第6話 悪霊に魅入られた少女 ②(完)

 取り調べが終わり、疲れ果てて家に戻ったその日の夜、若月先輩からの着信が鳴る。


葦原あしはら君、あたし怖いよ、いっぱい幽霊がいる。みんな訳の分からない事言って騒いでる。どうしよう、怖いよ!」


恐怖に怯え、必死に助けを求める声だった。

 俺はすぐ決断した。若月先輩を迎えに行き、結界の張ってある自分の家へまねき入れたのだ。昼間の事情聴取の件もあったが、もう警察に共犯扱いされても構わなかった。霊的な現状を含めて、彼女の状況を一番把握してるのは自分しかいないのだ…。その夜、俺と若月先輩は一夜を共にした…。


 夜が明けきらない早朝、若月先輩は「もう大丈夫だよ、迷惑かけるから家に戻るね」と言い出した。 

 俺は大六を呼びだしてどうするべきかを相談する。心霊絡みの件なら、彼も答えてくれるからだ。大六は


「本人が帰るというなら仕方ないだろう。好きにさせればいい」


 とアドバイスする。結局、彼女を家の近くまで送っていき、霊現象の起きた家に帰すこととなった。


 俺はそれから自宅に帰り、何事もなかったように学校に行く。その日、若月先輩は学校を休んだらしい。翌日も、その翌々日も彼女は学校には来なかった。


 心配になってまた大六を呼びだし、彼女が置かれてる状況を聞いてみる。しかし彼は


現世うつしよのことだ、俺がどうこう言うことじゃない」と答えをはぐらかし、


「知りたいなら本人に聞くしかないな、ただ、あの亡霊たちと戦うのは自殺行為だ。やめておけ。俺もせっかく守護する人間が見つかったのに、それをみすみす殺されたくない」と話してくれた。


 俺は大六の話も受け入れつつ、若月先輩と直接会って話をしようと決意する。悪霊たちが邪魔をしてきたって構わない。死んでしまっても仕方ない。もう若月先輩を放って置くことが出来なかったのだ。


 翌日、若月先輩に会うことが出来た。彼女の美しく長い黒髪は、雪のような白髪しろかみに代わっていた。先輩から「名前で呼んでほしいな」と言われ、「じゃぁ、京香さん…でいいですか」というと、彼女は静かにほほ笑んだ。


 落ち着いて話せる場所に、『白滝城跡地 自然公園』を選び、お互いベンチに座り語り合う。俺は京香さんの幼少期の頃からの出来事を霊視を交えながら聞いていった。

 そして彼女が自分の父親と祖父母を殺してしまったことを、本人の口から聞くことになる…。

 会話の途中でやはり亡霊たちの妨害ぼうがいが入った。京香さんはさらわれて…いや、自ら進んで死地に向かっていった。


 大六が前もって教えてくれていた。彼女は代々巫女の家系で、この地の火山噴火や、地震、大雨などの天災を和らげ、それを膨大なエネルギーに変換して、神社に奉納する役割を持った血筋だったということを。 

 彼に言わせると隔世かくせい遺伝だそうだ。特に色濃く表れたが、京香さんの家は衰退すいたいしていたため、その力の使い道を教える人間がいなかったという。

 その膨大な『陽のエネルギー』に群がり、彼女と同調することで、ただの悪霊が無類の力を持った集団になったと教えてくれていた。


 悪霊との戦いの最中、新之介、後藤、桜井刑事が長巻や刀を持って応援に来た。大六が導いてきたらしい。

 大六を含めた俺たち5人は、やっとのことで京香さんに追いついたが、京香さんは自分で自分の首をっ切って、自殺を図ってしまう。

 一命を取り留めたものの、家族を2人殺害した容疑で、今は警察病院で療養中となっている。取り調べも間もなく始まるそうだ。

 

 この戦いを境に、俺の体に、本来京香さんへ流れていた陽のエネルギー、つまり神力が絶え間なく注ぎ込まれるようになってきという訳だ。

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