ゼロ番地のポスト

松下友香 

プロローグ

「ゼロ番地のポスト」

神々の眠る「杜の町」は

神社信仰で成り立ってきた町

境内にある朱色の木製ポストは不思議な力を宿し

このポストに投函した手紙には

会えないあの人から手紙が返ってくるのだという

あなたにも欲しかった手紙が届くかもしれません


***


「最近、はやってんだよな。この手の話題づくり」

「三浦さんは、そういうの苦手っていうか、信じないタイプですよね?」

「あったり前でしょ。この世の中に科学で証明できないものなんてインチキじゃね?」

「ほうら、浪漫の欠片もない」

「えっ? じゃあ、深沢は信じてんの?」

「もちろんですよ。私にもいつか届けたい人がいるんですから」

 思わず深沢の横顔に目をやると、一瞬だったが表情が沈んだように見えた。

「意外だな。迷信みたいなこと信じないタイプじゃなかったっけ?」

「そうですよ! リケ女ですから、日頃はおみくじ引いたり、占い見たりしないタイプです」


 深沢は、自分のスマホ画面を俺の目の前に差し出した。「杜の町の噂」が載っている。何人もの人が、「ゼロ番地のポスト」に投函した手紙の返事が届いて涙した、と語っている。


「インチキ臭いですけど、この目で確かめてみたいですよね?」

「ああ、取材交渉、うまくいくかわかんねえけどな」

「ですよね。こういう類いのものは隠したがりますから」

「取材交渉で、数回にわたってメールを出してるんだが、未だに返信がない。ひょっとすると、そもそも読まれてないのかもな」

 PCのディスプレイを閉じ、ため息をついた。


「まさか......ネット環境がまともじゃないとか」

「あり得ますよ」

 深沢の目が輝いた。

「高齢化率、相当らしいですから。平成の大合併の波にも乗らず、いまだに“町”として存続してる――まるでガラパゴスです」

「確かに。深沢が言う通り、自分の目で確かめてみたいよな」

 SNSが情報を瞬時に繋いでいくこの時代に、どこかで時が止まったままのような町――。




次の手を考えるとするか。








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