第3話 全てを精算しに来たんです
彼女は――
「でしたら、私たちの方から会いに行ってやりましょう」
口元だけに笑みを浮かべ、そう言った。
ッ……?! 俺たちから会いに行くだと?!
「さ、流石にそれは危険すぎると思うぞ?」
「だって……今の佐竹は完全に頭に血がのぼってるだろ? 関われば、暴力を振るわれたり、恫喝されたり……酷い目に遭うかもしれないじゃないか」
「一理ありますね」
彼女は、ふふっと笑うと――
「だからこそ今なのです」
強い意志を感じる目で、そう言った。
一体、彼女にはどんな作戦があるのだろうか。
そして、どうして彼女は――
「(こんなにも勇敢なんだよ……)」
何もかもから逃げ続けた俺とは大違いで……彼女は、眩しかった。
彼女は、胸に手を当てると、自信満々に――
「大丈夫です。私が全てどうにかしますから、月城さんはトイレにでも隠れていてください」
そう言って、微笑んだ。
「……作戦があるのか?」
「勿論です……あっ、月城さんには迷惑をかけないので、安心してもいいですよ?」
違う。
俺が気にしてるのはそんなことじゃなくて――
「何も、全部、一人で背負わなくたっていいだろ……」
「こ、これは全部、私が佐竹さんを振ったせいで起こったことですから私がどうにかするのは当然のことでしょう?」
三森さんは、少し困惑した様子でそう言った。
「……そっか。そこまで言うなら、三森さんに任せるよ」
言いたいことはある。
けれど……これ以上、引き留めても彼女は止まってくれる気がしなかったのだ。
「けど、トレイに隠れるのは無しだ。俺も三森さんと一緒に行くよ」
「よ、良いのですか? もしかしたら、危険な目に遭うかもしれませんよ?」
「それは、三森さんも同じだろ? ……流石にこんな状況で、指咥えて隠れるなんて出来ないよ」
佐竹たちは怖い。
けれど……こんなに華奢な体で立ち向かおうとしている少女がいるのに、俺だけ隠れるなんてこと、出来るはずがなかった。
「……わかりました」
彼女は、何か言いたげだった。
しかし、俺の強い意志の籠った目を見て、諦めたようだ。
「では、行きましょうか。私が上手くやってみますので、月城さんはじっと見ていてくださいね?」
「ああ」
月下美人は美しいだけではなく、勇敢で強いらしい。
けれど……何も、孤高である必要はないと俺は思う。
隣に人がいるなら、頼ってくれてもいいんじゃないか。
そう思わずにはいられなかった。
――――――――――――――――
【佐竹視点】
「あのクソアマ、絶対にわからせてやる……!」
俺――佐竹健人ははらわたが煮えくり返るような思いで、拳をぐっと握りしめる。
思い出すのは、さっきの出来事。
『――なので、今、ここで貴方と別れます。短い間でしたがありがとうございました』
『月下美人』は――星那は、そう言って俺がけしかけたオタク野郎のナンパをなぜか受け入れ……そして、俺のことを振った。
そのせいで、俺はとんだ笑い物だ。
「クソアマがッ! 俺をコケにしやがって……」
見つけたら、どうしてやろうか。
「そうだ……星那の父親、確か俺のオヤジの会社で働いてたよな?」
なら、星那の父親の悪評をオヤジに伝えるって脅してやろう。
それで今度こそ、星那を完全に俺のモノにしてやる……ッ!
そうして、星那たちを捜索すること数十分。
「ここが……星那たちが居るって話のファミレスか?」
俺は、目の前のファミレスを睨みながら、呟く。
仲間の一人から、ここに星那たちが居るというタレコミがあったのだ。
「お前らぁッ! 行くぞ!」
「「「「「うっす!」」」」」
俺は仲間達とファミレスへ入ろうとする。
俺たちは合計六人。
あのオタク野郎がどう足掻いても、絶対に俺たちには勝てやしない。
あの二人の絶望した顔が楽しみだなァ!
