スーパーマーケットサバイバル
梅チップ
第一章: 1 日常の入口
放課後の空は、まだ夏の名残を抱えていた。
じっとりした湿気が肌に張りつき、アスファルトは熱を手放そうともしない。
「はああ……腹減ったぁ」
俺は大げさに両腕を伸ばし、隣を歩くゆめをちらりと見る。
ポニーテールが夕陽に揺れ、額に貼りついた前髪を彼女が指先で払った。
「たかし、また大声。恥ずかしいからやめて」
「いや、腹減ったら声もでかくなるんだって!」
「理屈になってないから」
ツッコミは相変わらず冷たい。けど、俺にはこのやり取りが妙に心地よかった。
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後ろからはゆうじがのんびり歩いてきた。
背は俺より頭一つ分高い。制服のシャツは汗でちょっとくたびれてるけど、顔は雑誌に出てもおかしくないレベルのイケメン。
なのに今は、スマホで軍用装備の画像を眺めながら歩いていた。
「お前さ……軍オタなのに、なんでスーパーの買い出し任されてんの?」
俺が聞くと、ゆうじは画面から目を離さずに肩をすくめる。
「先生に逆らえなかった。『頼むぞ、男三人で』って。断れる雰囲気じゃねぇ」
「まあ、そういうとこだよな。お前の優柔不断」
「うるさい」
それでも、学園祭準備でバタバタしてるみんなのために俺ら三人が買い出しに行くのは、悪くないと思ってた。
ちょっとした冒険気分。……いや、ただのスーパーの買い出しなんだけど。
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目の前に、そのスーパーが見えてきた。
赤い看板。
「地域一番の安さ!」って派手に書かれた文字。
駐車場には自転車と買い物袋を抱えた客たち。
どこにでもある、平凡でちょっと古びたスーパーだ。
「よし! 特売コロッケと牛乳と、あと卵! これは外せねぇ!」
俺は拳を握りしめた。
「……なんで卵そんなに押すの」
ゆめがジト目を向けてくる。
「いや、卵は万能だろ! 焼いてよし、投げてよし!」
「後半アウト!」
バシッと頭をはたかれた。
「いてっ! でもまあ、俺たちにピッタリな買い物だよな!」
「どういう意味?」
「いや……なんとなく?」
ゆめの拳が二発目を振り下ろす前に、俺は慌てて笑ってごまかした。
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そのとき。
入口の自動ドアが「ウィーン」と開き、俺たちの鼻を冷たい空気が撫でた。
クーラーの涼しさ。調理済み惣菜の香り。
そして……微かに、金属の焼けるような匂い。
「……?」
一瞬、俺は眉をひそめた。
でも、仲間二人は気づいてない。
ゆめは買い物リストを確認してるし、ゆうじはスマホをポケットに突っ込んでいた。
「さあ、行くぞ。今日の戦場はスーパーだ!」
俺は冗談めかして拳を掲げた。
その声は、次に起こる“異常”の序章になるなんて、まだ知る由もなかった。
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