第31話 タラッサ懐柔

我らは普通に港湾ギルドから外に出た。ラマークからの信書を受け取ってな。



「さて、どうするかな?」



「話し合いとか俺は面倒で仕方ありません。もう戻りましょうよ。何もアリス様自らがする必要もないでしょう?」


マルコが相当愚図っておるな。あまり暴れられていないからな。それに言うことももっともである。我の配下がなしても我の仕業となるであろう。ふむ……



「どうします。お嬢様」


カーンがウェルナーの真似をして、我をお嬢様と呼んだ。悪くないな。



「そうだな。そこに見える屋台ごと一軒連れて帰るとするか。ウェルナー、交渉できるか? あっちに戻ったら支払うということで」



魚串の屋台を引き連れて、街の近くに駐屯しているところに戻る。来る前に仕入れもさせたので全員に振る舞えるだろう。時間はかかるだろうがな。


支配、魅了したところでこういうことをせぬと、使い潰されると理解してしまうからな。使い潰しても構わん時なら、ここまではせんが今は、な。強く縛っておるときほど、いざ裏切られた時の反動は大きいものよ。致命的な場面で役に立たないどころか敵に回られても困るからな。



屋台で振る舞っておるときに、ヘオヅォルとモリー、ハノンを呼んだ。そしてヘオヅォルに信書を投げ渡し、商業ギルドを説得してくるように言う。副官としてハノンをつけ、モリーは監督だ。


「降ったばかりの私にそんな重要な任務をよろしいのですか?」

ヘオヅォル自身がそんな事をいう。


「降ったばかりだから、というのもあるな。まあお前の悪名はあの町にも届いておるようだから、利用し、任務を達成せよ。あやつらも領民であるからな」



『モリー、お主なら何も言わんでも分かるよな。良きに計らえ』


『はい、アリス様』



「ハノン、お前はヘオヅォルについていき、手伝い、学べ」


我はこいつには将の器があると見ている。今将であるヘオヅォルにつけばいろいろと参考になるだろう。あとはまあ、ヘオヅォルに我の腹心のように見えるハノンを下につけたのも大きな意味があると取るであろうからな、双方が。互いの希望が満ちるであろう。



さて、我のやるべきことはやった。時間も【可能性】も余裕が出来たし、前から懸念していたことを解消することにしよう。


近くのものに少し休むと言って、移動用の馬車の中に入る。周りに誰も居ない状況を作り、念のために結界をはる。まあ魔力に疎いものに見られても分からんとは思うがな。念には念を入れてな。


額にかかる髪を両手で分け、額を手のひらで隠す。そこには我の魔石が額に埋まった形で露出しておる。このままでは誰が見ても重要な場所と分かってしまう。弱点であり魔力の放出場所でもある。これを守らねばならん。


魔力と【可能性】を使って、アクセサリを生成する。額の魔石がこのアクセサリに依るものに見えるようにな。アクセサリは我にしか外せぬようにし、露出している魔石に〈パーフェクトイリュージョン〉で日によって別の色の宝石に見えるようにした。


傍目には大きな粒の宝石がついたアクセサリにしか見えんだろう。どうせ我専用なので様々な防護魔法を重ねてかけておく。維持のためにそれなりに魔力を消費するようになったが、どうせ使い切れぬほどあふれているので問題なかろう。


アクセサリをつけたからといって誇示しては本末転倒するので、髪型を元に戻す。これでほぼ見えぬはずだ。万一以前我の魔石が見えていたとしても、これでただアクセサリを変えただけと理解するであろう。



数時間後ヘオヅォルとモリー、ハノンがギルドマスター二人と誰か分からぬ者を連れて帰ってきた。聞くと冒険者ギルドのギルドマスターだそうな。


まあとりあえずギルドマスターの三者は念のため我自らが【魅了】し、我はよく知らぬ状況でついてきておった冒険者ギルドの長ガイルは、マルコが模擬戦と称してボコっておいて、【支配】もさせた。港湾ギルドのマスター、ラマークはボコる理由もないし、個人として知っておるからそうそうは裏切らんであろう、【魅了】もしたしな。


商業ギルドの長はまだ若い女性であった。この若さでマスターとして踏ん張っておったのか、期待できる。名はセシルだったかな? 戦力にはならんが金は持っておるようだし、運搬税のせいで荷止まりしておる物資を抑えておるので兵站維持に使えそうだ。


ギルドマスター三人にはブヴァードからのタラッサの離脱、及び領としての独立を言ってある。そして皆の活躍次第では他の町の開放、そしてブヴァードの平定をも。


その三人に率いられる形で我らはタラッサに入った。



しかしやはり駒が足らんな。ヘオヅォルはまだ完全に独立させてやるには怖いし、ハノンはまだ成長しておらん。モリーにはできれば近くに居てほしいし、マルコは一応率いることは出来るが得意ではないはずだしな。マリウスもあまり向かん。

もう一人ぐらいゴーティアか魔将ぐらい欲しいの。ギルドマスター三人は将としては使えないだろうしな。ガイルぐらいは使えるかもしれんが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る