第一章: 2 最初の犠牲者
スーパーの入口は、いつも通りにぎやかだった。
自動ドアの開閉音、買い物袋の擦れる音、子どもの笑い声。
それらがごちゃ混ぜになって、日常の音を作り出していた。
……はずだった。
俺は入口の上にある黒いセンサーを見上げて、眉をひそめた。
丸い目玉みたいなそれが、さっきからチカチカと不規則に光っている。
普段は気にしたことなんて一度もない。
ただの機械。通る人をカウントしてるだけの目立たないヤツ。
けど、このときは……何かがおかしかった。
「なあ……光、変じゃね?」
俺はつい声に出した。
「え? センサーなんていつも光ってるでしょ?」
ゆめが小首をかしげる。
「店員の整備不足だろ。たかし気にしすぎ」
ゆうじは笑って受け流した。
でも俺の背筋はぞわぞわしたままだった。
---
ピシッッ——!
乾いた破裂音が響いた。
センサーのランプが一瞬だけ激しく光ったかと思うと、白い火花が飛び散った。
その直下を通っていたのは、買い物帰りの主婦らしい女性だった。
手にはパンと牛乳。小さな子ども用の駄菓子が袋からのぞいている。
何の変哲もない、どこにでもいる人。
その人の頭に——
センサーの光が、突き刺さった。
---
「え……?」
目の錯覚かと思った。
でも、確かに見えた。
細い光の筋が女性の頭に突き立ち、脳を直接なぞるみたいにジリジリと火花を走らせていた。
「キャアアッ!」
女性の叫びは一瞬だった。
次の瞬間、彼女は前のめりに崩れ落ちる。
買い物袋が床に散らばり、牛乳が破裂して白い液体を飛び散らせた。
キャベツが転がり、ビニール袋がバサッと広がる。
「おい! 大丈夫か!?」
「誰か、救急車!」
周囲の客が駆け寄り、悲鳴とざわめきが一気に広がった。
---
俺は呆然と立ち尽くしていた。
今のは、ただの機械故障じゃない。
光が——彼女の脳を“読んだ”。
そんな確信が胸の奥にひりついて残った。
女性の顔が一瞬だけ俺の目に焼き付いた。
苦痛とも安堵ともつかない、歪んだ表情。
……あれはなんだ?
「たかし! 早く来て!」
ゆめが俺の腕を引っ張る。
「ボサッとしてると巻き込まれるぞ!」
ゆうじも振り返って叫んだ。
俺は慌てて歩き出した。
でも振り返った瞬間、センサーの赤いランプが再び点滅した。
……まるで、笑ったように。
ゾクリと寒気が走る。
「……気のせい……か?」
---
俺たちが店内に入ると、蛍光灯が一斉にチカチカと明滅を始めた。
棚の商品がカタカタ震え、遠くで低いうなり声みたいな機械音が響く。
「おい……なんだよ、これ……」
俺は思わず呟いた。
それが“最初の犠牲者”。
日常の風景が、異常へと変わっていく始まりだった。
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