女性優位世界の【変身】男魔術師 in 崖っぷち戦線 〜人類の敵『魔人』の姿で同僚助けてたら、本当の僕と魔人の間で葛藤する拗れた性癖の女兵士量産しちゃった〜

クー(宮出礼助)

第1話 【変身】

「――ま、ずいッ! 敵の魔人の、侵攻を止められません!!」


「止められないじゃない、死んでも止めるッ!」


「あっ、こっちに――っきゃぁあああ!!」


 血の匂い立ち込める戦場。入り乱れる二つの勢力――人類と、魔族。


 その中でもひときわ目立つのが、僕たちから少し離れた場所で何度も舞い上がる土煙だ。


 うわあ、あの下にきっと恐ろしい魔人がいるんだぁ……。


「フーガ! 気を抜かない! 【盾】遅れてるわっ!」


「す、すみませんッ。すぐに……! 【盾】!」


 ダメだダメだ、カレンさんの言う通り。僕のフォローが遅れたら、同じ小隊の仲間たち――カレンさんにアイリさん、そしてサヤ隊長が危ないんだ。


 僕みたいなただの農夫が戦争を? っていう思いはまだあるけど。徴兵されちゃったからには、全力で仲間を守らなきゃ……!


「【盾】、【盾】、もいっこ【盾】!」


 みんなが正面以外から魔族の攻撃を受けそうになったら、とりあえず【盾】だ。


 特に、金色のツインテールを揺らして縦横無尽に跳びまわってるカレンさんは、うちの小隊で一番敵に突っ込んでるから。攻撃をくらいそうになってないか気をつけて見ないと!


「……なんか、今日のフーガ。いつもより【盾】多くないかしら? それに、こんなに堅かったっけ……」


「た、たしかに。フーガくん、いつもより安定感があるっていうか……?」


「ん。いい感じ」


 順番に――金髪ツインテのカレンさん、桃髪ボブのアイリさん、黒髪ロングのサヤ隊長から、お褒めの言葉を。


 そうだよね、やっぱ気付くよね……! みんなをよく守れるのはいいことなんだけど、ある程度抑えられないものかな!? レヴィ!


 と、そう声に出さずに問いかけた直後だった。頭に響く、クールな女の子の声。


(――ムリ。わたしと【同化】が進んできてる証拠だよ。この大きくなった魔力は、もうフーガ自身のものになってるから)


 僕のものなら、僕がコントロールできないとおかしくないっ?


(慣れてないから……かな。もともと木っ端みたいな魔力しか持ってなかったからね。いきなり完全に制御はムリでしょ)


 木っ端じゃないよ! 王国方面軍の平均くらいらしいからね? 男の中で言ったら最上位!


(人間の男……。貧弱の代名詞。本来なら、このわたしが興味なんて持つわけもない、有象無象以下の塵……か)


 ひ、ひどすぎる。なんて言いよう……。


 そりゃ確かに、あらゆる生物を上回る魔人族レヴィに言わせればそうだろうけども。


 というか、魔人といえば。


「――まずい! 魔人のやつ、士官を狙って移動してる! 我が軍の指揮系統をむちゃくちゃにする気だ!」


「狙われた小隊は周囲と連携して! 体勢を整えて、なんとか撃退――」


「こ、こんなのとめられるわけ……! きゃあ……ッ!」


 僕らがいるこの場には、連合軍に所属する人類と魔領軍の魔族――ゴブリンやコボルト、ときおりオークたちしかいない。全員入り乱れてて、どんどん近づいてくる阿鼻叫喚の主はぜんぜん見えない。


 でも、もう――。


「フーガ! いま他はいいから、魔人の方を警戒してくれる!? もし攻撃が来たら、全部のリソース使って防御を……!」


「カレンさん! は、はい、わかりましたっ」


 双剣で周囲の魔族をどんどん切り捨ててくカレンさんでも、だんだん近づいてくる魔人のことは最大限警戒してるみたい。


 でも、そりゃそうだよね。だって魔人って言ったら、僕ら人類にとっては絶望の象徴みたいなものだから。


 この王国辺境領土を魔族たちに切り取られたときも。うちの軍がほぼ壊滅した原因は――たった数人の魔人による攻撃だって言うし。


(ふん。そこらの魔人なんか、恐るるに足らないよ)


 いやいや、そんなことないから。僕、ほとんど一般人みたいなものだよ? つい数か月前まで畑いじりしかしたことなかったからね!


