第10話




「やった! 勝ちました!」


 エアホッケー2回戦目は――三点差で今度は俺が負けてしまった。


 ちなみに手加減はしてない。

 本気でやった……はずなんだけどなぁ。


「三森さん……上手すぎじゃない?」


「ふふっ、スポーツは嫌いじゃありませんからね」


「じゃあ、最後にもう一回やるか?」


「勿論です!」


 そうして、俺が、100円玉を機械に投入しようとした時。


 同じく100円玉を投入しようした三森さんと――手と手が触れ合った。


「っ……!」

「ひゃっ……?! 


 俺たちは、思わず手を引っ込める。


「ごめん。さっき払ってもらったから、今回は俺が払った方がいいかなって思って……」

「すみません。でレーンゲームの時に一回、払ってもらってるので今回は私が払おうと思って……」


 見事なまでに同時に飛び出す謝罪と弁明の言葉。


 あまりにも偶然が重なりすぎて、俺たちは思わず、くすりと笑い声を漏らした。


「ふふっ、私たち……意外と気が合うのかもしれませんね」


 三森さんは、少し頬を赤く染めながら、そう言った。


「実は私、ここまで人と一緒にいて楽しいと思ったのは、家族以外だと初めてなんんです」


 三森さんは、「で、ですから……」と続けると――


「よろしければ、月城さん、今回のことが終わっても、また遊びに誘ってもいいですか?」


 ギュッとぬいぐるみを抱きしめながら、愛らしく小首を傾げる。


 その頬はりんごよりも真っ赤だった。


 そんな愛らしい彼女を前に、俺が断れるはずなく――


「勿論! ぜひ、また遊ぼう」


 気付けば、彼女の誘いを受けていた。





――――――――――――――――――




三回戦目のエアホッケーは何とか俺が勝利した。

点差は一点。

危なかった……。


「じゃあ、次は何をしましょうか?」


少し悔しそうな様子が残る三森さんは、


「うーん、そうだなぁ……三森さんが気になってるものとかってある?」


「私が気になってるものですか?」


三森さんは辺りを見渡すと――


「月城さん、あれってなんですか?」


「え……?」


三森さんが指差した先にあったのは――


「ぷ、プリクラ……?!」


「ぷりくら? ですか?」


「ああ……あれはね、写真を撮って加工したりして遊ぶ機械だよ」


「へぇ〜そんなものがあるんですね」


三森さんは興味深そうにしみじみと見つめる。


もしかして、やってみたいのだろうか?


『――わっ、めっちゃ盛れてるっ!』


すると、近くのプリクラ機から1組のカップルが出てきた。


彼女の方は、写真を彼氏に見せながら嬉しそうにしている。


『――いやいや、それはミオが元々、可愛いからだよ』


『――もうっ! タクミ君ってば……!』


彼女の方は、彼氏の腕に抱きつき、甘々な空気が流れ始めた。


うん……やっぱり、そうだよね。


「っ〜〜〜?!」


ふと、横目で三森さんを見てみると、彼女はカップルのやり取りを見て、顔を真っ赤に染めていた。


「も、もしかして……あの機械って……こ、恋人同士で利用するものなのでしょうか?」


「まあ、女の子同士で使う人も多いけど……男女で利用する場合は、基本、恋人同士だな」


「そ、そうなんですか」


三森さんは、「ふぅん」と声を漏らす。


もしかして、三森さんはプリクラをやってみたかったのだろうか。


だとしたら……申し訳ないな。


流石に恋人でもない男女が一緒にプリクラを撮るのは変だし……。


「月城さん、気を取り直して、他に面白そうなゲームがないか、探しましょう?」


「あ、ああ! そうだな」


申し訳ないが、三森さんには我慢してもらおう。


うん、それが三森さんにとってもいいはずだ。


そう思って、他のゲームを探そうとした時――


『――おい、オタク野郎とクソアマがここに居るって嘘じゃねえよなァ?』


ゲームセンターの入り口から、男の威圧的な声が聞こえてきた。


いや……嘘だろ? まさか――


『――じゃあ、手分けして探すぞ! 絶対に月城と三森を見つけろッ!』


ッ?!


