方針
「……うぅん、つまり一条くんは勇者として異世界で活躍していた存在で、その強さの源流はそこである、と」
三十分くらいの話し合いの後、僕の事情をすべて土御門さんたちに理解してもらえていた。
「そうですね。僕の多彩な魔法は異世界由来です。異世界だと魔法が一つしか使えない。なんていう縛りはなかったですから。逆に言うと、向こうもそれは同じ。赤宝族は魔法のエキスパートです。彼らは実に多彩な魔法を使って戦いを挑んでくるでしょう」
「……っごく」
「れ、蓮夜くんと同じ……」
「おいおい。マジかよ、それ。勝てんのか?うちらは……勇者、何だろ?お前は異世界でどれくらい強かったんだ?異世界人でお前に勝てる奴っていたのか?」
「あぁ、いないですよ?向こうが今、どんな状況か。僕が去ってからどれだけ経っているのか。何もわからないので確実とまでは言えないですが、少なくとも僕がいた時代で自分の足元に及ぶ存在はいませんでした」
「す、すごい自信ね」
「唯一、僕以上と言えた規格外の存在にもしっかり勝てましたからね」
異世界ではもう本当に僕と魔王だけだった。
ありとあらゆる戦場でどちらがより力を発揮できる。それでしか勝敗が左右しなかった。
それだけ魔王はあの異世界に生まれた存在として異質だったし、その存在に対処できる存在として女神さまも出張って召喚してきた僕も一緒に異質だった。
「……むぅ」
それにしても、あの女神さまは一体何なんだ。
僕は異世界を救った救世主と言えるはずなのに、そんな僕の生まれ故郷は異世界人の手で大変なことになっているんだけど。止めてよ、女神さまが。
「……えーっと、それに、向こうは何か弱体化していますね」
「弱体化?」
「えぇ、そうです。ずいぶんと感じる魔力が少ないですし、身体能力もだいぶ下がっているように見えました。少なくとも、自分の知る赤宝族の男であれば、僕の蹴り一つに辛うじて反応して両腕が引きちぎられる事態は何とか避けるでしょう」
「何だよ!じゃあ、よりお前は飛びぬけているわけだ!一人で勝てるんじゃねぇか?」
「まぁ、僕も弱体化していますが」
「……えっ?あれで?」
「僕は魔力と身体能力こそ全盛期のままですが、その他中々強い能力が使えなくなっています。そのせいで器用な戦い方は全くできませんね。ただ殴る蹴る斬るくらいしかできないんですよ。そんな状態なので一人では勝てませんね」
「いや、蓮夜くんを一人にはさせないわよ」
「一人で勝つつもりだったのかとちょっと引いているぜ……」
「一人で勝てるなら一人で勝った方がいいでしょ」
「流石に貴方一人にそこまで背負わせられないわ。今、お上もあの宣戦布告を聞いて動いているわ。近々、すべての魔法少女を集めての対策会議が開かれる予定になっているわ。そこでみんなで戦う……それだけだけど、貴方の事情はどこまでの人が知っているのかしら?」
「政府高官は知っていますね。自分の父親が上手く自分についての情報を回してくれています」
「最低限の人は知っていたのね」
「えぇ」
「それなら、貴方の情報はこのまま伏せておきましょう」
「良いんですか?」
「えぇ、貴方から聞いた赤宝族の情報は私たち公安魔法少女第三課が秘匿任務の果てに得た情報、ってことにしておくわ。貴方が異世界の関係者ということを今、話すのは少しマズイわ。他の魔法少女たちからの私たちへの評価は今や地に落ちているもの」
「……あぁ」
「そうね。今まで見下していた相手が実は、私たちを殺す時の為にただ手札を伏せていただけだった、となれば見え方が悪いわね」
「見え方が悪いとかそんな次元でもないな。普通に嫌過ぎる。私だったら毛嫌いとかそんな次元じゃない嫌い方をするぞ」
「……」
あらら、そこまでこじれるのね。
異世界だと割とよくある話だから別に僕は特に思わんけど。
「私は疑っていない。でも、一条くんを異世界の内通者だと疑う者がいるかもしれないわ。だからこそ、この情報は伏せる。それで異論はないかしら?」
「僕のことを思ってわざわざありがとうございます」
「もちろん」
「おう、良いぜ。蓮夜の坊主には何度も助けられているからなぁ。私たちに出来ることがあればある程度はしてやらねぇと」
「それじゃあ、私たちの対策会議での方針は他の魔法少女の不満は無視。一条くんの情報は極力伏せる。これで行きましょう?」
うわ、改めて聞くと中々に酷い宣言だ。
全然周りと協力するつもりがない。
「はい」
「そうしましょう」
「良いね」
でも、その方針に対し、僕たち三人は頷くのだった。
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