(……。そんなのでも、いまはわたしが中にいるんだから。ただの一般人じゃないし、もう)


 むむむ。確かにそうなのかもだけど、意識まではなかなかすぐには……。


 なんて考えてるうちに。もうすぐそばまで魔人が――!


「――フーガ、もう来るわ! 最大限の警戒を! ほらアイリもしっかり準備!」


「ひいいっ。私魔人って見るの初めてで! と、とんでもない魔力が近づいてくるっ。サヤ隊長、守ってくださいいい」


「……守るのはフーガの役目。私はただ、斬るだけ」


 そ、そうですよね、僕支援兵ですもんね。ただの農夫には信頼が重いですけど、頑張りますよ……!


「ほらみんな、集中! ぺちゃくちゃ喋ってる暇ないわ! もうすぐにでも――来る!」


 ――僕らのすぐそば、隣り合っている小隊が。


 悲鳴を上げて、まるでゴミみたいに吹き飛んでいく。戦っていた魔族も同様に、敵味方の区別もなく。


 これは――暴風? 竜巻みたいに、ものすごい力で吹き飛ばされたんだ……!


 すぐそばから、莫大な魔力圧力を感じる!


「これは……フーガの【盾】じゃ、どうしようもなさそうね」


 だよね、僕もそう思った!


 まだ魔人の姿は見えないけど、太刀打ちできる想像がつかない。――……この姿の、ままでは。


 そして、それはカレンさんだけじゃなく、アイリさんもサヤ隊長も同意見だったみたい。


 新参者の僕を除いて長い付き合いの彼女たちは、周囲の小隊がときおり吹っ飛んでいく中アイコンタクトで何やら通じ合って、そして最後に頷き合う。


 みんなして何を……と思っていたら。


 三人を代表するように、戦闘の合間を縫ってカレンさんがこっちに……ってええ!? だ、抱き上げられた!


(こいつ……。気安くフーガを……! 中にわたしがいると知っての狼藉?)


 知るわけないと思います! で、でもほんとになんでいきなり?


「か、カレンさん? いったいどうし――」


「けっこう、がっちりしてる……っじゃなくて! か、勝手に触れてしまってごめんなさい。でも、私たちは栄えある王国淑女として――本来守るべき存在である男性を、危険から遠ざけるべきと判断したわ」


「え?」


「だから。――舌は噛まないよう、気をつけてね」


 え? え? 何でそんな、今にもぶん投げますみたいな持ち方を。


 ええ、嘘でしょ? 【強化】まで発動した!?


「じゃあ……もし私たちが生き残ったなら。また会いましょう」


「なっ、待っ――」


「――自分の背中に【盾】を! はやく!」


 抵抗なんてする間もなく。


 言われるがままに【盾】を発動した直後、それ越しに感じる僅かな熱と、爆発的な推進力。


 ありていに言えば。


 ――カレンさんは【炎】の爆発まで使って、僕を戦場の外へと射出した。




 人ってこんなふうに飛べるんだ……。


 びゅうびゅうと風を切って飛びながら、そんなことを思う。


 ……いや、分かってるよ。この思考が現実逃避だって。だって眼下の戦場では、まだあちこちで血が流れてる。


 それに。


 さっきまで僕がいたところ、サヤ小隊の持ち場付近は特にひどい。


 姿は見えないけど、例の魔人が暴れてるみたい。人がときおり、僕みたいに宙に巻き上げられてるから。


「みんなは無事なの……?」


(どうだろうね。魔人族って言ってもピンキリだけど、一番弱いのでもあの木っ端どもを殺すくらいわけないから)


「うちの小隊は僕以外強い人の集まりだって聞いたんだけど……それでも危ないって言うんだね」


(その魔人が本気なら。――骨も残らないね)


 ひえ。僕なんて及びもつかないみんなが。


 でも、そっか。……だったら。


 僕はほとんどただの農夫みたいなものだけど、支援兵として小隊のみんなを守る役割を任されてる。


 それに、今までの僕ならいざ知らず。


 今の僕にはレヴィがいる。


(やるつもり? アレ)


 ――うん。


 だってそうしないと、みんなが死んじゃうって言うんなら。何とかできる人がやらないと。


 ……手伝ってくれるよね? レヴィ。


(……特別ね。わたしのこと助けてくれたの、これまで生きてきてフーガだけだったから)


 ありがとう、レヴィ。


 ……そろそろもう、飛ぶ勢いが落ちて地面が近づいてきた。


 それじゃあ、着陸したら。


 やろっか。――【変身】。



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