本を食べる男と、本を読ませる少女。男が最後に食べた本は──。
- ★★ Very Good!!
【あらすじ】
あるところに本を食べる男がいた。生きるのに必要というわけではないが、男は心から求めて本を食べ続けている。そんな男の前に、ある日少女が現れる。本は食べるものではなく読むもの。少女は男に、本を読むようにと本を貸すようになる。本が結び合わせた、男と少女の、悲しくも優しい物語。
【感想】
まず、文章がとても綺麗で、穏やかながらも少し不思議な香りのする物語の世界観とマッチしており、するりと引き込まれるようでした。
本の味とはどんな味なのか──。紙一枚だって齧ったことすらない私が想像するとなると、味気も何もない虚しい風味しか思い浮かびません。それが、物語の男は実に美味そうに本を食べ、その味を読む側に豊かに想像させてくれるので、男にとって本とはオヤツやご馳走なのであり、本を食べているからといって男が本を冒涜しているわけではない、むしろ心から本を欲して愛しているのだなと感じました。
本を食べる点以外は至って普通──いや、むしろ普通以上に優しく誠実な男と少女のやり取りには心癒されます。最初は本を食べる男を嗜めていた少女が、ついには本を齧ってみたと報告し、本を味わえる男は特別な人なのねと話すシーンは、それまで少女に言われた通りに本を読んでいた男だけでなく、少女もまた、男という存在を理解し受け入れたことの暗喩のように思いました。
そしてその後の少女と男の日々の終わり。それから、男が決して食べなかった少女の本を食べた日のこと。その後の後悔と、少女の輪郭をなぞる日々。切々と描かれる中に男の純真さが浮かび上がってくるようで、最後まで物語を追わずにはいられませんでした。
【この本をおすすめしたい方】
・童話のような、優しく心温まるお話しが読みたい方。
・切なさを含んだ作品が好きな方。
・きちんとした文章力のある作品が読みたい方。