先的に回した結果……謝礼金を払うなど当然のことでしょう」


 ギルド管理官の使いという男の言葉にエミディアは机を叩いた。


「このギルドの経営状態が良いのはジルケイン様の手腕です!! 後からやって来て自分達の手柄にしないで!!!」


 反論されると思わなかったのか、男は眉を吊り上げた。


「手腕だと? ギルドの経営など何処も同じではないか! 組織の末端のくせに何を偉そうに!!」


「このギルドを他のギルドと同じですって? このギルドが冒険者へ支払っている報酬金額を知っているのですか!? 寮は!? 食堂は!? 貴方は現場を見て物を言っているのですか!?」


「うるさい! これを見ろ!」


 使いの男が先月のクエスト依頼一覧を開く。そこにはそれぞれどこのギルドに回すかのサインがされていた。その中で最も多いのがルミナージュ……つまりこの街のギルドだ。


 この世界のギルドは依頼人から直接クエストが発注される訳ではない。ギルド管理官が依頼をまとめ、各ギルドにクエストを割り振る。しかし優先とは……その証拠としてこの書類を持って来ているのだろう。


「ここまで優先してやっているのだぞ!! これでもまだ自分達の手柄と言うか!? これだから無能なギルドの人間は困るのだ! 恩恵だけ受けて感謝の心をすぐに忘れる!」


「貴方……本気で言っているの……?」


 エミディアの冷たい声が響く。その顔にいつものような笑顔はなく、ただ真顔で使いの男を睨み付けていた。彼女は身を乗り出すと、使いの男の目の前に持っていたペンを突き出した。


「な……!?」


 使いの男の目の前にペン先がピタリと当てられる。あと数ミリ動かせば突き刺さるという位置で、エミディアは再び冷たい声を上げた。


「これ以上ジルケイン様を侮辱されるなら……このペンでその腐った眼球抉り出して上げましょうか? そうすれば多少は現実を直視できますよねぇ……? そうです。その方がいいです。節穴の方がきっとマシ」


 使いの男が慌てたように身を引く。


「この女ぁ……!! 無礼だぞ!! ギルドマスターはどのような教育をしているんだ!?」


 安全になってから罵倒するとは……程度の低い男だ。


 しかし、エミディアは完全にキレているな。なら、俺は冷静にいくか。その方が効果的だ。脅しにはな。


「そちらの話。一見もっともらしいように聞こえるが……詭弁きべんだな。ギルド法第4条、「クエスト受託、及び割り当て」の項目をご存知か?」


「そ、それがどうした?」


 それがどうしただと? コイツは何も分かっていないな。こんな男を寄越すとは俺も舐められたものだ。


「そこにはこう書かれている。「ギルド管理官は各ギルドの所属冒険者数・・・・・・に応じて・・・・クエストを割り当てる」と。このギルドに今冒険者が何名所属しているか言ってみろ」


「119人だろう! その程度の事は知っている!!」


「残念だがそれはひと月前の話だ」


「な……んだと……?」


 どうやらこの男は何も知らされていなかったようだな。取り立てる・・・・・ならこういう主人に妄信的な男の方が都合がいいという訳か。


「知らないのなら教えてやる。現在ウチに所属する冒険者は256名。この数字は西方諸国に存在する5大ギルドの中でも最大だ」


「それも、二番手のイリオスギルドの205名を51名も上回っています」


 エミディアが補足を入れる。俺は、その証拠が記されたギルド協会の速報を使いの男に投げてやった。そこには各ギルドの所属冒険者数がハッキリと記載されていた。


「所属冒険者数が多いギルドにクエストを多く割り当てるのは管理官として当然の責務だ。お前の主人はそれに対して謝礼を払えというのか?」


「ぐ、ぐぐ……!?」


 使いの男がたじろぐ。他のギルドにはラルトスの権威で「仕事を回されなくなる」という暗に脅す方法になるのだろうが、俺にはそんな手は通じない。「賄賂を寄越せ」などという手はな。