この声、俺たちの名前……間違いない。


佐竹が俺たちを探しにきたのだ。


「ッ……! 佐竹さん達が来たみたいですね……本当にしつこい人たちです」


「本当にしつこい奴らだよ……三森さん、今回は逃げよう」


すると、三森さんは、首を横に振った。


「恐らく、非常階段含めて入り口には待ち伏せされているでしょう。それに……もしもゲームセンターを抜け出せたとしても、私の足の速さではすぐに追いつかれてしまいます……」


三森さんは、申し訳なさそうにそう言う。


その間にも、佐竹たちの足音は近づいてきていた。



「み、三森さん! このプリクラ機の中に隠れよう!」


「え、え?!」


「ほら、早く!」


俺は、三森さんをプリクラ機の中に引き込むと、すぐさまカーテンを閉めた。


これで一旦、姿を隠すことはできた。


「(あとは、あいつらが去るまで、ここで耐えるしかない……)」


前みたいな偶然が起きるとは限らない。


今度は……三森さんが連れ去られてしまうかもしれないのだ。


「つ、月城……さん……っ!」


すると、近くから消えてしまいそうな小声が聞こえてきた。


ふと、視線を落とすと、そこには、真っ赤に頬を染めた三森さんが。


――俺の腕の中にいた。


「っ?! ご、ごめん!」


「だ、大丈夫です。驚いただけですから」


うっかりしていた……!

焦るあまり、三森さんを抱きしめるような形になってしまった……。


俺は、慌てて三森さんを離す。


が――


「……へ?」


三森さんが俺の側から離れることはなかった。


彼女は、俺の胸に顔を埋めるような形でじっとしていたのだ。


「三森さん、どうしたの?」


「……すみません。ちょっと怖くて……」


そう言う三森さんの声は、微かに震えていた。


そうか……そうだよな。


力も数も、立場も上の相手に襲われそうになっているのだ。


彼女だって、女の子なのだ。


こんな状況、どう考えたって怖いに決まってる。


「月城さん、もう少しの間、こうしていてもいいですか?」


「ああ。俺でよければ、いつまでも」


「ありがとうございます……」


小さく感謝を告げる彼女。


その耳は、仄かに赤く染まってるような気がした。


『――おい! 見つからねえぞ!』


一方。


外からは、佐竹達の声が聞こえてきた。


『――おかしいな……見張りの奴らからは、あいつはまだ逃げてねえって言われてんだけどな』


『――もしかして、どっかに隠れてんじゃねえのか?』


ッ……?!


やっぱり、見張りが居たのか……!


それに、隠れていることすら、バレているなんて……。


『そうだなァ……でも、隠れられる場所なんてあるか?』


『あんだろ。トイレとか……あと、このプリクラの中とかな』


その時、三森さんの体がピクリと震えた。


『じゃあ、オレはトイレ調べてくる』


『了解。こっちはプリクラの中を調べるわ』


不味い不味い不味い……ッ!


プリクラの中まで、調べてくるなんて。


「(一体、どうしたらいいんだ……こんな密室に逃げ道なんてないし……)」


戦うか? ……いや、この一人には勝てたとして、仲間に囲まれて、ボコボコにされるのがオチだろう。


じゃあ、諦めるしかないのか……?


そんな弱音が脳裏をよぎった時。


ふと、視界には、体を震わせている三森さんの姿が映った。


「(そうだ……ここで俺が弱気になってたら三森さんをもっと怖がらせてしまうじゃないか)」


気がつけば、弱音は消え去っていて。


全力で、解決策を考えていた。


「――あのぉ! 三森さんって知りませんかァ?」


すると、カーテン越しにそんな声をかけられた。


「……」


「あのぉ? 返事ないなら、カーテン開けますけど、いいっすかぁ?」


「……」


「いいんすね? じゃあ、開けますよ――」


――シャッ


カーテンは、開けられた。


俺が取った行動は――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る