異世界転生‐男の娘Ⅲ・崩壊した日本の冒険

放射朗

第1話 日本崩壊から一ヶ月



 2025年、7月15日に日本中を襲った巨大地震は、南海トラフ、千島沖、など複数の震源が絡んだ広域地震だった。

 さらに、九州では阿蘇の大噴火で噴煙が巻き上がり、九州から中国・四国地方まで、航空機の飛行にも支障をきたすことになった。大地震で高速道路も鉄道も寸断され、物流も止まった。日本政府は完全に崩壊し、それとともに日本という国も無くなったように見えた。

 都市部はインフラが壊滅的で、誰もが田舎に移動していた。

 もちろん移動できる人たちだけだ。救援に希望をいだいて都市に残った人たちは、いずれどこからも救援が来ないことを思い知ることになった。


 しかし、これらのことは後に知った情報で、その場にいた僕らにはただただ混乱の毎日が過ぎるだけだった。


「ねえ、またお食事に行くの?」

 狭いアパートの一室を出ようとした僕の背中に、凛々子の言葉が響いた。

 このアパートを見つけて二人で住むことにして、二週間が過ぎている。

 地震によって壁にヒビが入っていたが、散らばった家具を片付けたらベッドはまだ使えそうだった。

 もともとの住人は地震の被害にあってしまったのか、もっといい場所に移っていったのかわからない。

 僕も、凛々子もようやくこの崩壊した日本での生き方が身についてきた頃だ。


「言わずもがなですよ。それにもう食べ物も無くなってきたし、調達してきますから、大人しく待っていてください」

 僕は振り向いて、ソファに腰掛けている凛々子に言う。 

 凛々子も、このところ子供っぽさが抜けてきたみたいだ。

 中学二年生の彼女だが、崩壊後の日本で生きるうちに、心の強さが身についてきたように思える。


 僕は扉を閉めると鍵をかけた。

 崩れかけた建物脇の階段を降りる。周囲は地震で壊れた家並みと、倒れたブロック塀がずっと続いている。周囲のまだ住める住居から出てきた人たちが、市場に向かってぞろぞろ歩き出していた。


 以前、凛々子の両親を探しに隣街まで行ってきたことがあった。

 大津波から四日後のことだった。

 溺死体が腐臭を上げて酷い有様だった。

 海水と泥、腐った魚、そして人間の死体が放つ、甘くどろりとした臭気が町全体を覆っていた。

 かつては活気ある漁港だったはずの場所は、瓦礫と流木の墓場と化していた。

折れた電柱が斜めに刺さり、ひしゃげた車が積み重なる。海から打ち上げられた漁船が、民家の屋根を突き破っていた。

 水たまりには、油膜と血が混じった虹色の光沢が浮かんでいる。


 港の岸壁に打ち上げられた無数の遺体が、初夏の陽射しで膨れ上がっていた。

 四日経った今、肌は青白く変色し、腹部はガスで膨張している。

 あるものは海藻に絡まり、口から泡と泥を吐いたまま固まっていた。

 別の遺体は、半分海水に浸かったまま、波に揺られて不気味に動いている。

 目を見開いたままの顔、引きちぎられた服、腐臭をまとった風が運ぶ微かなうめき声――まるで町全体が死の呻吟に満ちているようだった。

 やはり凛々子を部屋においてきたのは正解だったと、その時思った。

 14歳の彼女にはとても見せられない惨状だったのだ。

 

 町の人々はそんな港から離れて、高台の方の住宅地に集まっていた。

 大声上げて、青山さん居ませんかと何度も叫んだが、誰も手を上げてくれなかった。


「さて、今日は誰にしようかな」

 暗い気分を払拭するように、僕は声を上げた。

 男の娘サキュバスの食事は、男の精液。

 それをお尻で受けることが僕の生命エネルギーになるのだ。


 前回は市場で適当な男を誘って、路地裏で魅了の術をかけてきっかり五回搾り取ってきたけど、今日は気分を変えて山道を登ることにした。

 山手の方には工業団地があって、そこにも屈強な男たちが集団生活をしているようなのだ。

 生命力の強い生きのいい精子のほうが、僕の満足度も上がるのだ。


 山かげの細い道を歩いていると、奥の方に黒い中型犬が一匹居るのが見えた。

 犬の方もこちらに気づいて、低く唸っている。

 見ると、犬の足元には捕まえた獲物のなのだろうネズミが一匹。

 獲物を取られるのを警戒しているようだ。

 ふと思いついた。


 ソラリムでの男の娘サキュバスの僕は、狼と交わることで狼の走力を手に入れていた。

 この日本でも、それはできるのだろうか。

 この世界で魅了の術が効果あることはわかっていたけど、まだ動物の能力を受け取ることができるのかは確かめていない。


 実はこの日本の世界でも犬と交わったことは以前にあった。

 あれは凛々子とピクニックした日、犬に襲われたときの事だった。

 とっさのことに反射的にお尻を見せてしまって、その結果まじわることになったのだ。


 でもあの時は、僕の身体はまだ木村圭一のままだったからなのか、新しい能力を得た感覚はなかった。

 そのピクニックの後半で、とある空き家の窓を覗いたときに、僕の外見が木村圭一から男の娘サキュバス、ジュンに変化していたのだ。


 この日本での僕が徐々にサタノス神の影響で変化し、あの窓を見たあたりで完全に変身完了してしまったのだった。

 だとしたら、ピクニックの時の犬との交わりで能力を受け取れなかったとしても、今の僕ならそれが可能なのではないだろうか。


 唸り声を高くしながら黄色い牙をむき出し始めた犬に向かって、近づきながらくるりと背中を向けローブをめくる。そして、ぷりんとお尻を突き出してみせた。

 

 犬の殺気が急に消える。ソラリムのときと同じようにことは進んで、その犬が四つん這いになった僕の肛門を舐め始めた。

 男の娘サキュバスの肛門を舐めることは、そのオスなり男の精力を高めることになるのだ。

 

 野良犬の前足が僕の腰に巻き付いてくる。肛門に犬のペニスの先端が当たった。

 僕のそこはすでに受け入れ体制になっていて、そのペニスをゆるりと受け入れる。

 ああ、気持ちいい。サキュバスにとっての食事とはいっても、セックスの快感があるのは変わらないのだ。

 ズズッ遠くまで貫かれて、僕はあっと声を上げてしまう。

 獣に犯される快感というのは、人間の男にされるのとは違って、背徳感と言うか恥辱の喜びを感じるのだ。

 

 五回目の射精を僕のお尻の中に放った野良犬が、ふらりと離れて眠りにつく。

 僕はめくれ上がったローブを直して立ち上がる。

 すぐに身体の感覚が違うことに気づいた。

 そして心も。走りたくてたまらない気がしてきたのだ。

 足が軽い。ジャンプしてみたら垂直に1メートルくらい飛び上がっていた。


 ローブの裾を持ち上げて走ってみた。一気に景色が後ろに向かって飛び去っていく。

 僕はアスファルトから離れて、細い山道に入っていった。獣のように踏み分け道を走る。

 走る快感に身体中の細胞が歓喜の声をあげているようだった。


 その時、左の方から争うような声が聞こえてきた。

 結構距離があったが、犬の聴覚のおかげか、はっきり聞こえていた。

 早速音を立てないようにそちらに向かう。


 そこでは、道路横の広場で一人の男が縛り上げられ、数人の男たちに責め立てられていた。

 言葉がわからない。英語のようだ。縛られた男は目隠しまでされている。

 その男の首筋に、煌めくナイフの刃が当てられていた。


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