第8話 ポーション

『アイテムボックス持ちか。勇者か? 不吉じゃのう』


『そうでもありませんよ。敵対しているならそうかもしれませんが魅了していますので、かなり使いでがあると思われます。食事事情やその他、人間としての事情が改善できるでしょう』


「おぬしは行商人と言ったがその割には荷物が少ないようだが?」


「は、はい。荷物の多くは捨ててもそんなに損害が大きくなく重くないものとなっております。ですがここだけの話とさせていただきたいのですがアイテムボックスを持っておりますので、高額なもの、重いものはそちらに。あと容量は少ないのですが劣化すると困るものも」


「ほう、おぬしのアイテムボックスは時間停止機能もあるのか」


勇者が驚異であった理由の一つである。あやつらは単独で長期間敵地で動き回ることが出来る。そのアイテムボックスのおかげでな。


「はい、今お見せします。こちらをどうぞ」


ハノンが虚空から瓶を取り出した。わずかに魔力の動きがあったし、これがアイテムボックスか。瓶の液体がキラリと夕陽に光る。


「ん、なんじゃこれは?」


「ヒールポーションでございます。見る限りお怪我をなされているようですので。こちらで即座に治ると思います」


そういえば腕と足を怪我しておったし、その部分は服に隠れていなかったな。なかなか気が利くやつではないか。それに我は人間に似ているとはいえ人間の薬が効くかどうかは分からんからな、良い実験となろう。


『どう思う、モリーよ』


『わたしくしでもこの類は正常な効果がありますので、よろしいかと』


たまに自己回復能力や継続回復能力を持つ魔属もいるが、基本魔属に癒やしの術はなく薬なども使わない使えない。時間経過による自然治癒しか回復手段はないと思っていたが、この姿ならば人間のものも使用できるのか。これは大きな力となり得るな。


勇者どもが鬱陶しかった理由のもう一つがこれだからな。

奴らは戦闘中であっても容易に傷を癒やしてきおる。

回復する相手はやっかいだから一撃で仕留めるか連撃で回復の隙を与えぬようにしなければならないからな。


もらった瓶を見てみたが、これはどう使うのだ? 勇者どもは飲んでいたが、この封印は解いて良い、のだよな? 魔力に反応するとかあるのか?


我のそういう思惑を勘違いしたのか、ハノンが説明し始めた。


「それは紙蝋封印であります。上級ポーションはコルク栓でも劣化しやすいのでその魔法がかけられた紙と蝋で封印されているのです。もし気に障るのでしたら下級でよろしければそちらをお渡ししますが」


そういって別の瓶を差し出してきたのでそれを受け取り、前のものは返す。

そしてコルク栓を抜き、中身を飲み干す。そういえば喉が乾いておったわ。美味くはないが喉の乾きはなくなったし怪我も幻のように消え去った。


「ん? そうか。おぬしは下級で良いのにわざわざ上級を渡したのか?」


ハノンは床に額が付きそうなほど頭を下げながら言った。


「は、はい。お気を煩わせて申し訳ありません。傷は見る限り下級で十分かと思いましたし実際そのようでしたが、モリー様の上の方に下級はどうかと思ってしまいました。あいにく中級は持ち合わせておりませんでしたので」


「そうか、おぬしの、ハノンの気遣いに感謝する。が、今後はそこまで気遣わなくてもいいぞ」


我が魔王として君臨していた時、ここまで気を使う部下がいただろうか? 魔属にはここまでのものはそう多くないと思う。


「戦士の二人は警戒と食べられる野草の回収を。コボルドゾンビは気にするな、害にはならんし逆に手を出したら反撃を食らうからな」


『わたくしもついていって、監視と知識の吸収をしてきます』


『分かった。そちらは頼む。こちらはハノンから色々と聞き出しておく』


森の奥から微かな気配が漂い、木々がざわつく……。

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