悪徳ギルドマスターに転生した俺、保身のために組織改革したらうっかり最高のギルドを作ってしまい、最強冒険者が集まってしまう。
三丈 夕六
第1話 悪徳ギルマス、追放劇をぶっ壊してしまう
深夜のオフィスで寝落ちした俺は、目を覚ました瞬間、自分の目を疑った。
なぜならそこは俺の読み込んでいた小説──
「
──通称「エタカナ」の世界だったからだ。
どうやら俺は転生してしまったらしい。しかも、転生したのは
若干29歳にしてギルドマスターとなった才覚を持つ男だが、性格はおよそ褒めるところのない欲望の権化。金と権力に固執する割には街のギルドマスターに収まってる小さい男に。
よりにもよってなぜこの男に。
だけどコイツに転生してしまった事にもいい所はある。それは溜め込んだ財産と、ギルドマスターという地位。昨晩、もしやと思ってヤツの金庫を調べた時、俺は見た。ジルケインが貯め込んだ金貨の量を。
転生直後でも分かる。それは平凡なサラリーマンだった俺では一生をかけても届かない額の金貨だと。
ギルドマスターという職も魅力的だ。自分は危険を犯さず、冒険者を使って更に財産を増やせるとは……この2つがあれば、俺は元の世界では叶いもしなかった悠々自適な生活を送れるだろう。
しかし、その為には乗り越えなければならない問題がある。
それが明日行われるAランクパーティ「
追放される原作主人公アロンは「
それを主導したのがアロンの幼馴染でパーティリーダーのバッシュ。そしてヤツの無茶な追放に同調したこの俺、ギルドマスタージルケインという訳だ。
これによってジルケインは運命に翻弄される。バッシュに協力した俺は、成長したアロンによって悪事を暴露され、金も地位も没収……落ちぶれていく。いわゆるざまぁというヤツだ。
先程、バッシュが追放について口利きに来た事で気が付いた。まさか破滅確定イベントの1日前に転生するとは。首の皮1枚で繋がったな。
……ざまぁ、か。
ふざけるな……! 転生してまでそんな仕打ちを受けるいわれは無い。ジルケインの悪事は俺がやった物では無いのだから。
俺は、第二の人生の為に
◇◇◇
そして翌日。俺の運命の日が訪れた。
「アロン・マロンディ! 今日限りお前をこのパーティから追放する!!」
「つ、追放!? 本気で言ってるのかバッシュ!?」
夕方。ギルド1階に行くと、予想通りAランクパーティ赤竜の翼が揉めている現場に遭遇した。
「お荷物なんだよお前はよぉ!」
「ちょっと、バッシュ。そんな言い方……」
「落ち着けバッシュ」
「お前らは黙ってろ! コイツが足手まといなせいで今日のクエスト死にかけたんだぞ!!」
冒険者達が見守る中、リーダーのバッシュにアロンが詰め寄られている。パーティメンバーの女魔法使いシルビアと戦士ガリアスが割って入ろうとするが、リーダーのバッシュは止まらない。今日のクエストでアロンが失態を犯した事を口汚く罵っている。ついにはアロンの補助魔法の力まで疑い始めた。
アロンとバッシュは幼馴染だ。バッシュが先にAランクに上がった事で、いつの頃からか彼はCランクのアロンを下に見るようになっていた。
だが、同じパーティのシルビアがアロンに好意を抱いている事に気付き、バッシュの小さな自尊心は揺らいだ。そして焦ったバッシュがアロンの追放を画策した……そういうシナリオだったはず。結局、無茶な理屈を並べ立てているのは恋敵を排除したいからだ。全く、迷惑なヤツだ。
アロンは最強スキルに覚醒する未来を持つ冒険者。今は幼馴染であるバッシュに気を使っているが……それが精神的な
「なぁ
俺が奴らの様子を観察していると、バッシュが俺の方へ目を向けた。ニヤニヤとした笑み。アロンの追放を確信した優越感から来た笑みだろう。
哀れだな。追放したが最後、自分にどのような運命が襲いかかるかも知らずに。
「どうしたんだよギルマス? コイツなんか使えないよな? さっさと追放した方がいいだろ?」
俺が黙っている事で怪訝な顔をするバッシュ。さて、そろそろ動くか。俺は事前に考えていた通りのセリフを言い放った。
「バッシュ。お前、何か勘違いしていないか? パーティの功績が全て自分の物だとでも?」
「は?」
あっけにとられた顔をするバッシュ。当然か。ヤツの算段ではこのような反応が返って来るなど考えてもいなかっただろうからな。
本来であれば、昨日バッシュが相談に来た時、止めるのが正攻法だろう。だが俺は考えた。悪知恵の働くバッシュの事だ。俺が断ったとしても、パーティメンバーを説得するために「ギルドマスターからの許可も取り付けた」などと口走る可能性がある。そうなれば俺の運命は変わらない。だからこそ俺は、この場で追放劇を叩き潰してやる事にした。
