狐猫の重奏唄〜こねこのかさねうた〜
わんころ餅
第1話 オレは猫族のレン!
飛び跳ね今にも口から飛び出そうとする心臓の鼓動を抑える様に胸を掴む。
このテストは今後、自身の運命の大半を決めるようなものであると思うと無理はない。
暗幕の奥から青い髪をした羊族の女性の姿が現れる。
「次のヒト」
「は、はいっ!」
緊張しつつも元気よく返事をした少年は前に出る。
女性が少年の前に立ち、名簿を確認する。
「名前と種族を」
「レンです!猫族のオスです!」
「性別は見ればわかる。それでは入学時のテストを行う。ついて来なさい」
レンと名乗った少年は女性の後ろをついていき、広い空間へと案内された。
大きな競技場であり、レンと同じく数十人が同様のテストを受けていた。
「よそ見をすると足元を掬われるぞ?では試験の内容を決めたいので、使える魔法を教えてくれ」
「えっと……」
「?」
上手く言葉に表せないのか、中々魔法を伝えようとしないレンに女性は首を傾げて疑問を感じるが、すぐに結論が出る。
「そうか、お前は魔法が未発達なんだな。では、私の言う通りに発動手順を行なってくれ」
「わ、わかりました……!」
レンは姿勢良く立ち、指示を待つ。
「まずは魔力を昂らせて額に集める。できるか?」
女性がオーラのように見える魔力を立ち上らせると、レンもそれに倣って魔力を放出する。
中々魔力が額に集まらず苦戦していると、女性がレンの額に指を当てる。
レンの意識が触れられた額に集中し、魔力が集まっていく。
すると、段々と頭の中に膨張感が芽生え、平衡感覚を失い、体を支えるのが困難になる。
「どうだ?なにか聞こえてこないか?」
「な、なにも……ちょっとフラフラします……」
「それ以上無理はしない方がいい。魔法なし……とは。珍しいな」
女性が拍手を一度打つ。
すると集まっていた魔力が弾け飛んだのか元の平衡感覚を取り戻す。
「魔法なし、ですか……?」
レンが女性に聞き返すと、頷き、魔法がないという事実が確定した。
膝から崩れ落ち、ショックで言葉が出なくなった。
女性は淡々と記録を残し、レンに一枚の紙を渡す。
「これを持って中等級の教室へ向かうと良い」
「ま、魔法がないのに、中等級ですか……?」
「その魔力の量があれば、魔道具によって戦闘経験だって積むことができる。生まれ持った魔法が全てではないのだよ」
納得のいかない表情をしているレン。
女性はレンを連れて暗幕の外に出る。
レンは次の順番を待っている女の子に目が合う。
彼女は野狐族であり、藤色の髪色をし、ポニーテールがとても可愛らしく見え、同時に種族独特の雰囲気に釘付けとなる。
視線に気づいた女の子はレンの顔を見ると半分だけ瞼を閉じ、心底嫌そうな顔をされた。
「ふんっ」
「あっ……」
風になびくポニーテールが小さくなるまで見届け、胸に手を当てる。
――可愛い子だったなぁ……。
競技場をあとにし、教室のある城のような建物へと足を向ける。
カバンから入学案内と書かれた紙を取り出し、教室の場所を調べる。
――中等級クラスは……二階だね。何で魔力だけあって魔法がないのさ……。
魔法がないという現実を突きつけられ非常に重たい足取りで教室へと向かう。
レンは戦災孤児であり、孤児院の出身である。
身寄りのない子供たちはこの国の教育システムとして成人となる年齢に達したレンは強制的に一年間の学園と寮生活を過ごすこととなる。
もちろん孤児院出身でなくとも入学は許可されており、学園で受けられる教育を求めるヒトは多い。
先輩というべきか今年卒業するであろう学園の生徒たちが運動場で魔法を放ち、魔法競技の練習をしていた。
――いいなぁ……。オレも、あんなふうに魔法が使えたら、もっとできる事増えたんだろうなぁ……。
羨ましそうにその光景を眺めているといつの間にか中等級の教室の前に到着していた。
そっと教室を覗くとすでに人が集まっており、そろそろホームルームが始まろうとしていた。
既に仲の良い者同士のグループの輪ができており、レンは完全に出遅れてしまっていた。
ため息を吐き、尻尾を垂らすと両肩を勢いよく掴まれる。
「何してんだ?」
レンはびっくりして飛び上がると、教師の制服を着た熊族の大柄な男性教師だった。
持っていた紙を見た男性教師はレンの首根っこを掴んで教室の中に入る。
前代未聞な入場の仕方をしてしまったが為、クラスメイトの注目を集める。
「さーて、お前たち席につけよー。ほれ、空いている席に座りな」
雑に降ろされ、恥ずかしさ顔を隠しながら空いている席に座る。
全身が沸騰しそうな程の恥ずかしさで、穴があったら入りたい気持ちだった。
全員が着席した事を確認し、男性教師が口を開く。
「よし、今年一年間担当をさせてもらうサムだ。見ての通りクマ族で肉弾戦が得意だ。まぁ、中等級の君たちは魔法がボチボチでフィジカルが強い子が多いって判定だから、戦闘訓練に悩んだならいつでも相談しに来ると良いぞ」
――あの先生が言っていた事ってそういう事だったんだ……。それなら魔法がなくても大丈夫……かな?
サムの説明にレンは少し安心したような表情をしていると、サムに見透かされていたのかウインクを受ける。
若干引き気味のレンはカバンで顔を隠し、隙間からサムを覗く。
「それじゃあ自己紹介と行こうか!そうだなあ……一番最後に入ってきたキミから自己紹介していこうかな?」
「えぇ~っ!?」
事実と理不尽を感じ、重たい足取りで教室前方にある壇上へと上がる。
再びクラスメイトの注目を浴び、顔が熱を帯びた様に感じるが、覚悟を決めて口を開く。
「お、オレは猫族のレンです……!魔法がありませんが、調査隊に入ることを目標にしてます……。よろしくお願いします……!」
自己紹介が終わり、頭を下げると異様な空気感にレンは気づく。
すると大柄な犬の獣人のクラスメイトが机をたたきながら笑い出す。
「アーハッハッハッハ!魔法がねぇのに調査隊に入ろうとしてのか!?あれは特級クラスだけ……しかもその中でも一握りだけが志願できるんだよっ!そんなことも知らずに夢なんて語ってんのか!?面白え〜!なぁ、お前らもそう思うだろ!」
犬の男子はクラスメイトを巻き込んでレンを笑い者にした。
笑い声の大部分は犬の男子なのだが、クラス中に笑いの渦が起こる。
レンは大真面目であり、茶化したりしたわけではなく馬鹿にされ、拳を握りしめる。
「オ゙ッホンッ!!」
サムがわざとらしい咳を入れ、賑やかになった教室を静めさせる。
レンの肩を大きな手でボンと叩き、再びあのウインクを炸裂させる。
「夢を持つことは、立派だ!決して楽な道ではないが、努力をしようとするヤツは嫌いじゃないぞ!さ、勇気を持ってくれたレンに拍手!」
サムに促され、まばらだが拍手が沸き起こり、レンは自席へと戻ると敵意むき出しの視線を隣から受ける。
横目で見るとサムに止められたことが余程悔しかったのだろう、今にも噛みついてきそうであり、レンは思わず窓の外へと視線を向けた。
――父さん、母さん。オレ……卒業、出来るか不安だよ……。でも、頑張るよ……!
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