暗号は誰が作ったのか 3
井戸から上がってきた使用人の手には、灰色と黒を混ぜたような色をした魚の形の石があった。表面は少しざらざらしている。
「安山岩だろうか。確かに魚の形をしているな」
目や口はないが、先のとがった楕円形と三角形を組み合わせたような、魚の形に成形された石である。
「安山岩は、よくある石ですか?」
「そうだな。井戸は違うが、我が家の地下倉庫の壁などにはこれが使われていたはずだ。建材などでは比較的使用されている石だと思う。俺も詳しいわけじゃないがな」
では、この石自体には特別な意味はなさそうだ。
(次の一文は『忘れられた魚が求める先』よね。忘れられた魚、は井戸の底に忘れ去られたように置かれていた魚でいいとして、求める先って何かしら? 水のある場所?)
使用人から魚の形の石を受け取って、アリエルはしげしげと見つめる。
石の表面には、ほんの少し苔が生えていたが、それほどびっしり苔がついているわけでもない。この石が作られたのか自然にこの形になったのかは知らないけれど、井戸の底に置かれてから、それほど長い年月は経っていない石だと思われた。
「ひとまず、その意思を綺麗に洗いましょうか」
「そうね」
使われていない井戸の底なら、雑菌もわいていそうだ。アリエルも手を洗った方がいいだろう。
ジェラルドは満足そうに口端を上げている。
「君はとても優秀だな。この調子で頼む」
「わかりました」
頷きつつも、アリエルはやはり引っかかりを覚えていた。
(あの暗号は、ジェラルドが作ったわけではないのね)
本人もそれを隠すつもりはないようだし、もう少し突っ込んだ質問をしてもいいだろうか。
暗号を解くためにも、あの暗号を誰が作ったのかは確認してもいいかもしれない。
だが今は、石と手を洗う方が先だろう。
もうすぐお昼ご飯の時間だし、ここで立ち話をするのも寒い。
「では、わたしは石と手を洗ってきますね」
「ああ」
メアリと共に屋敷に向かって歩き出す。
裏口から邸に入る前、ちらりと背後を振り向けば、ジェラルドはただじっと井戸を見つめていた。
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