そして、俺は――
「出てこいよ、クソアマぁぁぁぁ!!」
ファミレスのドアを蹴って開けた。
しかし――
「……は?」
ドアの先にいたのは……氷のように冷たい目線を向けてくる銀髪少女だった。
そう……月下美人が――星那が待ち構えていたのだ。
「ふ、ふはははっ! 勝てないと悟って大人しく自首しに来たのか?! いい心構えじゃねえか――」
「違いますが」
「あン? なんだ、俺たちとやり合おうってか? 随分俺もお前に舐められたもんだなあ……」
俺は感情任せに星那の胸ぐらを掴もうとする。
が、星那は、俺の手をパシっと払い――
「いいえ、違いますよ。私は――全てを精算しに来たんです」
光ない目で星那は言った。
――――――――――――――――――
【主人公視点】
「いいえ、違いますよ。私は――全てを精算しに来たんです」
三森さんは、佐竹にそう言い放った。
本当に大丈夫だろうか。
相手の数は六人。
暴力沙汰になれば、勝てっこない。
彼女はどうやって、この状況を打破するつもりなんだ?
「は? 精算? クソアマが……あんまふざけたことばっか言ってると、ぶん殴るぞ?」
佐竹は怒りをあらわにし、拳を強く握りしめる。
しかし、三森さんは全く動じず、毅然とした態度で口を開いた。
「――昨日」
「は?」
「あなたは、私に告白してきました」
「ああ、そうだけど?」
「そして、嫌がる私に『私の父親が、貴方の父親の会社の社員であること』を盾にして仲間たちと共に私に迫ってきましたよね?」
ッ?!
佐竹は、三森さんを彼女にするために、脅したというのか?!
最低で最悪の行為だ。
「は、はあ?! ……だからなんだよッ!」
しかし、それを指摘された佐竹は謝るどころか――開き直った。
それだけではなく、彼は語気を荒くし、三森さんに迫っていく。
「お前の父親は、うちのオヤジの会社に拾って貰ったんだッ! あんまりふざけたこと言ってると、お前の父親の悪評をオヤジにチクってやろうか?」
「――そんなこと、出来るはずありません」
三森さんは、佐竹の脅しに対して、全く動じた様子を見せない。
「あン? どういうことだ?」
「私の知る限り、貴方のお父さんは、まともな人です。例え、息子の貴方の言葉であっても、無闇に信じたりはしないでしょう」
「ッ……どうだかなッ! そんなの試してみなきゃわかんねぇぞ?」
「では、試してみてはどうですか? ……貴方がこっぴどく怒られるだけでしょうけど」
「ッ?! このクソアマがッ! 調子に乗りやがって……」
「これ以上、恥をかきたくないのであれば、ここで引いてください。今なら、私たちは今回の件を黙ってあげますよ」
そう言われた佐竹は悔しそうな表情を浮かべていた。
「(凄いな……あの佐竹に一矢報いるなんて)」
しかし、俺にはまだ懸念があった。
人の中には……危機に追い詰められた時、暴力に訴える人が存在するのだ。
「ふ、ふははっ! ここで引けば今回のことは誰にも話さない? ……誰が信じるかよ、クソアマが」
「でしたらどうなるか、わかってますよね?」
「いや、そもそもお前は1人……あの根暗オタク野郎が居たとしても2人だ、それに対してこっちは7人。なあ、お願いを聞くのはどっちだぁ?」
「なっ……?! 暴力で無理矢理、解決するつもりですかッ?」
「へッ! 恨むんなら仲間の、ひ弱なオタク野郎を恨むんだなっ!」
「さ、最低ですッ!」
嫌がる三森さんに、下卑た笑みを浮かべた佐竹は、歩み寄る。
そして、彼女の肩に手を伸ばすと――
「――おい、嫌がってる相手に触れようとすんじゃねえよ」
バシッと、俺は佐竹の手を叩き落とした。
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