第一章: 8 惣菜の王、現る
ズシィィィィン!!!
床が揺れ、商品棚がガタガタ音を立てる。
惣菜コーナーの奥から、油煙を撒き散らしながら化け物が現れた。
唐揚げ数十個が無理やり繋ぎ合わされ、骨と皮が鎧みたいに固まっている。
焦げた表面は鉄板みたいに黒光りし、内部では煮え立つ油がぐつぐつ沸騰していた。
「な……なにあれ……!」
俺は喉を鳴らした。
【ボス出現:惣菜軍団の王】
視界に浮かぶ青白いパネルが、残酷な文字を突きつけてくる。
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「ひ、ひいぃっ……!」
背後から情けない悲鳴。
藤広だった。小太りの体を揺らして、棚の影に隠れようとする。
「ま、待て! ここで逃げたら死ぬぞ!」
安井が必死に声を張り上げる。
七三分けに汗が滴り、スーツはすでにヨレヨレだ。
でもその眼鏡の奥の瞳は、妙に真剣だった。
「俺……まだ、読みかけの小説があるんだ! でんちゃん(カタツムリ)も心配だし!」
安井の叫びに俺は思わずズッコケそうになった。
「そんな理由で戦うのかよ!?」
「大事なんです!!!」
真顔で返す安井。
こいつ……バカ正直すぎる。
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「今は余計な話してる場合じゃない!」
ゆめが鋭く言い放ち、拳を握った。
唐揚げ王が咆哮する。
ジュボォォォォッ!!!
煮え立つ油を吐き出し、床一面を焦がす。
「下がってろたかし!」
ゆめが前に飛び出し、蹴りを叩き込んだ。
ガキィィィン!!
火花が散る。
「っ……硬すぎる!」
彼女の眉が歪む。
「外は鎧、内は油袋だ……!」
ゆうじが後ろで分析を叫ぶ。
「中身を破裂させれば……!」
「破裂って、どうやんだよ!」
俺は卵を握り直し、全力でぶん投げた。
パキィィィン!!!
卵が割れ、黄身と白身が光の鎖になって唐揚げ王を締め上げる。
「たぶん! おそらく! ひょっとすると効いてる!!!」
俺は叫んだ。
唐揚げ王が呻き声を上げ、巨体を揺らす。
油が飛び散り、床に炎が走った。
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「今だ、隙を作れ!」
安井がホチキスを構える。
「ホチキス・ショットォォ!!」
カシャッ! カシャッ!
針が唐揚げ王の顔面に突き刺さる。
「ちょ、ちょっと止まった!? ……これ、いけるかも!」
俺は叫ぶ。
その横で、藤広は汗を垂らしながら震えていた。
「む、無理……僕には無理だ……!」
声は弱々しい。
……けど。
その視線は、どこか冷めていた。
仲間を心配する目じゃない。
ただ状況を「観察」している目だった。
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