第32話 熱狂

ギルドマスターの三人がタラッサの町に戻って真っ先にやったのは、自らの手勢を集めて、徴税官が出入りしている領館を抑えることだった。


タラッサはその税収の大きさに比べて、ほぼ自衛させていたようで、領主に仕える者はごく少人数の武官と徴税官しかいなかったから、あっさり占拠できたようだ。そしてそこを占拠したというのは、反乱を起こしたってことだ。


町民や出入りしている者のほとんどは三ギルドの反乱に好意的なようで、盛り上がっておる。もともと治安は自警団に頼っておったようで、その自警団が真っ先に反乱に加わったので、タラッサで混乱は起きなかった。


三ギルドのマスターは町の広場に皆集まるように呼びかけ、広場にはタラッサの住民の多くが集まった。そこに急遽作られた台に三マスターと我、モリー、マルコ、ヘオヅォルがあがる。


冒険者ギルドマスター、ガイルがまず、タラッサはブヴァード領から離脱し、もうろくでもない税金を払うつもりはない、と宣言。

商業ギルドマスター、セシルがこれが実質の反乱であるが、これしかタラッサが救われる道はないと説明し、独自の運営を行っていくということも宣言。

最後に港湾ギルドマスター、ラマークが混乱が収まる日までしばらく船や馬車の運行停止、荷物の買い取り、給料の支払いを宣言し、ブヴァードからの制圧軍に対抗する組織、すなわち我らを紹介した。


第二督戦隊隊長であったヘオヅォルが皆の前に立つ。


「私は元第二督戦隊隊長だったヘオヅォルだ。しかし今は三ギルドマスターたちも支持する、ここにおられる希望を与える者、アリス様にお仕えしている。アリス様はすでに他領ではあるが一つの村を救っており、ブヴァードは残念ながらその村を襲った側なのである。領主エドモンドの気まぐれにもはや従ってはおられない。実際それでタラッサは大きな傷を負った。我らはアリス様の元、ブヴァード領主エドモンドを打倒すべきである」



このタイミングで横におったマルコは【支配】を、モリーは【魅了】を発動させた。この広場全体に、だ。


【魅了】に条件はないが、元々の好意度に影響を受ける。【支配】は基本心を折っていないといけないが、すでに町民たちは領主エドモンドにより心を折られており、【支配】を受け入れたようだ。


そして我の希望だ。


「我はアリスという。人は死ぬものだが、つまらぬことで死ぬことはない。抵抗すべきだ。そもそも領土の領民は健やかに生きるために領主に従っているに過ぎない。それを忘れた領主には、思い知らせねばならない。このタラッサは我が安堵を与える。次は鉱山都市ガラテアを開放したい。元は同じ地に住まう同胞が今までのタラッサと同じ愚かな領主によって苦しめられているのだから。どうか手伝って欲しい」




全員にかかったわけではないようだが、多くのものが【魅了】され【支配】されているので、我の希望によりそれらは【熱狂】に変わり、今まで見たこともなかったはずの我への忠誠となった。もともと元の領主への忠誠も低かった者たちなので、反動は大きい。


多くのものが我の名を称える。

【魅了】や【支配】を受け入れなかったものへも【熱狂】は伝播する。少々見た目が少女なので効果は小さくなっている気がするが、逆に特定の者へは【熱狂】を強める効果もあったようだ。商業ギルドマスターセシルの言に従い、見た目の良い高価そうな衣服に着替えていたのも功を奏したのかもしれない。


強い【熱狂】は伝播しやすい。直に広場は【熱狂】で包まれた。

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