第9話 王族

「さて、ハノンよ。お主は先程モリーの部下となったのだよな? モリーは我とある意味対等であるが我が上でもある。そこは承知しておるな?」


寝泊まりしている建物にハノンと戻り、そこで早速【面接】をしている。夕陽が窓から差し込み、ハノンの額に汗が光る。


「は、はい。モリー様からはアリス様は王族である、と。どこのとは言えないとのことでしたので聞きません」


は、王族か。確かに王族かもしれんな。魔王であるが。

モリーは人間相手でも口が上手い。

ゴモリーを選んで正解だったのだろう。

強いゴーティアなら他にいくらでもいるが、この方面に長けたゴーティアは少ない。


「そうだな、我は王族よ。故に困ったことになっておるのだ。だから我は少し無理をしてお主らに助力を頼んだのだ」


実際、怪我は負わせていないがこちらから襲ったのは間違いない。

魅了に記憶の改ざん能力はないからこやつらも覚えているはずだ。


……以前の我なら力と恐怖で捻じ伏せるだけであった。それがどういう結末を招くのか、は前回思い知った。我が認めていた剛の者は、暗殺者たる勇者どもが我に匹敵する難敵であることを見抜き、我を見放し逃げたのだ。

残ったのは我にへつらうだけの弱き者だけだった。


それではいかんのだ。しかも今の我は力も恐怖も持っておらぬ。

味方がいるのだ、たとえ魅了下であっても。


モリーはよくやってくれている。

が、今のモリーとて我が破れるが必定となれば逃げるであろう。

モリーは我の部下であるがゴモリーとは対等であるからな。


はやく我は力を取り戻し、いや前回をも上回る力を手に入れねばならぬ。

それこそ魔王の生きる道。


そこに何故はない、魔王だからだ。力を手に入れねば自己の消滅が待っているだけなのだ。


「どうされましたか?」


正座して我の発言を待っておったハノンが訝しげに我の顔を覗き込む。ハノンの瞳に、わずかな心配の色が浮かぶ。


「いや、なんでもない。ところでこの辺りの地理に詳しいか? あてもなくさまよったのでここがどこかも分かっておらぬのだ」


「そうでしたか、この森の南付近に最寄りの村があります。そこに行商へ行こうかと」


「その村に何かあるのか?」


「いえ、特には。僕たちはここより遠方の北にあるセテボスの街で意気投合しまして、お二人の出身村であるネソの村へ向かうことにしたのです。その村は特殊な立地で結構困っているとの話でしたし」


「ふむ、特殊な立地とは?」


「はい、そこはややこしいところなのですが、ネソの村はこの領ハーシェルにとって飛び地のような場所なのです。ネソはその隣領ブヴァードに属していてもおかしくない位置にあるらしく、そんなネソがハーシェル領になったのも随分前の話のようで、その時の詳細を知っているものはもういない状況のようでして、ハーシェル領としても扱いに困っているようなのです」


ふむう、よく分からんが、そのネソという村は孤立しているようだな。そういうところであれば紛れ込みやすそうだ。

それにそこが目的地だったこやつらもいれば、なんとでもなりそうだな。


「なるほどのう。では明日からそこに向かうことにするか」


「え? アリス様、よろしいのですか?」


「ずっとコボルドの集落に籠もっていることもできんしのう。それにお前たちの目的地なのだろう? 我とモリーを連れて行くがよい」


ハノンの喜びの言葉に、村の影がちらつき、遠くの森が不気味にざわついた……。

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