 さて。論破はした。次は雑魚に引き下がって貰うか。


 この時点でヤツは精神的優位性を失っている。このまま精神的に追い詰めさせて貰おう。


 使いの男の胸ぐらを掴み、できる限りドスの聞いた声で告げてやる。


「……ラルトスに伝えろ。お前に渡す賄賂は無いとな」


「な、なんだこの手は……私に暴力を振るったらお前は……」


「ほう」


 これ以上言い返す事ができなくなったのか、使いの男は俺の行動を咎める方向に舵を切ったらしい。冒険者ギルドで「暴力反対」などと腑抜けた事を言えばどうなるか教えてやるか。


 ここは冒険者達の集うギルド。ここにはここの論理があると、この男に教えてやろう。


 もう一度、男の胸ぐらを引き上げ、その目が逸らせないように固定する。


「勘違いしているのなら教えてやろう。お前達の代わりに戦ってくれるのは誰だ? 傷付いてくれるのは誰だ? ギルドに所属する冒険者だ。それを、このギルドに足を踏み入れ金をせびった挙句……「暴力はやめろ」だと? 舐め腐るのも大概にしろ」


「お前達に金を出してるのは私達だぞ!! ち、調子に乗るなよ……!!」


 その論理を持ち出すか。なら、身をもって教えてやる。貴様らがぬくぬくと過ごしている間に忘れた命の危機を。


「……エミディア、剣を出せ。どうやらこの御仁は主人の元に帰りたくないらしい」


「はっ」


 エミディアが壁に立てかけてあったロングソードを手に取り、鞘を両手で支えながら差し出す。俺が持ち手を掴んだ瞬間、男は悲鳴を上げた。


「ひぃ!? こ、後悔するぞ……! ラルトス様に逆らったら……」


「帰れ!! ルミナージュギルドは何者にもなびかん!!」


 男が言い終わる前に、怒声を浴びせ、鞘から剣を引き抜く。部屋に響く金属音。男は青ざめた表情で俺の手から逃れた。


「ひぃいいいい!?」


 男がギルドマスター室を飛び出していく。窓から外を見る。男は、ギルドの前に止めてあった馬車に這いつくばるように乗り込むとそのまま逃げ帰っていった。


 俺の金を奪おうとしやがって。このギルドの金は俺の汗と苦労の結晶だ。渡す訳ないだろうが。


 だが、これくらいやっておけばもう使いの者など送って来ないだろう。代わりに別の手を打ってくるだろうな、原作通りの悪党、ラルトスなら。


 使いにここまで屈辱を与えてやったんだ。冷静ではいられないなぁラルトス? バカな事をしてくれよ。その方が動きやすい。


 そうだ、エミディアは?


「すまない。少々手荒にやりすぎた」


 しかしエミディアは怯えるどころか、俺の手に両手を添えた。心配そうな顔で、その目に涙を浮かべて。


「お優しいジルケイン様。このギルドに務める全ての者の為にあれほどの怒りを見せられて……あの男の言葉が私にとってどれほど屈辱であったか……代弁して下さりありがとうございます……」


 ……脅しの演技だったのだがな。


 俺は剣を鞘へ戻し、再び壁に立てかけた。


「それよりエミディア。ヤツがラルトスの所に戻るまでの1週間、冒険者への報酬支払いに色を付けろ」


「え、なぜですか?」


「1週間後。このギルドへのクエスト委託に変化が起こる。ラルトスはそういう男だ」


 そう、原作のラルトスはプライドの高い悪党だ。やられたら必ず報復がある。


「どうされるのですか……?」


 平静を保っているが、エミディアの胸中は不安で満たされているだろう。俺は、安心させるように笑みを浮かべて見せた。


「心配するな。ヤツが動くなら必ず不正を行う。それを利用し、ヤツを潰す」


 ラルトス。お前が動くなら、俺はお前を利用させて貰うぞ? たかが賄賂如きでお前は命をかけることになる。俺の金を奪おうとしたこと、必ず後悔させてやる。



―――――――――――

あとがき。


次回、予想通りギルドのクエスト依頼に変化が。困り果てる冒険者達にジルケインがギルド管理官の元へ直談判に行くと宣言。危機的状況なのに悪徳ギルマスはむしろ株を上げてしまって……?

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