ピアス
「ただいまぁ」
ロシアの諜報機関として生まれた早見。その彼女を捕まえようと動く諜報員たちから早見が逃げていたのが昨夜。
何とか追手を振り払って帰ってきた家に蓮夜も朝になって帰ってきていた。
「夜ご飯だけ食べて帰ってくるつもりが、カラオケやら何やら行って、何だかんだで朝になっちゃったよ」
「んっ、おかえりなさい」
そんな蓮夜を早見が出迎える。
「あっ、ごめん。起こしちゃった……は流石にないか」
「うん。今日はちょっと早起きだったの。たまにはいいものね」
「早見さんが早起き……珍しいこともあるものですね」
「久しぶりに友達と会っていたんでしょう?どうだった?」
「いやぁ、楽しかったですよ。ほんと、久しぶりに会えたわけだからねぇー……いや、まぁ、僕はいなくなっていた時の一年分の記憶ないからそんな特別感なかったんですけど」
「あぁ……そうか。他の人たちだけが久しぶりなのか」
「ただ、みんな結構変わっていましたよ?変化と言えば高校の学年が上がるくらいな一年だというのに、みんな結構変わってました……自分は見た目の変化なんてほとんどなかったのに」
「えっ?いや……格好は魔法少女でだいぶっ」
「んっ?」
「いや、何でもないわ」
「あっ、そうですか?なら、いいですけど……あー!そうそう。一つ、凄いところもあって」
「んっ?」
「最近、ピアス禁止の校則がなくなったとかで友達がピアスをつけていたんだよねぇ。いや、ほんとちょっと信じられなくて!」
「へ、へぇ……ピアス」
「そっ。いいですよねぇ、ピアス。ちょっとつけたいんですけどぉ……うーん。あんまそんなタイミングもないんですよねぇ」
「っ。あっ、つけたい、んだ?」
「そうなんだよね。昔から憧れで」
蓮夜は早見の耳につけられているピアスへと視線を送りながらそんなことを話す。
「じゃ、じゃあさ」
そんな視線を受けていることを自覚している早見は蓮夜の耳へとそっと手を伸ばしながら口を開く。
「ピアス、開けてみる?私のピアッサー……まだ、残っているよ?」
「えっ?良いんですか?なら、お願いしたいかもですっ」
「う、うん。任せて」
ダメ元で告げた早見の言葉に蓮夜は迷いなく頷き、そのまま自分の耳を早見の方へと向けてくる。
「……っごく」
綺麗な耳だ。
そっと、蓮夜の耳を取る早見はそんなことを思う。魔法で治しているのか?それとも、耳が潰れるようなことはしていないのか。
自分のものとは違う。何処までも綺麗な耳を手に取りながらそっと、ピアッサーを彼の耳に添わせる。
「じゃあ、開けるね?」
「はいっ、お願いします」
ピアッサーを持ってきた早見の前で蓮夜は無防備に目を閉じて彼女の方に耳を差し出す。
「いっつ」
そんな蓮夜の耳へと早見はピアッサーを当て、そのままそっと穴を開ける。
「うぅん……どれだけ強くなってもこういうのは痛いのかぁ。あんまり痛いと思ったの納得してないですけどぉ。久しぶりに痛みですよ」
「そ、そうなの……」
不満そうな蓮夜の言葉に早見は生返事を返しながら、彼の耳へと視線を送る。
僅かに、流れてくる血。
恐らく、初めて開けられたであろう穴。
それを眺めながら早見はほの暗い感情を覚える。
自分とはまるで違う世界の人間。何もかもが違う子だ。なのに、自分が守れなかった弟の面影を見てしまう。目を離せない。どうしても、心惹かれてしまう。惹きつけられる。もしも、自分の弟が今も生きていたきっと……。
いや、きっと違う。蓮夜くんは私たちの生きていた世界の人間ではないのだから。
陽だまりのような、太陽なような、何処か他人を強く惹きつける男の子。
本来、地に塗れ、泥にまみれた私なんかが触れちゃいけない子だ。
それでも、この子は今、私の前にいるのだ。そして、今、私の色に染まろうとしている。
その事実に何処か、興奮を覚えてしまう自分が確かに存在していた。
「(……今、この子は私の手の中にいるのか)」
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