第5話 国境を越える
第5話 国境を越える
翌朝、宿を出てすぐに街の北門へ向かった。
街道は広く、人と荷車で賑わっている。だが、門の手前には兵士が数人並び、旅人ひとりひとりを念入りに調べていた。
(……あれ、これ普通の検問じゃないな)
兵士たちの視線は妙に鋭い。声をかけられた商人は、慌てて懐から何かを取り出して差し出す。硬貨の音。つまり――賄賂。
「ったく、またかよ」「勇者様のためとか言って、徴収が増えすぎなんだよな」
小声でぼやく旅人の言葉を耳にして、私は眉をひそめた。
(やっぱりこの国、腐ってるわね……)
立ち止まって考える。正面突破すれば、確実に財布を狙われる。下手すれば「魔力なしの異邦人」として再び拘束される危険もある。
「さて、どうしよっか」
小袋を握り直しながら、私は周囲を観察した。
門を避けて丘陵へ進む獣道のような小道――そこに足跡が重なっているのを見つける。どうやら正面以外の抜け道が存在するらしい。
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夕暮れまで街をぶらつき、目立たぬように外れへ回り込む。
門から離れるにつれ、空気は静かになり、草の匂いが濃くなった。
獣道に入ると、背丈ほどの茂みが両側を覆い、視界が狭くなる。
ひやりとするほどの緊張感。けれど――。
(まあ、牢にぶち込まれるよりはマシでしょ)
藪をかき分けながら進むと、やがて視界が開け、遠くに石造りの国境標が見えた。
「……抜けた」
誰もいない草原に立ち尽くし、思わず笑みがこぼれる。
背後にあるのは、腐敗した王国。
これから進むのは、まだ何も知らない異世界の広さ。
胸の奥に、不安と同時にわくわくが湧き上がる。
「よし。ここからが本番だね」
私はコイン袋を軽く放り上げ、握り直す。
夜風が頬を撫で、草原の彼方に星が瞬いていた。
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