第40話 同位体

町民たちの【熱狂】によりさらに多くの【可能性】が我に流れてこんでくる。これだけの【可能性】と我の魔属としての魔力があればたいがいのことは実現できそうだ。



『パルよ、よくやった。パルはゴブリンと眷属を撤退させよ。もう脅す必要はない』


『了解りましたわ。下げたあとアリス様に合流しても?』


『もちろんだ。ヘオヅォルとニコラにも話を通しておいてくれよ』



先程町民たちの声で気になることを言っていたものがいた。「私達はいったい今まで何をどうしていたんだ?」と。


我への【熱狂】により上書きされたため、おそらく洗脳系の何かが解けたのだろう。ただの町人に洗脳をしかけるような真似は……、領主エドモンド以外いないのではないだろうか?


ただの我の生存のための活動であったが、我の今の属性【希望】の邪魔者であったのは確かなのかもしれん。こやつのおかげで我は行動しやすかったとも言えるな。



北の領館はもちろん門を閉めておったが、この軍勢なら関係ないな。ほどなく打ち破った。



『マリウス、どうだ? なにか分かったか?』


先程からここに侵入しているはずのマリウスに聞く。



『はい、先程のアリス様の【魅了】とマルコの【支配】はここまで届いておりました。【支配】はかかりませんでしたが【魅了】されたものは多く、アリス様の邪魔はしないと、冒険者たちの大半はひいております。逆にひいていないものは【魅了】されておらず、手練と思われます』


いくら手練であったとしても軍勢には勝てぬし、なんならこっちにはマルコがおるし、他にも個人技が優れたものもいるであろうから障害にはならんだろう。



『アリス様。こちら秘匿された地下室への入り口を発見しました。おそらくこの先に隠れているものと思われます』


モリーからだ。言われた方へ主なものを引き連れて行く。


そしておそらく最後の扉。我とモリー、マルコ、パル、ハノン、あと合流したマリウスを連れて扉をくぐる。残りの主だった者は外の統率などをしてもらっている。



「マルコシアス、わ、わたしを守れ!」



太った貴族らしい見た目の男が、別の鎧姿の影で震えながら、そんな事を言う。



『あー、こいつ、俺の同位体です』


『同位体? なんだそれは?』


『本来の意味とは違うんですがね。こいつは俺と同じような分魂で本体は同じなんですが、名前が違うため、少しズレたものなんですよ』



確かに鎧姿はマルコそっくりだ。


『ではこやつもマルコと同じくマルコキアスが本体なのか? ならば本体に頼めばなんとかしてくれるのか?』



『いや、そうもいかんです。すでに存在していますから。契約も一応成立していると思いますから、本体からなにかするってことは出来ないかと。本体に得がないですし』



鎧姿は無言でこちらに向けて剣を構える。こやつがマルコと同じ力を持っているとすればやばい。さが……。



皆が我を守る。非力なハノンまで我の前に出て、我をかばっておる……。ん? なんじゃその透明な盾みたいなものは。



パルが疫病を、モリーが〈マジックロープ:バインド〉を鎧姿と奥のおそらくエドモンドに飛ばすが効果がない。


『俺の同位体の加護を得ているようです。同位体を倒さないと効果は出ないでしょう。少々お待ちを』


マルコとマルコシアスの一騎打ちとなった。ハノンはまだ我の前で盾を作り出して守ってくれておる。

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