俺は一度深く息を吸い、言葉を続ける。
「俺の見る限り、アロンの補助魔法の腕は大したものだ。他のパーティにいればランクアップに貢献できるほどのな。それでも彼はお前を立ててくれている……アロンの気持ちも汲んでやれ。お前が真にパーティのリーダーならばな」
「ギルマスがアロンのヤツを庇ってるぞ……!?」
「冒険者のことなんて気にした事のないギルマスが!?」
「え、アロンの補助魔法ってそんなにすごいの?」
「俺聞いた事ねぇぞ……?」
「やめろって……! ギルマスに目を付けられたら何されるかわからねぇぞ!」
ザワザワと話し出す冒険者達。……ジルケインの人徳が無いのは想定通り。だがそれでいい。今は注目を集めておくことが重要だ。
「よって俺は、ギルドマスターの立場からこのような理不尽な追放には異議を唱えざるを得ない」
「ぐ……ぐぐ……裏切ったなギルマス……!!」
苦虫を潰したような顔をするバッシュ。裏切りとは昨日の相談の件だろうが……こんな場所で言える訳は無いだろう。これはお前にとってあくまで衝動的に行った行動と見せたい……恋敵の排除の為にコソコソと動き回っていたなど、シルビアに知られたくないはずだからな。
奴のパーティメンバーの様子をうかがう。バッシュの意中の相手、シルビアも戸惑っているようだ。
喚き立てるバッシュを無視してアロンの元へ向かう。俺は、膝をついて彼に右手を差し出した。
「アロン、俺はいつもお前の働きを見ていたぞ? このような茶番に付き合う事はない」
「ギルマス……ありがとうございます」
アロンが恐る恐る俺の手を取る。困惑しているが、その表情には救いの手が差し伸べられた事への安堵も見える……これで原作主人公の懐には入ったな。
だがバッシュ、お前はアッサリと諦めるような男ではないな? ならば、お前の取る行動は1つだ。
「待て!!」
予想通りバッシュが声を張り上げた。ヤツは、アロンを指差し、俺を睨み付ける。
「アンタがそこまで言うなら見せてやるよギルマス……! 決闘だアロン!! お前が使えない雑魚だってことをみんなに見せてやるよ!!」
来た。俺の本当の狙いはここだ。
原作イベントのスキップ。数ヶ月後に行われるはずのアロンとバッシュの果し合いをここで終わらせる。
そうすることで、俺の破滅回避は確定となる。俺はせっかちなんでな。原作のイベント開始タイミングまで破滅の可能性に怯えるなどということはしない。
俺は正面から潰す。俺が手に入れた金と権力を奪おうとするものは全てな。
……いかん。原作のジルケインの性格が混ざったのか? 随分悪党めいた思考をするようになったようだ。だが、ちょうどいい。この世界で生きていくにはこのくらい強気な方がな。
「いいだろうバッシュ。お前の挑戦、見届けさせて貰おう」
「ギルマス!? 何を言っているんですか……!? 僕じゃバッシュに勝つなんて……」
アロンが驚いたように目を見開く。この時点のアロンは覚醒前。自分の可能性にもまだ気付いていない、弱気になるのも当然か。ここは俺の役割だな。
俺はアロンの肩を叩き、耳打ちする。
「心配するな。俺がなんとかしてやる」
「え?」
俺はバッシュを睨み付ける。その瞬間、バッシュの肩が小さく震えたのを俺は見逃さなかった。ギルドマスタージルケインは冒険者達から恐れられる存在だ。バッシュの宣言も中々に勇気がいっただろう。だからこそ、俺の要求を通しやすい。
「だが、アロンは単独戦闘は慣れていないだろう。勝負は3日後、俺が彼を指導する。文句はないか?」
「い、いいだろう!!」
気圧されるように同意するバッシュ。少しでも決闘を有利にするために「1つ条件」を加えておく。お前が勝負を挑んだんだ。それなりのプレッシャーは感じて貰わないとな。
「ただし。条件を1つ付けさせて貰う」
「条件だと……?」
「
「な、何が言いたい!?」
ワザと皆がいる事と俺の立場を告げてやる。バッシュが一切の反論をしないように。俺は、大袈裟な動きでバッシュを指差した。
「負けたら
俺の一言に、ギルド内の全員がシンと静まり返った。
―――――――――――
あとがき。
第1話をお読み頂きありがとうございました。新作は金のためにしか動かない悪徳な男がなぜか周囲から評価されてしまうお話です。
少しでも面白ければぜひ作品フォロー、⭐︎⭐︎⭐︎評価お願い致します。
次回は秘書ヒロイン登場+原作主人公の強化トレーニング回です。
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