第31話 カークたちと再会



 蛍光灯の薄明かりで照らされた広い空間は、無機質で冷たい感じがする。

 気温はさっきまで居たソラリムのほうが寒いはずなのに、空虚な周囲の景色に気持ちが冷める気がした。


「いったん穴を鎮めますね」

 二つの世界をつなぐ巨大な窓を振り向いてフリーマンが言った。

 そして、先程と同じように両手をかざして目を瞑ると、月明かりの雪山の景色は音もなく暗く沈んでやがて真っ黒い球に戻った。


「ユン少佐大丈夫かな」

 凛々子も気にしているようだ。


「大丈夫ですよ。道具も渡してきたし、軍人なんだから」

 凛々子にそう言って、僕はフリーマンに向き直った。

「まずは、何をする?」

 フリーマンに訊く。


「この穴を生み出している機械はどれでしょうか」

 そう聞くフリーマンを、僕はコンソールに導く。

 

「あたしはカーク達に会いに行ってくるよ。このビルの前でキャンプ張ってるって言ってたよね」

 凛々子は暗くなった表に出ようとしていた。暑くなったのだろう、ダウンコートを脱いだ。


 凛々子を一人にはしたくない。しかし、フリーマンをひとりここに残しておくのも心配だった。変な操作をされては困るから。


 結局、僕はフリーマンも伴って、三人で施設の表玄関に行くことにした。

 フリーマン自身も、この世界をもっと深く見てみたいと思ったようで、喜んで着いてきた。


 施設の入口は、ジョアンの蜘蛛型ロボットに破壊されたままだから、角を曲がると外の様子が素通しで見えてきた。暗くなった中、焚き火の炎が見える。


 正面に大きめのテントも見えた。

 カークたちが張ったテントだろう。


 テントの横の折りたたみ椅子に座った人影が、僕らの足音に気づいたのか立ち上がった。


 焚き火の光で横顔が照らされる。

 振り向くその人影はジョアンだった。


「おーい、ジョアン。帰ってきたよ」

 凛々子が駆け寄る。

「えっ? まだ開けていないのに、どうやって?」

 ジョアンは凛々子、そして僕らの方に視線を向けて首を傾げた。

 カークもテントから出てきた。

「どうしたんだ?」

 無精髭の伸びた彼も同じように聞いてきた。


「時空の穴の専門家の魔道士が開いてくれたんだ」

 凛々子が二人に答える。

 そして、この子だよとフリーマンを紹介した。


「は、はじめまして。フリーマンです」

 いきなり注目されて、照れたのか、どもりながらフリーマンが自己紹介した。

「あんたがフリーマン? まだ子供やんけ。ちょっと想像と違うなあ」

 ジョアンが裏返った声を上げる。


 僕はソラリムでのことを簡単に二人に説明し始める。

「そうだ。ジョアン、君の船借りたけど、母船のAIと一悶着あったんだよ」

 僕が言うと、彼は、はっと目を見張った。

「やばいなあ。それでどうなった?」

「君の使っていた裏ルートで、時空の穴の位置情報を無効化したよ。それでなんとかごまかせた」

 僕の答えに彼の顔は真っ赤になった。

「もしかして、わいのエッチな映像見たんか?」

 彼が僕にだけ聞こえるくらいの小声で聞き返してきた。


 彼のオナニー画像は、船のAIが認識できないように無効化されてはあったが、そこにはまだ残っていたのだ。

 下半身裸になって、お尻にディルドウ突き立ててあえぐ彼の映像だった。


「気にしなくていいよ。僕もあのプレイ大好きなんだから」 

 そう言って僕が慰める。

「男の娘サキュバスに、そう言われてもなあ」

 彼は赤い耳でうつむいた。


「それで、フリーマンは時空の穴を消せるのか?」

 カークが僕の方に聞いてきた。

 僕が彼を促すと、フリーマンが答える。

「少し調べさせてください。方法はあると思います。でも、あれだけ大きなものを消すには、膨大なエネルギーが必要になるでしょう。僕一人では無理かもしれません」


「膨大なエネルギーって、魔法のエネルギー? この世界には魔法の元になるようなもの無いよ」

 凛々子が言う。そのとおりだと思った。


「ここの時空の穴の性質さえわかれば、消去は向こうの世界でやりますから、あちらで手伝ってくれる人を探せばいいのです」

 フリーマンはそう言うが、ソラリムの世界にそんな偉大な魔道士がいてくれるのかな。


「コーキ氏に手伝ってもらう、とか?」

 コーキ師はハイルースの寺院の現在の最高指導者だ。

 僕が聞くと、フリーマンは、まあそうですねと煮え切らない答えだった。


「腹が減っただろう。こっちに来て食え」

 カークがテーブルの方に招いてくれる。

 テーブルの上には、鶏肉料理やサラダなどが並べてあった。

「さっき教会村の女の人たちが届けてくれたんや。俺達は食べたから、あんたらたくさん食べてや」

 ジョアンは凛々子のために椅子を引きながらそう言った。


「わあ、美味しそう」

 凛々子が真っ先に席について唐揚げを頬張る。

 フリーマンは、恐る恐るという感じでひとくち食べてみて、笑顔を向けてきた。

 



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