第一章: 7 新しい仲間?


床に散らばった惣菜の残骸を踏み越えながら、俺たちは奥の通路へ進んでいた。

息はまだ乱れているけど、前へ進むしかない。


そのとき——


「……あ、あのっ!」

不意に背後から声がした。


振り返ると、二人の男が立っていた。



---


一人は、真面目そうなサラリーマン。

七三分けに黒縁眼鏡、スーツは皺だらけ。

右手にはホチキスを握りしめている。


「す、すみません! 一緒に行かせてもらえませんか!?」

声は切羽詰まってるけど、どこか拍子抜けする調子。


もう一人は、猫背の小太り男。

汗で顔はテカテカ、目は泳いで落ち着かない。


「ぼ、僕たち……隠れてて……その……」


声は震えているけど、目の奥だけは妙に光って見えた。



---


「お前らもプレイヤー……だな?」

ゆうじが確認すると、サラリーマンは大きく頷いた。


「はい! でも、僕らだけじゃ怖くて……」

「そ、そうだよ! 一緒にいないと……死んじゃう!」

オドオド男が食い気味に言う。


ゆめは黙ったまま二人を見つめていた。

その視線が冷たいから、俺は慌てて間に入る。


「ま、まあまあ! 仲間は多いほうがいいし!」


俺は笑って手を差し出した。

二人は深々と頭を下げる。



---


その瞬間。

視界に青白いパネルが浮かんだ。


【プレイヤー同士の通信が開通しました】


五人分の名前がリストされている。



---


「な、なんだこれ……?」

俺は目を瞬かせる。


「メッセージ……? 声を飛ばせる……? いや、位置情報まで共有できるのか……」

ゆうじがパネルをスクロールして目を細める。


「便利すぎる……でも、これ……使っていいの?」

ゆめは腕を組み、真剣に考え込む。


「たしかに……うかつに情報を渡したら、裏切られるかも……」



---


五人で円になり、しばし沈黙。

「使うか、使わないか」

その判断を話し合い始めたときだった。


——ズシィィィィン!!


床が大きく揺れた。

商品棚がガタガタ音を立てて崩れる。


「な、なんだ!?」

俺はとっさに身構えた。


惣菜コーナーの奥。

そこから、ドロドロと油煙を吐きながら巨大な影が現れた。



---


唐揚げ数十個が合体した異形。

焦げた皮膚は鎧のように硬化し、口からは煮え立つ油が滴り落ちている。

眼は赤く爛々と光り、咆哮と共に空気を震わせた。


【ボス出現:惣菜軍団の王】



---


「話し合ってる場合じゃねぇぇぇ!!!」

俺の叫びがスーパーに響いた。


通信だの協力だの、そんな余裕はもうない。

次の瞬間には、生きるか死ぬかの総力戦が始まっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る